佐伯屋
海外コンプレックス
第6回・平成14年2月25日
Jリーグ開幕前、戦力分析から考えた順位予想その2

 迂闊だった。昨日、鹿島アントラーズと清水エスパルスによるゼロックス・スーパーカップを見逃してしまった。新聞のテレビ欄を見ても私の視界には入ってなかった。それぐらい忘れていたのだ。その理由はプロ野球・阪神タイガースのオープン戦の方が気になっていたからだ。星野阪神の船出となる大事な試合だったのだ。サッカーファンとして全く情けない限りである。
 さて今回はあともう少し頑張れば、運さえあれば、優勝も可能かな?という2チームである。

清水が優勝に手が届かないのは薄い選手層のため
 その中で筆頭にいると思われるのが2001年天皇杯覇者の清水エスパルスだ。日本代表の「フラット3」の中心・森岡、トルシエ監督が「日本のデシャン」と評価した伊東、同じく「グァルディオラ」と言われた戸田(タイプが全然違うと首を傾げるサッカーファンは多いことだろう)、そして帰化申請が受理された左サイドの核弾頭・三都主アレサンドロとワールドカップ日本代表候補(しかもレギュラー有力)を揃え、他にも毎年アシストランキングの上位に名を連ねる市川や、清水のエースを長年務めている澤登に、その澤登を追い抜かさんと意気盛んな平松など好選手が揃っている。図Dが新シーズンの予想布陣だ。

図D:清水予想布陣

        ●      ●
       バロン   久保山

            ●
           澤登

  ●                    ●
三都主                 市川

        ●       ●
       戸田     伊東
    ●               ●
  ペツェル            斎藤

            ●
           森岡

            ●
           黒河

 にもかかわらず、優勝に手が届かないのは薄い選手層のためである・・・。というのは清水を分析するにおいて付きまとう問題である。GKからFWまで能力のある選手はいるが、主力を欠いた時にその穴を埋める選手がいない。能力が足りなかったり、潜在能力はあっても戦術理解度が低かったり・・・。つまりレギュラーと控えの実力差が大きいということだ。まさに主力が怪我しなければコンディションを崩さなければ優勝に手が届くであろうというチームである。しかし、選手層を分厚くするためにバックアッパーを補強する潤沢な資金はこのチームにはない。今から6年前、清水はJリーグブームの後退とACミランのベテランストライカー、マッサーロ獲得に象徴される乱脈経営が祟って、チーム倒産の危機に陥ったことがあった。だが、その時は幸い、当時のアルディレス監督らスタッフやキャプテンの澤登以下の選手達が給料の大幅削減にも関わらず一致団結してチームに残留し、また鈴与銀行他、地元静岡の資本が救済に乗り出したことでチーム消滅は免れた。故にトレードによる補強以外の方法で選手層を厚くする、これが清水の課題である。

ベテラン復権
 とはいえ、昨季、欠場したレギュラー選手の穴を埋めるため、控え選手を使い回したため、その課題の解決は進行しつつある。特にベテラン選手の活躍が昨シーズンは目立った。例えば森岡や斎藤といったDFの主力不在時に穴を埋めたのが大榎だった。天皇杯決勝ではセレッソ大阪の岡山の高さに苦戦させられたように空中戦に不安は残るが、元々守備的MFだけにカバーリングや前線へのフィードは全く問題ない。また昨季ボランチの控えを務めたのが吉田である。吉田は鹿島時代にあのジーコに才能を高く評価されていたが、スタメン定着はならず、鹿島を放出されて数チームを渡り歩いた後、清水にたどり着いて、昨季は戸田や伊東の不在を感じさせない働きを見せた。そしてFWの横山は本来レギュラーの久保山からスタメンを奪う活躍を見せた。小柄ながらスピードがあり、長身FWバロンの背後に抜け出すプレーでしばしば貴重な得点を奪った。彼らベテランは年齢の問題もあってシーズンフルにレギュラーを任せるのは難しいとしても、1、2試合ならレギュラーと遜色無い活躍を見せるだろう。
 しかしベテランとは対照的に若手があまり育っていないのは気になるところである。現在のゼムノビッチ監督は、3−5−2で両サイドのウインガーが相手のサイドを崩してクロスを上げ、FWもしくは2列目、3列目から飛び込んできたMFがそれに合わせるという、アルディレス、ペリマンと踏襲されてきたのとほとんど同じ戦術を使用している。だから戦術理解には苦しまないはずであり、清水という選手層の薄く、しかもアジアのカップ戦もあって出番が多い。

