喫茶店

    



喫茶店とは

以前、バーについて綴ったので今度は喫茶店にしよう

喫茶店とカフェとはどう違うのか?

 

それは似て非なるものがある

何度もお客さんとも話したし自分でも思考した結果だ

例えれば、

昭和と平成 アナログとデジタル モノクロとカラー

特撮とコンピュータグラフィック アニメと小説 

レコードとCD ・・・等

キリがないのでこれくらいにする

 

思えば平成からこっちオープンがカフェのイメージかも知れないが

ウチの店は平成元年オープンだがマインドは

喫茶店でカフェではないと思っている

喫茶店には人間の醸し出す文化やドラマの香りがするが

カフェからは無味乾燥な商売か素人の言い訳の異臭が漂ってくる

 

昔から自分自身も喫茶店が好きだった

何かあれば理由をつけて入りたかった

レストランでもなければ食堂でもない

飲み屋でもないし居酒屋ではない

今から思えば何だか判らないところがよかったかもしれない

 

喫茶バーテンが作るメニューもおざなりながら愛着があった

金がかかってる割に何やら風采の上がらぬ内装も

今時のカフェにない押し出しと説得力があった

紙芝居の親父が引き出しから出してくる怪しげな

お菓子に通じる楽しさがあった

 

なぜか全体にそこに来たんだという納得力があった

 

初めて自分だけで喫茶店に入った時の事は今でも憶えている

どうしてもと越えなければならないような決意がいった

あれは高校生の頃

 

授業の合間にハイライトと千円札を学生服のポケットに入れ、裏門を

抜けて学校の隣にある普通の喫茶店に一人目指した

 

心臓をバクバクさせながら奥の席に座る

確か、ホットケーキと珈琲を注文した気がする

漫画をひろげてやましく煙草に火をつけた

せわしなく煙をふかし、少し落ち着いてから周りを見渡してみると、

見た顔の悪友達がこっちに向かって手を振っている

何だか、がっかりした思いでそっちに移動した

 

『これから喫茶店に行く時は学校が終わってからか休日にしよう

けじめはつけて置かないといけないからな』

 

なぜかその時そう思ったものだ・・・ピカボス

 

 

       


 

 

レトロ感覚ある魅力溢れる喫茶店

 

しかし、そんな単純問題ではなかった

以前、友人とそんな喫茶店の良さを見直そうと

地元の店を巡った事がある 

何軒か廻り、お互いに報告しあった

これぞ、現代に息づいている不変の喫茶店とやらを探しに・・

 

はっきり言って地元にはなかった

大都会に行けば普通に佇んでいるのだろうが

ここぞ!決定版というのにはついぞ巡り会えなかった

 

普通であり普通であってはならない

それを売りにしていてもいけない

何も変わらないのが只いいのではない

悲しくしみったれているのなど論外だ

 

だから、今となれば貴重なのだろうが・・

それは他のモロモロのものにも通じるだろう

 

例えれば、クルマ 服 家具 雑貨類 色んな持ち物

 

ただ、古いだけで手入れのまったく施されていないものは新品の時は

どんな貴重なものであってもボロであり、ただの粗大ゴミに近い

同じものでもオーナーの愛情で長年大事に使われてきたものは

年月を経るほどに艶がでて、かけがえのない宝物になるのである

アンティックショップの燻し銀とフリーマーケットで山積みほどの違いが出る

 

それと同じ事が喫茶店にもいえる

以前の話のバーにも然りだ

昔、開店当初はいい店だったのだろうと見受けられるが

長年、オリの様に溜まった緊張感のなさが店全体の空気を

くすぼらせてしまい、取り返しがつかなくなってしまっている店がほとんどだった

これなら、それこそ今時のカフェかファミレスの方がよっぽどマシだ

愛着があり自分も同業であるだけに悔しい思いだけが残ったものだ

それだけ経営を維持さていくのが難しいのか、

もしくはすでに過去の産物になってしまったのか

切実に考えざるを得なく無くなったものだ

 

