佐伯屋
海外コンプレックス
第10回・平成14年3月29日
シーズン開幕後、ただの戦力分析その2

 今回はJリーグのチームの中では、ファンには申し訳ないが正直言って地味で、強豪かそれともプロビンチア(地方弱小チーム)か位置付けが難しい2チーム、ヴィッセル神戸とサンフレッチェ広島についての戦力分析をお送りしよう。地味で中途半端(失礼!)な2チームだが、オフシーズンの動きは対照的であった。神戸は御大・三浦カズの強い要望により大量補強が図られた。コンサドーレ札幌のスタメンFW播戸とJ2落ちしたセレッソ大阪から左ウインガーの西谷といった若手有望株を引き抜き、ネームはあるが近年は所属チームでレギュラーポジションを確保できていなかった城、岡野、平野らも獲得した。一方、広島はアンダー18代表FWの茂木を獲得したぐらいで、補強の動きは全くなかった。しかも逆にロシア人DFオレグやオーストラリア代表のコリカを失ったことで大きな戦力ダウンと言える。広島の経営母体フォード・マツダの引き締め政策の余波をモロに受けているのだろうか。

固い守備がウリのチームだった
 
神戸の補強は播戸、西谷、城、岡野、平野など攻撃面に力が注がれ、新シーズン、川勝監督は3−4−3の攻撃的布陣を採用している。それが下図Aだ。

図A:第3節、G大阪戦の神戸

            ●
            城

      ●          ●
     三浦         播戸

   ●                 ●
  西谷                岡野

        ●       ●
      アタリバ     望月

        ●       ●
       土屋      吉村

             ●
          シジクレイ

             ●
            掛川


 
昨シーズンまでの神戸と言えば、土屋やシジクレイといった屈強なDFを擁し、吉村や菅原といった運動量豊富な選手が中盤で動き回る、固い守備がウリのチームだった。川勝監督は現役時代パスセンスに優れた攻撃的MFだっただけにショートパスをつなぐ美しいサッカーを理想としていたが、ジュビロ磐田の藤田や横浜Fマリノスの中村のようなボールをさばける選手が神戸の中盤にいない現状のために、理想の実現は無理だと悟った。そこでツテを頼ってイタリアに渡り、アンチェロッティ監督率いるユベントス(当時)のトレーニングを見せてもらって研究し、自身の理想とは対極にあるカテナチオ(イタリア語で鍵をかけるの意。DFラインを深くして人数をかけて相手が使うスペースを無くし、攻撃は2トップによるカウンターという戦術形態)を導入した。それが昨シーズンまで神戸のサッカーだった。

後付の「攻撃サッカー」
 
ところが、新シーズンは攻撃サッカーへと大胆な方向転換を行った。確かに守っているだけでは試合には勝てないし、得点力は昨年の神戸の課題であった。ただし、この方向転換については川勝監督やカズらによる「攻撃サッカー」という理念に基づいて選手補強が行われたのか、あのような補強の結果として後付で「攻撃サッカー」という理念に至ったかわからないが、折角獲得したのだから全員使おうかという理由による「攻撃サッカー」に私は信憑性を覚える。というのもカズ、城、播戸の3トップに加え、サイドハーフも岡野、西谷とFWを使うある意味5トップという布陣はいくら何でもバランスが悪いし、また西谷とポジションがかぶっている元日本代表の「左サイドのスペシャリスト」平野のDFコンバート案は、計画性の無い補強の現れではないか。もう少し考えたバランスの良い補強はできなかったものかと思う。
 サッカーというものストライカーやドリブラーなど攻撃的な選手を揃えれば、それが即ち得点力アップにつながるほど単純なスポーツではない。なぜなら、ボールが無ければ攻撃はできないからだ。もし5トップで攻撃に専念できたなら破壊力は抜群だが、現実にはボールを相手から奪うためにFWも後方へ下がって守備をしなけばならない。しかも大方のFWは守備力に欠けるからボールを奪うのに時間がかかり、FWは勿論DFにも大きな負担がかかってしまう。よって守備での時間が多くなり、攻撃できないという悪循環に陥る。4トップだろうが5トップだろうが、ボールが無ければ攻撃力のある布陣にはならない、これがサッカーの理である。
 神戸は3節のガンバ大阪戦こそ3点を取り爆発したが、1、2節は0点というのは攻撃陣が守備を気にしてしまった結果ではないか。3節G大阪戦にしても、相手の立ち上がりの悪さを突き電光石火で2点を奪った前半とは一転して、後半はG大阪のマルセリーニョにいいように両サイドの岡野、西谷の裏のスペースを使われ決定的なクロスを配給され続け、両サイドハーフのポジションは下げられて5バック状態になり中盤は支配された。マグロン、松波といったG大阪FW陣の決定力不足、土屋やシジクレイらDF陣の健闘、そしてGK掛川のビッグセーブの連発が無ければ大量失点もあり得た。「5トップ」が機能している時はいいが、受けに回ると非常に危うい。DF陣の崩壊は時間の問題のように思える。

