佐伯屋
海外コンプレックス
第15回:平成15年1月20日
浦和レッズのストーブリーグを追う

2003年行く人来る人
  すでに明らかになっているように浦和レッズのストーブリーグは、出場機会の少ない元有望株のレンタルと移籍リストに載ったチームをお払い箱選手のトレードに終始する、Jリーグのお寒い移籍事情を考えれば、近年希に見る活況を呈している。
  平成15年1月20日現在で、大学ナンバー1のセンターバック小林(筑波大)に、元日本代表の長身GK都築(ガンバ大阪)、アテネ五輪でも中心選手として期待されるゲームメーカー山瀬(コンサドーレ札幌)、そして元ブラジル代表の「アニマル」ことエジムンドと、各チームの主力級を獲得した。更には、昨年の日韓W杯での活躍が記憶に新しい戸田(清水エスパルス)、天皇杯で優勝に貢献した左サイドハーフの鈴木(京都サンガ)、機動力溢れるボランチの酒井(名古屋グランパス)まで狙っているという。
  その一方で、浦和のシンボルとして長きに渡って君臨してきた福田や、かつてのアジアの壁・井原といった「ドーハの悲劇」を知る大ベテランとは契約を結ばず、また、DF池田、MF吉野や山根、FW早川といったユース年代で高い評価を得ていたがプロでは芽の出なかった「有望株」の放出に踏み切るなど、リストラも断行された。
  これらすでに加入した選手および、これから加入する可能性のある選手が、今の浦和レッズにどういう影響を与えていくか。今回は山瀬とエジムンドの二人に絞って見ていきたい。

第1ステージは有意義な準備期間
  とはいえ、その分析の前に昨季の浦和レッズを総括する必要がある。
  2002年の第1ステージは5勝1分9敗の勝点14と成績は振るわなかった。日本のサッカー事情を熟知しているが、就任して間もないハンス・オフト監督にとっては手探りの状態でのスタートであり、選手側もこれまでの自由奔放なブラジル流から組織的な欧州流への路線変更だっただけに戸惑いがあったのだろう。オフト監督が導入した井原を中心としたラインの深い3バックは、失点24(ステージ8位)とそこそこだったが、エメルソンとトゥットという驚異的なスピードを持つFWがいる割には得点21と延びず、J2から昇格した2001年と変わらぬアバウトな攻撃を繰り返していた。
  しかし第2ステージでの躍進を思えば、第1ステージは有意義な準備期間として捉えることができる。開幕からレギュラーを掴んでいた福岡大出身の新人センターバック坪井が足腰の強さを存分に生かしたマークで、高原(磐田)やアマラオ(FC東京)、オゼーアス(神戸)などJリーグを代表するセンターFWをほぼ完璧に押さえ込み、守備力のアップに大きく貢献した。また、中盤での少ないボールタッチによるシンプルな繋ぎと、右の山田、左の平川によるサイド攻撃の意図が確立され、攻撃の整備が行われた。その効果によって、エメルソンとトゥットに永井を加えた3トップのスピードを生かしたドリブル突破が、より威力を発揮できるようになったのである。かくして第2ステージの浦和は、9節までに8勝1分け0敗の勝点21、得点19に失点7という第1ステージを上回るハイペースで、ジュビロ磐田を抑えて首位に立ったのである。
  ところが9節以降、浦和は突如として失速を始める。その理由を端的に言えば10節から最終の15節まででたったの1点しか獲れなかったのだ。この失速の原因を考えることによって、浦和の問題点そして補強のテーマが浮き彫りになってくる。

図A:2002年、浦和レギュラー布陣       図B:2003年、浦和予想布陣

    ●        ●       ●
   トゥット    エメルソン   永井

             ●
            福田

  ●                    ●
 平川                  山田

              ●
            鈴木

        ●         ●
       内舘        坪井

             ●
            井原

             ●
            山岸


         ●        ●
      エジムンド   エメルソン

              ●
             山瀬

   ●                   ●
  平川                 山田

         ●        ●
        内舘       鈴木

         ●        ●
        小林       坪井

              ●
            ゼリッチ

              ●
             都築


対戦相手はエメルソンとトゥットのスピードを警戒
  なぜ浦和は突如として決定力不足に陥ってしまったのか。
  第2ステージで猛威を振るってきたエメルソン、トゥットという浦和が誇るストライカーに対して、9節以降の対戦相手はそのスピードを警戒し、DFラインをかつてのトルシエ・ジャパンのようには上げず、とにかく裏のスペースを与えない守り方を始めたのだった。その典型的な例が12節のジェフ市原戦である。この試合では、市原は開始早々の先制点の後、DFラインを引いて守り、この二人に置き去りにされないようにしたのだ。相手DFの裏へ抜けるスペースを失い、DFとの1対1で勝てなくなった(勝ったとしても他の選手にカバーされた)エメルソンとトゥットに局面を打開する術はなく、サイドからクロスを放り込まれても、空中戦ではJ屈指の高さを誇る市原のセンターバック、ミリノビッチ(スロベニア代表)にもちろん勝てず、またブラジル代表のロマーリオのような狭いスペースでも得点できる技術を二人とも持ち合わせていないことから、この試合、浦和は何度も攻めながらも最後の一線はついに突破できなかったのだ。
  勿論、攻撃はFWだけで行われるものではないから、エメルソンとトゥットに全責任を背負わせるのは無理がある。相手が守備を固めたために、FWが相手DFとの1対1で勝てないなら、2対2あるいは3対3の局面をつくって連係プレーで相手の守備を崩せばいいのである。