自分の方向性はもしかしたら間違っているのではないか

理想ばかり追いかけていても成り立たなければ何もならないのではないか

コンビニや自販機がいたる所にあふれてる今のこの時代

 

あの頃の喫茶店の風情はもう帰ってはこないのか?・・ピカボス

 


一頃は今時のカフェなど比べ物にならないほど

それぞれが個性に満ちていた魅力ある喫茶店が巷に溢れかえっていた

 

今ではほとんどが消滅したかシーラカンスの様になってしまっている

後年、ブームに便乗しはじめたカフェもほとんどが姿を消した

 

オリーブオイルとガールックの臭いにまみれた店内に入り灰皿を要求すると

「当店は禁煙です」

その一言できれた事がある

 

なぜこうも喫茶店文化が衰退してしまったのか?

事の発端はフードメニューだろう

そこそこで抑えておけばよかったものを豪華すぎるモーニングが悪かった

周りを見ると、ほとんどがサラダを残していた

それとやたら増えた御飯ものだ

昼時のランチメニューの種類ばかりが増えて過当競争に拍車がかかる

どっちみち専門の食堂や洋食グリルにはかなわないのだ

そのうえ珈琲無料サービスをする

喫茶店の主役である珈琲をただにしてどうするのだ!

珈琲の付加価値を自分達で無くしてしまった

客も店も悪循環になりにっちもさっちもいかなくなったのだろう

 

考えてみれば喫茶店とは地味で小さな商いである

ほんの僅かな飲み物を出すだけの為に考えられない労力を要する

店の鍵を開け厨房から店内、表周りまでの掃除からの準備を整える

もちろん仕込みがある時はすませなければならない

一日の営業のほとんどが準備にかかっている

空調を整えて、ようやくその日の客を迎える

その前に買い物が必要な時もある

その仕込みが全部無駄になってしまう日もある

 

店内での僅かな乱れも常連客は見逃さないし、

ほって置くと後々に取り返しがつかなくなる事ばかりだ

客の口に戸は立てられない

 

それだけして客単価はビビたるものだ

今時の中学生の小遣い程度だろう

それでも支持してくれる常連客が励みとなるがそれも気まぐれで

まったくあてにはならない

いつ来なくなるか今時なんの予想も立てられない

ほとんどが野次馬で他に目が移れば苦もなく去って行き

下手をするともう2度とは戻ってはこまい

 

本来はみんなに優雅に寛いでもらう場であったはずの自分の店が

気がつくとやつれ果てた自分自身を投影しているようになってしまっている

 

これが正直な話し今までの喫茶店の現状だろう

 


 

喫茶店文化が全盛だった頃の時代

今の世相とどう違っていたのか、詳しく分析をしてみる事にする

 

あの頃の内装はどんな店も今から振り返ってみると金も手間もかかっていた

近所にある古い店のマスターも

「もうこれだけの仕事をしてくれる大工さんは今では誰もいなくなった」

そう言い切っていた それだけじゃなく材質もかなりのものだ

ようするに任せる方も任された方も本気だった

 

出されるメニューも然り

今のように本物のコーヒー豆が家庭で手軽に手に入らぬ、

インスタントがほとんどの時代にサイフォンやネルドリップが当たり前だった

珈琲メーカーで客の目の前で当たり前のようにだす今時カフェとは大違いだ

軽食類やパフェなどもそれなりにおいそれと家庭では出来ないものばかりだった

菓子類はホイップクリームや缶詰のフルーツ、季節モノを組み合わせたり

スパゲッティ類もあり合わせの材料で専門の喫茶バーテンが腕を振るっていた

家ではマーガリンだった時に、分厚く切ったトーストにたっぷりと塗られた

本格バターの香りが店内を包み込んでいたものだ

 

ウエイトレスやボーイなどももちろん店主は客人とスタッフとをはっきりとさせ

知り合いや友人などが来ていても営業時間では馴れ馴れしく客席に

座る事などしなかった

 

