佐伯屋
海外コンプレックス
第16回:平成15年2月28日
2003年版・Jリーグ戦力分析
両サイドのバランスを考えるチームその@:浦和レッズ編

  今季の浦和の問題点は4つあるとされる。
  @DFリーダー井原引退に伴う後継スイーパーの発掘
  A中盤のパスワークの向上
  B決定力不足の解決
  C両サイドアタックの機能
  @については、私はあまり問題視していない。なぜなら、井原の統率力や経験といった精神面での貢献はともかくとして、能力面では坪井の守備範囲の広さにすでに多く助けられていた部分があるからだ。しかも、空中戦ではゼリッチ、スピードへの対応では筑波大から新加入の小林宏に軍配は上がる。この二人のスイーパーとしてのDFラインの統率力という点ではまだ未知数だが、決して戦力ダウンとは思わない。AとBの問題は、中盤のパスワークが良くなれば、それだけ決定機が生まれ、得点力が上がるため、両者密接にリンクしているが、MF山瀬、FWエジムンドの加入という「外注」によって一気に改善される可能性があることは、前回の海外コンプレックスで分析した通りである。今季の浦和の残る問題点は、C両サイドアタックの機能である。これが可能になれば、相手守備陣は、エメルソンとエジムンドの強力デュオのマークにどうしても引きずられるだけに、それによって空いたスペースを使った攻撃は、浦和にとって有効な武器になるはずである。

浦和の残る問題点・・・左サイドハーフ
  ところが、昨季の浦和の両サイドアタックは問題を抱えていた。3−5−2システムを採用するオフト監督のサッカーでは、サイドアタックの担い手は、中盤の両サイドハーフである。チーム全体の約束事として、サイドで1対1の状況をつくってもらい、対面するDFをドリブルで抜き去る、あるいはスピードを生かして裏のスペースを突くなど、サイドを深くえぐってセンタリングを上げる役割が両サイドハーフには与えられていた。右サイドは日本代表にも選ばれた山田で、アーリークロスの精度には難があるものの、攻守両方で1対1に強く、彼のドリブル突破は浦和の財産と言える。
  一方、昨季、左サイドハーフのポジションで最も多く起用されたのは、筑波大から加入した平川だった。平川は走力があり、フィジカルコンタクトにも強い好選手である。ただし、右利きで元々のポジションが右サイドバックのため、右足でボールを持ち、スピードを押し殺したゴールに方向に向かって行くドリブルや、アーリークロスが多く、しかも、その精度は高いとは言えなかった。左サイドでは持ち前の俊足を生かしたプレーを封印させられ、窮屈そうにプレーしていたのである。
  このことは平川本人のパフォーマンスのみならず、チームの攻撃面で影響を及ぼすことになった。山田のいる右サイドとは対照的に、左サイドでは、オフト監督が求めるサイド攻撃ができなかったのである。この結果、浦和の攻撃は右サイドからの突破に頼ることが多くなり、相手守備陣は当然、浦和の右サイドアタックの守備に重きを置き、浦和にはその状況を打開する術を持たなかったため、第2ステージ後半戦の浦和の得点力停滞の原因の一つになったのである。

昨季の浦和レギュラー布陣                筆者が希望する2003年布陣

        ●         ●
     エメルソン      トゥット

             ●
            福田

   ●                  ●
  平川                 山田

        ●         ●
       内舘        鈴木

        ●         ●
       室井       坪井

             ●
            井原

             ●
            山岸


         ●        ●
      エメルソン    エジムンド
       (永井)
              ●
             山瀬
             (山田)
  ●                     ●
 田中                    山田
(平川)                   (平川)
         ●         ●
        内舘        鈴木

         ●         ●
        室井        坪井

              ●
            ゼリッチ
             (山田)
              ●
              都築
             (山岸)