神戸の「3トップ」の問題点
 ヨーロッパでも神戸と同じ3−4−3を採用しているチームはいくつかあるが、特徴的なのは3トップの両サイドはサイドラインいっぱいに開いて、ウイングプレーをすることだ(下図B参照)。

図B:ザッケローニ監督時代のACミラン  図C:筆者推薦の神戸布陣

            ●
         ビアーホフ

  ●                   ●
 ウェア             レオナルド

  ●                   ●
 グリエルミンピエトロ    ヘルベッグ

       ●        ●
 アンブロジーニ   アルベルティーニ

   ●                ●
 マルディーニ         サーラ

            ●
         コスタクルタ

            ●
         アッビアーティ


         ●     ●
        三浦     城

  ●                  ●
 西谷                 岡野

      ●          ●
     望月         吉村

            ●
          アタリバ

        ●       ●
       土屋      北本

            ●
          シジクレイ

            ●
           掛川


 このポジショニングによって対面のDFに「お前がオーバーラップしたら俺は裏を取るぞ」と、自らの攻撃力をちらつかせることで攻撃参加を抑制でき、サイドの大きなスペースをカバーしなければならないサイドハーフの負担を軽減できた。だが欠点はセンターFWと両ウイングの距離が遠すぎて、センターFWが実質1トップとなって孤立してしまうことである。しかし、神戸の3トップはウイングプレーをさせる訳ではなく、むしろカズ、播戸、城の3人が近い距離をとって連係を高めることを目的としている。そのため、サイドの大きなスペースをサイドハーフが一人で守らなければならず、相当タフな選手でなければ務まらない。だが、神戸の両サイドはFW出身の岡野と西谷だ。攻撃に関しては言うことないが、運動量や守備力という点については疑問である。

サッカーの理に適った布陣
 そこでFWを一枚減らして、代わりに中盤で守備に専念できる選手を一人入れてはどうかと提案したい。というのも、今の神戸のやり方なら、そちらの方が向いてるからだ。ヒントは最近、セリエAのASローマがデルベッキオ、バティストゥータの2トップ+トッティのトップ下という実質3トップとも言うべき布陣をやめて、FWのデルベッキオを外し2枚だった守備的MFを3枚にしたところから得た。ローマというチームは、バティストゥータとトッティの守備意識が低く、しかも両サイドハーフのカフーとカンデラが頻繁に上がるチームなだけに守備的MFのトンマージとエメルソンの負担が大きかったが、守備的MFを3枚にすることで攻撃の迫力は薄れたものの安定感は抜群になった。
 私がこの案(上図C)を思い付いたのは、神戸も両サイドに岡野と西谷という高い攻撃力を持つ選手がいるからだ。彼らが敵ゴールに近い「高い位置」を保てれば対面する選手にとっては脅威であり、相手は簡単にはオーバーラップはできないはずである。しかしサイドハーフが「高い位置」を保つには、裏を取られる心配を無くさなければならない。そこで3人になった守備的MFが「高い位置」にいるサイドハーフの裏のスペースをカバーするのだ。望月、アタリバに続く3人目のMFは吉村がいいだろう。3節ではDFで起用されていたが、南宇和高校時代には「中盤の天才的労働者」と呼ばれていた選手だけに、その運動量や機転を活かせる本来の守備的MFで使うべきだ。そして左の西谷が上がれば望月が、右の岡野が上がれば吉村が後方のスペースをケアするのである。それによって岡野と西谷の両サイドハーフが裏を取られることを気にせず、高い位置を保てるようになり、攻撃力アップにもなるはずである。
 折角の補強で得た人材を使わないのは勿体ないという川勝監督の気持ちはわかるし、G大阪戦のようなサッカーが常にできれば確かに面白いが、ボールを獲らなければ攻撃できない、守備が安定しなければ攻撃に専念できないというサッカーの理に適った布陣を採るべきではないか。