ようするに何もかもに本気だった

誰もが喫茶業というプロだった

たかが軽食や飲み物を出すというだけの事に当然のように

だれもが “仕事 に取り組んでいたのだ

 

家庭では絶対に出来ないだろうという意識のもとに・・

 

ファミレスや色んな大型店が台頭しだし段々に衰退していく

レトルトと冷凍オンリーで突き詰めた大手ファミレスが相手では

個人経営の店はひとたまりもない

客へのインパクトはビートルズの出現の様なものだったろう

 

大手資本が手がけた大型店と比べたらなんとショボク感じた事だろうか

初めてファミレスに入った時は何とまぁと感心したのを覚えている

しかし、お代わり自由の珈琲の胡散臭さも印象深かったが・・

 

最近テレビでも取り上げられている定年後の人生で

「喫茶店でも出来れば・・」

ハゲ頭にバンダナをお約束のようにのせた親父が語っていた

 

最初からこの仕事を喫茶店でも・・と軽んじているようでは

たとえ開店は出来ても継続はむずかしいだろうなと思ったものだ・・ピカボス

 


 

 

ロングのソロツーリングにでていた

20代の前半がもうすぐ終わろうとしていた時だ

毎年の如くのうだる様な真夏の出来事だった

 

北の北海道や信州 東北辺り

海や山 都会やひなびた田舎の町々

至る所を走りきった感がある

申し分のない旅が終わろうとしていた

 

気がつくと真っ暗な海辺の町に佇んでいた

高級な観光旅館が立ち並んでいるが自分には縁のない所だった

どこに行くあてもなく喪失感でバイクに跨り黒い海を眺めていた

 

『これからどうしょう 次の町まで行けば何とかなるか』

 

なぜそんな事になってしまったのか?

あてにしていたユースホステルがとんでもなかった

どう考えても尋常じゃなかった

大の男がお化けが怖いなど笑い飛ばせるレベルではなかった

お寺の離れにある一軒家のプレハブで一晩過せるほどタフではなかった

おまけにそこのお婆さんまでが怯えて案内できない所だった

もちろん食事も風呂もシャワーすらない

 

適当な理由をつけて引き払って来た

あのままでは妖怪変化に一晩付き合う羽目になる予感がした

それはいいが今度は行くあてもない

辺りは日が落ちて真っ暗な海辺の町

ドッと旅の疲れが出てきた

ガソリンの心配も宿の心配も、もうどうでもよくなってきた

心細いのは当たり前だがこれからあてのない真夜中の道路を

バイクで走り続けるには何かの勢いが必要だった

 

海岸線を眺めていると何てない喫茶店の看板が見えた

取りあえずはあそこで珈琲でも飲んで心を落ち着ける事にしよう

 

その喫茶店の駐車場に乗り入れ自分がボロ雑巾に

なった気分で店内に入る

 

自分の境遇など関係なく平和な店の日常だった

アイス珈琲と煙草でしばらく平静を保っていた

 

『ダメモトかぁ!』

 

そんな思いでウエイターに尋ねてみた

 

「この町でどこか民宿か安いホテルなんか、ないすかねぇ・・」

 

怪訝そうな顔をした若い男は判ったとばかり店の奥に引っ込んでしまった

又、いつものように訳の判らない怪しい男が来たと報告に行ったのだろう

おかしい事を尋ねた事を後悔しながらここを引き払うよう身支度にかかった

 

『この珈琲で少し元気が出た 今夜は一晩中でも狂犬のように飛ばしてやろう』

 

そう、ふんぎりがついてレジで待っていたら中年のタキシードを着た

中年の男がこっちに向かって歩いてくる

 

「君かな、今夜の宿を探しているってのは?」

「はい、そうなんです あてにしていた所がダメになったモンですから・・」

 

しばらく、自分の顔を眺めていてこう言った

 

「予算はいくらならいいのかな?」

「はい、貧乏旅行なのでこれくらいで・・・」

 

「よし! 気に入った

私も君くらいの息子がいる 今日が誕生日なんだ!