苦戦を強いられる清水のスカウト
 昨年は清水ユース育ちの平松がスタメンを確保できるレベルにまで成長し、市立船橋高校で高校選手権優勝を経験したGK黒河も定位置争いに参入しているが、彼ら以外はせいぜいベンチである。清水の若手選手は下部組織である清水ユースの出身者が多い。だが、過去、清水ユース出身者で現在レギュラークラスになっているのは市川と平松ぐらいだ。
 もっとも、彼ら以降の人材が育っていないというのは単純に選手の素材の良し悪しという問題もある。いくらサッカー王国静岡といっても、当地の優秀な素材を全員、清水に引き入れられる訳ではない。同県内にジュビロ磐田というライバルがいて、更に清水商業、清水東、静岡学園、藤枝東、東海大翔洋(旧・東海大一高)など全国的知名度を誇る高校勢とも人材のスカウト合戦を繰り広げなければならないのだ。しかも、そうした高校の人材は必ずしも地元清水を向いている訳ではなく、県外の浦和レッズや名古屋グランパスなど資金力のあるチームに引き抜かれてしまう。それが清水のスカウトにとって頭の痛いところだ。かといって他府県の高校生を獲得するのもまた資金力の無い清水にとって分が悪い。有望な選手は数チームとの競争を得なければ獲得できないからだ。どうしても他チームのスカウトの目が向いていない選手を取らなければならない。今季、清水が獲得した青森山田高校のブラジル人留学生ジュニーニョにしても今季の高校選手としては目玉の一人ではあったが、外国人枠を一枚削らなければならないため他チームのスカウトは手を引いたから取れたのだろう。まあ日本に帰化して第2の三都主となる可能性も無きにあらずだが。
 結論を言えば、清水の選手層の薄さを解決するには、若手を実際に試合で我慢して使ってねばり強く育てていくしかない。新シーズンはJリーグとナビスコカップの他にアジアカップウィナーズカップもある。選手層の薄いチームにとって一見きついスケジュールに思える。しかし、ここは若手を試すチャンスが増えたと逆転の発想をすべきだ。後の五輪代表候補になるであろうDF池田、京都産業大学中退の高木、それからヴァンフォーレ甲府からの復帰組の谷川や太田など、チャンスを与えられたらぜひ奮起して、我々、外野の予想を裏切ってもらいたい。

なぜリベロではなくボランチを取ったのか
 柏レイソルは昨季優勝候補の一角と目されながら精神面の弱さが祟って大きく期待を裏切った。第1ステージ低迷の責任を取って西野監督は半年でチームを去り、元清水のペリマン監督を迎え入れた。柏フロント陣にしてみれば同じ3−5−2で強力なチームをつくったペリマンなら柏手も同じことが出来るはずと思ったのだろうが同じ3−5−2といっても、特に両サイドは、清水には一人で突破できる市川や三都主がいたが、柏の渡辺光も平山も周囲のサポートがあって力を発揮する選手だけに、清水のサッカーをそのまま当てはめるという訳にはいかなかった。ペリマン監督にとっては第2ステージは戦力を見極めるためのシーズンとなったのではないか。
 さて、今年の柏のストーブリーグを考える時に必ず話題に上がるのが洪明甫の退団であろう。洪明甫はここ数年、柏の守備と精神面を共に支えてきた中心選手である。洪明甫はアジア最高のリベロと言われてきた名選手だが、カバーリングや攻撃センスは絶品だが1対1には衰えが見えていたことも確かである。本人が韓国・Kリーグへの復帰を希望したこともあるが、契約を延長しなかった理由はそこにあるのだろう。そして代わりに獲得した外国人が元ブラジル代表MFセザール・サンパイオである。サンパイオの実力は横浜フリューゲルス時代といいセレソンといい疑いの余地はないが、私にとっては少し頭を傾げる補強でもある。なぜ洪明甫と同じタイプのDFを取らずに守備的MFを取ったのか。