ロシアのゼーマン
 私は、まだ新シーズンのサンフレッチェ広島のサッカーをみていない。よって現在の戦力分析を中心に書いていきたい。
 広島は昨年、ロシアのゼーマンとも言うべき攻撃サッカー志向のバレリー監督を招聘した。広島はこれまで、DFラインを深くして相手の動くスペースをなくし、攻撃はFW久保やMF藤本といった特定のタレントに頼るサッカーをしてきた。守備は安定しているし、エースの久保はスペースさえ与えれば個人技で得点できるということで、ある程度の勝利は計算できた。しかし広島のカウンターサッカーは毎年中位には入れるサッカーであっても、鹿島アントラーズやジュビロ磐田とがっぷりよっつに組んで優勝争いできるサッカーではなかった。そこで、広島が更に上の段階を目指すために招聘されたのが、元カメルーン代表監督として90年W杯でアフリカ旋風を巻き起こし、その後は韓国Kリーグで実績を残していたバレリー監督だった訳である。
 しかし、その攻撃志向は第1ステージでは得点は25(トップは市原の36点)と伸び悩んだ上、失点は33と守備が崩壊し完全に裏目に出た。そこで、第2ステージにはバランスを修正して臨み、最終的には15試合中7敗しながらも3位になったが、失点の多さは相変わらずで、優勝争いにも参加していない3位なだけに、その価値は大したものではない。結局、1年でバレリー監督とは契約を満了した。

右・駒野、左・沢田
 その後任として招聘されたのが、ソ連代表コーチの経験を持つガジエフ監督である。そして、やはりと言うべきか、前がかりになりすぎていたバレリー体制を否定し、昨年は3バックと4バックの併用だったのを4バック1本にしたり、3トップはやめて2トップにしたりとバランスを改善しようとした。ところが、それには苦難がつきまとった。まず冒頭にも挙げたように、広島はストーブリーグで昨シーズンの主力だったオレグとコリカが放出され、しかもプレシーズン中に新外国人の補強が決まらなかったこと。次に左サイドバックもしくは左サイドハーフとして正確なクロスによるアシストができる服部の負傷。そして日本代表DFで広島の大黒柱とも言うべき上村が右膝前十字靱帯断裂による長期欠場。上村本人にとってもW杯出場を棒に振ったということで痛いが、広島フロントにとってもガジエフ監督にとっても、守備陣では最も頼みとなる選手を失っただけに、そのショックは大きかっただろう。
 しかし、広島はそれらの苦難を乗り越えて開幕戦はコンサドーレ札幌を相手に、ゴールラッシュを見せた。開幕直前に補強したカメルーン代表経験を持つビロングが上村の穴を埋め、前評判の高かった札幌DF陣が開幕戦のプレッシャーに飲まれ、本来の力を発揮できなかったことも広島のゴールラッシュを手伝った。この開幕戦の勝利によって広島は勢いづき、3節を終えて2勝1敗の6位と好位置につけている。