中盤からのチャンスメイクの欠如という問題
  ところが、そうした連係プレーという点に昨季の浦和は難を抱えていたのだ。その原因は二つある。
  一つは、昨季の浦和には「指令塔」と言えるMFがいなかったことである。浦和のMFには日本代表の中田英や中村のような、得点につながる決定的なパスを出せる選手がいなかった。ただし、厳密に言えばそれは正しくない。というのは開幕当初は、左足で華麗なパスを出せるうえ中盤で汚れ役もできる阿部や、豊富な活動量で攻撃を活性化させるブラジル人のアリソンといった中盤の「指令塔」候補はいたからだ。しかしオフト監督はこの二人を、中盤でのシンプルな繋ぎと献身的な守備というチームコンセプトに合わないと判断したのか、シーズン半ばで放出してしまったのである。その結果、中盤からのチャンスメイクの欠如という形で、第2ステージ後半戦になって、自らの首を絞めてしまったのである。だからこそ札幌の指令塔・山瀬の獲得に踏み切ったのだろう。
  しかし「指令塔」を新たに中盤に入れるだけでは、中盤からのチャンスメイクの欠如という問題は解決しない。確かに今季はトップ下に入るであろう山瀬から、以前よりは毛色の変わったパスが配給されるだろうが、エメルソンとトゥットのスピードに依存した攻撃は変わらないはずである。なぜなら、この二人が1対1での突破に固執する限り、中盤以下の選手との連係は生まれないからである。浦和のトップ下に、かつてJリーグで得点王を取ったこともある福田が今季は27試合でたった3点しか取れなかったのは、エメルソンとトゥットに、周囲を使って連係プレーよって相手守備を崩す意識がなかったからである。これが連係プレー不在の原因の二つ目である。

合理的な連係プレーか、野性的なゴールへの執着心か
  そこで、連係プレーを生み出すには、エメルソンとトゥットの二人が、速攻で1対1を仕掛けるだけでなく、時には前線でボールをキープし味方の攻撃参加を引き出すといったプレーも状況によって選択できるようにならなければならない。しかし問題なのは、その指導方法を間違ってしまうと、この二人の良さである単独でゴールを奪ってやろうという野性的なゴールへの執着心をスポイルしかねないことである。エメルソンとトゥットの良さを生かしつつ、いかに連係プレーを習得させるのか。
  ところが、この問題について浦和のフロントは別の形で回答を出した。浦和フロント陣は契約交渉が決裂したトゥットに見切りをつけ、東京Vとの契約交渉が決裂していたエジムンドを獲得したのである。エジムンドはトゥットほどのスピードや若さは無いが、圧倒的なボールキープ力を持ち、個人技で相手DFを崩す力も、連係プレーで周囲を使うことにも長けた名FWである。東京Vでそうだったように、エジムンドのボールキープ力があれば、中盤以下の選手はそのリターンパスをもらうために、前線のスペースへどんどん飛び出して行けるはずである。そうなれば、浦和の攻撃にはかつては無かった厚みが生まれるだろう。
  ここまで見てきたように、山瀬のトップ下、エジムンドとエメルソンの2トップというトライアングルは、浦和の良いときの破壊力をそのままに、浦和の攻撃の問題点を一気に解決する可能性を持っていると言える。

トップ下エジムンドに自由はあるか
  しかし、攻撃での連係プレーという問題は解決されるが、山瀬とエジムンドの二人の加入は新たな問題を持ち込む可能性もある。というのは、山瀬は昨季の故障がまだ癒えておらず、シーズン序盤はエジムンドが中盤トップ下に入るとも言われているが、問題なのは山瀬にしろエジムンドにしろ、自らのボールキープおよびドリブルによって中盤をつくっていくタイプであり、昨季オフト監督が中盤のセンターの選手に求めた1タッチ、2タッチによるシンプルな繋ぎとは互いに矛盾することである。これもまたオフト監督が指導を間違えれば、山瀬とエジムンドの良さを消し去ってしまう可能性があるのだ。ただし山瀬は21歳と若く、まだまだ学ばなければならないことが多いから、少ないボールタッチのプレーを習得することでプレーの幅を広げられるとポジティブに考えられるだろうが、エジムンドは最早プレースタイルの完成した選手だけにそうはいかない。しかも、かつてはプレーだけでなく生活態度のやんちゃぶりから「アニマル」と呼ばれたくらい自我の強い選手である。そのエジムンドが自らのプレースタイルを否定して、チームプレーに徹することができるのだろうか。それとも逆に、エジムンドにはオフト監督も自由を与えるのだろうか。エジムンドが中盤で起用された時は注目したいポイントである。

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