柏は柳相鉄をどう使うのか
 まさかサンパイオに洪明甫の後釜としてリベロをやらせるのではあるまい。柔軟性のあるブラジル人選手だから出来ないことはないだろう。しかしサンパイオは横浜F時代(現FCバルセロナのチャーリー・レシャック監督の頃)にDFをやらされたことがあったが、DFとして後方に止まっていることに我慢できず、ポジションを無視して何度も攻め上がりにいった選手だ。ベテランになって当時とは考え方も違ってきてはいるだろうが、適性がDFではないことは明らかである。ならば守備的MFとして使うのが普通の考えだが、ここにはすでに韓国代表の柳相鉄と日本代表の明神という実力者がいる。どちらかを外してサンパイオを使うというのも勿体ないのではないか。もっとも、二人とも複数のポジションが出来るからコンバートもありうるが。とはいえ、明神の右サイドハーフ起用はやめた方がいい。これまた日本代表ですでに彼の適性が右サイドにないことは証明されている。明神の守備力と安定感そして運動量は右サイドでも買いだが、タテへのスピードか、正確なアーリークロスが無ければサイドハーフは務まらない。一方、柳相鉄の方はDFからFWまでをこなすアジア随一のユーティリティープレイヤーだ。しかも、ありがちな器用貧乏という選手ではなく、コンバートされた各ポジションで実績を残している希有な選手である。だがコンバート先として考えられるFWにはすでに北嶋と黄善洪がいて、トップ下には柏が粘り強く育ててきた大野がいる。だから「週刊サッカーーダイジェスト」の選手名鑑の予想布陣(図E参照)に柳相鉄の名前はなく、つまりベンチスタートという予想が有力になっているのだ。

図E・柏2002年予想布陣          図F・筆者の希望布陣

        ●       ●
       北嶋     黄善洪

            ●
           大野

  ●                   ●
 平山                 渡辺光

        ●       ●
     サンパイオ    明神

        ●       ●
       薩川     渡辺毅

            ●
           萩村

            ●
            南

        ●       ●
       北嶋     黄善洪

            ●
           大野

  ●                   ●
 平山                 渡辺光

        ●       ●
     サンパイオ    明神

        ●       ●
       薩川     渡辺毅

            ●
           柳相鉄

            ●
            南


 彼ほど身体能力があってポジション的に融通の効く選手が控えというのは勿体ないし、韓国代表として2002年W杯出場のために激しいポジション争いをしている選手がベンチ行きを承伏できるのか。ともすれば柏に混乱を持ち込み、優勝争いどころではない事態を巻き起こす可能性は十分にある。
 柳相鉄をサンパイオ加入という現状を考えて起用するポジションを考えるならDFしかも洪明甫の後釜としてリベロのポジションを託すしかあるまい。彼の攻撃センスをセットプレー時以外に発揮できなくさせるのは残念ではあるが、内部対立を回避するならそれもやむを得ない。しかし柳相鉄のDF起用には追い風が吹いていることも確かだ。最近、韓国代表でフース・ヒディンク監督は洪明甫が故障していることもあって代役に柳相鉄を起用している。最近数試合の韓国の堅守は評判であるがその中心選手が彼なのである。だから柏でもDFをやれるというのは韓国代表を考えても好都合であろう。故に私は図Fのような布陣をお薦めする。

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