図A:第三節・広島布陣

         ●      ●
        久保     大木

             ●
            藤本

   ●                  ●
 森崎浩                梅田

             ●
            森崎和

   ●                  ●
  沢田                 駒野

         ●      ●
        川島    ビロング

             ●
            下田


 さて、広島の現在の布陣を見ていて面白い点がある。それは両サイドバックの駒野と沢田だ。今、右サイドバックを務めている駒野は広島ユースやU−20代表を見ていればわかるように、元々左サイドハーフ(左サイドバック)の選手である。だが、広島の左サイドバックには服部という好選手がいてレギュラーは難しかった。しかし駒野は走力はさほどでもないが、両足で正確なクロスを放てることから、バレリー前監督は右サイドにコンバートし、駒野も無難な対応を見せた。一方、現在、左サイドバックを務めている沢田はかつて柏レイソルの右サイドバック(右サイドハーフ)として加茂監督時代の日本代表にも入った実力者である。昨年は、その豊富な運動量を見込んだバレリー監督によって中盤の底にコンバートされてレギュラーを掴み、カウンターの起点として活躍した。しかし今季は初体験の左サイドバックだ。矛盾したものを感じる人もいるだろう。右・沢田、左・駒野で、何の問題もないのではないかと。普通に考えればそうなる。
 ただし、選手の起用には他選手との食い合わせの問題も考えなければならない。例えば、広島なら両サイドバックの前にいるサイドハーフの選手の能力も考えなければならない。広島の左サイドハーフ、森崎双子兄弟の片割れ森崎浩は正確なクロスとテクニックが武器であり、相手DFライン深くをスピード生かしてえぐるような典型的ウインガーではない。だから広島の左サイドバックには森崎浩を追い越してサポートする動きが求められ、それなら縦へのスピードのある沢田の方が適任というわけだ。一方、右サイドハーフには梅田というFWからコンバートされた選手がいる。梅田はスピード豊かという訳ではないが、運動量と当たりの強さを生かした縦への馬力のある突破が武器の選手である。その後方を固める右サイドバックには縦へのスピードよりも、裏のスペースを埋める危機察知能力の方が必要だ。だから走力では落ちる駒野の方が向いているというわけである。筆者も、最初は右・駒野、左・沢田には疑問だったが、選手の食い合わせを考えてみて、やっと納得できた。

広島の1981年生まれ2000年入団組
 例えば鹿島に1979年生まれの1998年入団組に将来有望な選手が揃っているように、広島には1981年生まれの2000年入団組に将来有望な選手が揃っている。その多くがユース年代での代表経験を持っており、おそらく次期アテネ五輪の日本代表に入ってくるであろうメンバーばかりだ。すでに森崎双子兄弟と駒野はすでに広島のスタメンを確保しているが、他にも今後が期待できる選手がいる。その一人がボランチの松下だ。前橋育英高校時代と変わらぬ坊主頭が目を引くが、彼にはJリーガーでも極めて希なアウトサイドキックによるセットプレーという特技を持っている。この技術の利点は、使える選手が少ないことによる、意外性である。普通のインサイドキックとは異なるタイミングでパスが出てくるため、相手選手にしてみればパスコースが読みにくいのである。
 だが松下が次期五輪代表になろうと思えば相当な努力をしなければならない。というのも、この年代は、同チームの森崎和、日本代表候補にも入ったジェフ市原の阿部、鹿島期待の若手・青木といったユース年代からのライバルに加え、札幌の今野や浦和の鈴木といった所属チームでスタメンを張っている選手など、ボランチに優秀な選手が揃っているからだ。
 それから在日ブラジル人のトゥーリオにも注目すべきだ。昨シーズン、鹿島との開幕戦でCKからのヘッドで一躍有名となった。走力は低いが、その分ゆったりとしたプレーが優雅さを醸し出し、相手をかわす足技に正確なフィードといったDFに必要な技術を備えている。昨年はポポビッチや上村らとレギュラーを争ったが、今季もビロング、川島とレギュラー争いをしなければならないのは変わらないだけに厳しいが、外国人枠が一杯ではないのだから必ずチャンスはあるはずだ。
 戦力分析の結論を言えば、優勝を狙うにはまだ遠い。成熟度という点で鹿島や磐田などよりも落ちる。当面は市原、柏、清水、G大阪といった中の上から抜ける争いをすることになる。しかし、ここ数年の間に訪れるであろう上村らベテランの円熟期、下田、藤本、久保ら中堅の全盛期、そして1981年生まれ組に代表される若手がレギュラーを獲れるぐらい上昇曲線を描く時期がうまく一致すれば広島は鹿島や磐田あたりにも対抗できる面白いチームができあがるはずである。

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