第5回・平成14年2月24日
予定されていたタイトル「日本人ゲームメーカー必見。移籍するならこのリーグだ」と違って申し訳ない。この企画は日本代表で横浜Fマリノス・中村俊輔の2002年W杯以降のレアル・マドリー移籍が決定して思うところを書きたいので必ずやります。
さて今回は、ストーブリーグも一段落つき、キャンプに突入したところで各チームの戦力・コンセプト分析と、そこからJ1リーグ第1ステージの順位予想をしてみたい。とりあえず、「その1」は優勝候補編である。
前年、第2ステージ王者にして、チャンピオンシップ王者の鹿島アントラーズはここ数年中盤を支えてきたゲームメーカー、Jリーグ外国籍選手の顔とも言うべきビスマルクを切り、前年、スーパーサブとして幾度も窮地を救う働きをしてきた本山に後を託す予定である。本山は斬れ味鋭いドリブルで縦へ抜けてのクロス、サイドから中へ切り込んでスルーパスかミドルシュートなど決定的なチャンスを作り出せる攻撃的MFだ。ただ、潜在能力はピカイチでも90分を戦い抜くスタミナとフィジカルコンタクトに難がある選手で、同期入団で同じ「花の79年生まれ組」(この年に生まれた選手は他にフェイエノールトの小野やアーセナルの稲本、ボカ・ジュニオルスの高原らがいて、99年ワールドユースで準優勝、そして、その主力はシドニー五輪、フル代表と名を連ねる、技術的には際立って優れた年代だと言える)の小笠原や中田浩二がすでにスタメン定着しているのに対し、ベンチスタートを余儀なくされてきた。しかし、ビスマルクに引っ張られながらプレーしてきた小笠原が前年ついに一本立ちし、中田浩も代表でDFをやらされることで守備力が上がり、鹿島の中盤の指揮を任せられる存在に成長した。本山のスタメン起用は本人だけでなく周囲の成長も寄与しているのである。
しかし、スタメン本山が機能するかはやはりフタを開けてみればわからないものだ。下図Aの『週刊サッカーダイジェスト』2月20日号の予想布陣を見れば、かなり攻撃的な布陣である。
図A・鹿島2002年予想布陣
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鈴木 柳沢
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本山 小笠原
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中田 熊谷
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アウグスト 名良橋
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ファビアーノ 秋田
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曽ヶ端
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特に左サイドはMF本山に加え、DFの位置から前線へガンガン上がるアウグストと攻撃的なドリブラーが揃っており、攻撃を前年よりスペクタクルなものに変化させる可能性もあるが、守備のバランスを著しく狂わせる可能性もある諸刃の剣である。おそらく守備的MFの中田浩が本山、アウグストが開けた左サイドのスペースのカバーに忙殺され、それによって前年のような中田浩が3列目から飛び出して得点を奪うようなシーンは少なくなるだろう。また中田浩と中盤の底でコンビを組む熊谷も攻撃が好きな選手だけに、彼まで攻撃参加してしまうと後方に残るDF陣にとって厳しい場面を迎えることになってしまう。そういう事態が起これば本山、小笠原、アウグストらオフェンシブな選手が過度に全体のバランスを考えてしまい、自身の特徴をスポイルしてしまう。だから誰を中心にして誰に我慢をさせるのか、それをセレーゾ監督は明確にすべきである。
また鹿島ぐらいの優勝を義務づけられたチームなら万が一を考えて保険をかけておくことも必要である。前年、第1ステージで苦戦したのは、左サイドバックの相馬が長期欠場を強いられ、代わりの選手ではその穴を埋められず、左サイドのカバーをチーム全体が気にしてしまうことでチームのバランスが狂ってしまったからだ。結局、バランスの修正には第1ステージを犠牲にした上、アウグストの加入を待たなければならなかった。鹿島ぐらいよく組織されたチームでも一人選手が替わっただけでそうなるのだ。この教訓を生かすなら本山が失敗したときも考えてバックアップを獲得すべきだが、今の鹿島にその人材は見当たらない。ビスマルクはもういない。鹿島ユース出身の野沢は潜在能力はあっても試合経験で本山より更に落ちる。アウグストもしくは中田浩を本山の位置にコンバートする手もあるが、セレーゾ監督がそのタイミングやコンバートした後に置く選手を見誤ったり、バランスの修正が遅れるとチームに混乱を持ち込んでしまう。
一人の選手に全責任を背負わすのもどうかと思うが、やはり第1ステージの鹿島の浮沈は本山次第である。それもバックアップがいないからだ。これを本山を一本立ちさせるためのプランと深読みしてもいいが、そのプランが破綻すれば前年の二の舞はあり得る。だが、たとえそうなっても第2ステージで優勝して、チャンピオンシップをもかっさらってしまう嫌らしさを持っているだけに、第1ステージを本山育成のために捨てる可能性も十分考えられる。
前年、年間最多勝を記録しながら鹿島にチャンピオンシップをかっさらわれてしまったジュビロ磐田は今季も組織的なプレッシングサッカーに取り組む。布陣は3−5−2だが、世界各国でよく使われる3−5−2とは様相が違う。図Cの2001年12月に日本と対戦したイタリア代表の先発布陣と比べれば一目瞭然である。
図B・磐田2002年予想布陣 図C・〔参考〕イタリア代表布陣
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中山 高原