浦和へのルサンチマン
  では、この問題の解決はどうすべきなのか。やはり浦和のフロントは「外注」つまり移籍市場に活路を求めた。昨季、京都パープルサンガで天皇杯優勝に貢献するなど大ブレイクした鈴木慎を獲得しようとしたのである。今や日本代表入りも噂される鈴木慎は、縦へのスピードと強力な左足のキックを武器にする選手で、彼を獲得できれば浦和の問題は楽に解決したはずだった。しかも、平川を本来の右サイドで起用でき、また現在・右サイドハーフの山田を、井原引退で少し不安のあるセンターバックや、本人がかねてから望むセンターハーフへのコンバートが可能になるというおまけもついてくるはずだった。
  ところが、この移籍は失敗する。スポンサーである三菱自動車からの潤沢な資金を生かして各チームの主力級を買い漁った浦和だけに、資金面で不足はなかったはずである。そこで獲得失敗の原因として囁かれているのが、鈴木慎の浦和への怨恨である。実は鈴木慎は元浦和ユース出身の選手で、素質を認められトップチームに昇格するも芽が出ず、早々に放出され、社会人チームの横河電機やJ2のアルビレックス新潟などを渡り歩くことになったのである。そんな苦労人にとって、自らを塗炭の苦しみに放り投げた浦和へのルサンチマンは立身出世のモチベーションとなったに違いない。

今頃左サイドの心配は全く必要なかった
  結局、このポジションでの新戦力の補強はなく、現有戦力に頼ることになった。守備力があるだけに平川でもある程度の計算はできるが、より質の高いサッカーを目指すなら左のスペシャリストとも言うべき選手を起用したいところである。
  現在の浦和で、左サイドハーフ候補者は平川の他に、新潟から復帰した城定、2年目の三上らがいる。97年のワールドユース出場経験を持つ城定は、体格を生かした守備と、パワフルなドリブル突破を武器とする才能豊かな大型のサイドアタッカーで、順調に育っていれば今頃左サイドの心配は全く必要なかった。彼が問題なのは好不調の波が激しく、不調時にはプレーが緩慢になり、ミスを連発してしまうしまうことである。J2の厳しいサッカー環境を味わい、J1でプレーできることの喜びを感じて、精神面での成長を期待したいところであるが、果たして・・・。一方、三上は昨年の天皇杯で出場を果たし、積極果敢なオーバーラップを披露した新進気鋭の左サイドハーフ(バック)である。坪井、平川らと同じ2002年加入の大卒選手であり、彼らに続けと台頭したいところであるが、三上には大きな壁が立ちはだかる。それは、今季の浦和には、昨季のように新人選手が実戦で使ってもらって成長するのを悠長に待ってもらえる環境がすでにないことである。優勝が義務づけられた今季の浦和で、経験不足の選手を、心臓がえぐられるような緊迫した場面で使うのは難しいような気がする。

田中を左サイドハーフのレギュラーに推したい
  無論、彼らが台頭してくれるにこしたことはない。しかし現時点の浦和で、左右の攻撃のバランスの向上、すなわちチーム全体の攻撃力アップを考えるなら、彼らよりも田中の起用を考えてもいいと思う。左利きで身長167センチと小柄な身体から繰り出される、アルゼンチン代表10番オルテガばりの切れ味抜群のドリブルは、左サイドに開いてボールを持っている時に最も威力が発揮される。こうした俊敏さとテクニックを備えた選手は、相手が疲れてきた後半に投入すると大幅に効果を発揮するため、どの監督もゲームの流れを変えるスーパーサブとしてベンチに置いておきたいところで、オフト監督もその一人で、昨季は田中にその役割を与え、今季もまた、レギュラーFWが欠場する時以外は、後半から投入するつもりのようだ。
  だが、その優れた突破力を常時使わないのは勿体ない。田中が左サイドハーフでレギュラー起用するのに難があるのは、1試合通してのスタミナであったり、受けに回ったときの守備力(ディフェンス技術や逆襲時の戻りの早さ)に不安があるからである。しかし、そうした欠点については周囲の味方との連係によって十分補えるはずである。例えば、田中が攻撃参加した後ろのスペースは、守備的MFの内舘などが埋めればいい。勿論、田中本人にとっても守備を意識することで、プレーの幅がより広くなることはシドニー五輪出場、更には日本代表選出を視野に入れれば有益なはずである。よって、私は田中を左サイドハーフのレギュラーに推したい。
  ところが、ここまで書いたところ、田中達也、膝のじん帯損傷で2カ月離脱という情報が入ってきた。当面は平川の起用で落ち着くだろうが、オフト監督にはいずれ試してほしいオプションである。

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