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藤田 西
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名波
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服部 福西
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大岩 鈴木
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田中
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ヴァン・ズワム
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デル・ピエロ F・インザーギ
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トッティ
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ココ ザンブロッタ
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アルベルティーニ ガットゥーゾ
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ユリアーノ カンナバーロ
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ネスタ
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ブッフォン
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図Bは前年の第1ステージの名波健在時のフォーメーションを元に新シーズンの予想メンバーを当てはめたものである。3−5−2と言えば図Cのザンブロッタやココのようにサイドラインいっぱいに開いてウイング的な動きをするサイドハーフが付き物であるが、磐田の3−5−2は図Bのようにそれがいないのである。じゃあ、誰がサイドのスペースを守るんだ?ということになるが、西も福西も藤田も服部もサイドの守備をするのだ。つまり特定の選手がサイドを守るのではなく、磐田の中盤の選手は攻守に機を見てサイドでもセンターでも働かなければならないのだ。まさにトータルフットボールである。トータルフットボールとは1974年W杯でリヌス・ミケルス監督とヨハン・クライフ率いるオランダが初めて披露し、80年代後半にACミランのアリーゴ・サッキ監督が発展させたサッカーの一形態である。DFは守りFWは攻めるといったポジション別の役割分担ではなく、DFも攻めFWも守る、11人全員があらゆるポジションで守備から攻撃まで全てこなさなければならないものだ。鈴木監督率いる磐田はトータルフットボールを志向しているのである。そして世界に類を見ないこのシステムは3−5−2の進化形になる可能性を秘めている。
ただし、このシステムは前年、第1ステージでは圧倒的な強さを見せたが、名波の長期欠場により図Cのようなオーソドックスな3−5−2に変更したため完成には至っていない。その第1ステージで少しだが弱点を見せたことも確かである。プレスがかかっているうちは問題ない。磐田が中盤の5人をあのような特殊な形にするのはピッチ中央部のボール保持者に、二重三重の分厚いプレスをかけるためであり、たとえ相手にサイドへボールを出されてもそれは苦し紛れのパスだから、特定のサイドハーフを置かなくても十分対応できるだろうという発想ゆえである。しかし後半にバテてプレスが緩くなると、例えばセレッソ大阪の大久保や浦和の田中といったサイドで張っているドリブラーの選手に守備を混乱させられる場面が見受けられた。これは特定のサイドハーフがいないことと関係している。対戦相手はそこのところを新シーズンは突いてくるはずだ。鈴木監督もおそらく、そうしたサイドアタック対策を考えてなのだろう、新シーズンは服部と福西を前年より開き気味に配置して両サイドのスペースをカバーさせる新システムを試しているという情報もある。
選手の方を見てみよう。ストーブリーグで日本代表ドリブラー奥と、高原のボカ移籍後その穴を埋めていた清水を失ったことで確かに選手層は薄くなった。しかし、奥は「トップ下でプレーがしたかった」と本人も言っているようにシステムの関係上、得意とするトップ下でのプレーをさせてもらえずサイドで息苦しそうにプレーしていた。FWの清水の移籍も高原の復帰で大きな痛手にはならない。控えにも次期五輪代表エースと目される前田とスピードスター川口がいる。むしろ大きな痛手となるとすれば、日本代表アジアカップMVPの名波と2001年JリーグMVPの藤田が欠場することの方である。この二人こそ替えの効かない屋台骨であり、他チームに対するアドバンテージである。二人が同時にいるのにこしたことはない。どちらか一人だけ欠けるだけなら昨年第2ステージを見ればわかるように、まだ磐田サッカーのクオリティは失われない。服部や福西をコンバートすることで問題は解決される。しかし二人同時に欠場となると磐田サッカーはもう成立しない。バックアップがいるとかいないの問題ではない。彼らほど技術があって、それに頼り切ることなく豊富な運動量も高い戦術理解度も持ち合わせている選手は他にはいないからである。名波は昨年来の怪我のリハビリのために開幕には間に合わないという。一方、藤田の方は例年通り、開幕に臨めそうだ。磐田ファンはこの二人が同時に欠場しないことを祈るべきである。それがなければ、月並みな予想となってしまうが鹿島と磐田が第1ステージ優勝候補の2大巨頭であることは間違いない。