それでいいよ  うちに泊まったらいい 

 

ただし食事はここでしてくれるかい?」

「はぁ・・・」

 

なにやらその喫茶店は老舗の豪華観光旅館の系列でその人物は

そこの支配人だった

 

「いいんですか?俺みたいなのがそちらに泊まっても 」

 

「若いうちは旅をしろというんだよ

今夜は気分がいいんだ ウチでゆっくりしてくれたらいいよ

息子もちょうどあんたくらい年なんだ 今はアメリカに行ってるがね

従業員には私からちゃんと言っておくから存分にくつろいでくれよ」

 

「ありがとうございます!」

 

それからはまさに地獄から天国に舞い上がった気分だった・・

 

喫茶店には色んな魔物や天使達が宿っている ピカボス

 


いらっしゃいませ・・

なに? 自分は客じゃない じゃあ、一体ナンなんだい

店の取材をさせて欲しい  

雑誌に載せたいからだってぇ?

あんた、自分で身銭も切らないでよく人様などに紹介などできるね

じゃあ、ブレンド? それでいいんだ、あいよ

 

こちらのマスターはこだわってるらしいって?

そんな事はないよ、昔の事なんか

 

いや、ずいぶんのこだわりのお店なんですねってか?

俺は何者にも、とわられてなどいないぞ

 

そんな意味じゃなくってってかい?

はじめから判ってるよ、そんな事 

ただ、あんたが遊び心の仕事をしているのに

切羽詰まった面白味のない顔しているもんだからさ

少し、からかってほぐしてやろうと思っただけ

 

Y君に訊いて来たんだってぇ・・

マスターは昔からオーセンティックな喫茶店として貫いているってか?

こちらの店にあるものに、いい加減なモノはひとつもない

あいつ、そう言っていたの?

 

又、あの野郎いい加減な事ばかり言ってやがる

誤解されちゃ困るから最初に言っておくがね

そんな人様に向かって大きな声で自慢できるものなんて

うちの店にぁ 何もないよ

どおって事も目新しい事なんザ何一つもない

 

ためしにあんたが家で淹れた珈琲とどこまで違うかって

左程の味も変わらねぇと思うよ・・・

 

結局、俺は人様が好きなんだろうなぁ

毎日毎日、こんな店にでも寄ってくれるお客さんを一生懸命

もてなすのが柄にもなく自分の性分にあっているんだと思う

だから、せっかく来て頂いた人をがっかりさせるのだけは

したくねぇんだよ  たとえ、どんな人にでも

その為には喫茶店としてのやるべき事はきっちりとやっておく

いい加減なハッタリやごまかしなどはもっての他だ

 

くだらねぇ事で恥をかくのは自分だからな

 

そんな何てない俺の姿をY君はみんなに言ってくれているんだよ

彼は根っから優しい男だからな・・

こんなどおって事のない店の事をな

だから、そんな話を聞きつけて色んな人が寄って来てくれる

俺もあいつに恥をかかせちゃならねぇとばかり励みにさせてもらっている

それ以上でもそれ以下でもないクオリティを保っているんだよ 精一杯

 

そんな所なんだ

ところでどうだった? ウチのブレンド

他所とはちったぁ違うだろう

特別の豆とローストで、出来るだけ新鮮なうちに出してんだよ

少しでも時間が経っておかしけりゃ挽いちまって植木にでも撒いちまうからな

 

何にでも俺んとこでないとないもので長年やってんだ 

こだわり過ぎちゃいけないんだが、サービスするのが悪い癖

今度はマイルド珈琲はどうだい? お代わりくらいご馳走させてもらうよ

 

今日はわざわざよく来てくれたなぁ ゆっくりしていってくれよ ・・ピカボス 

 


 

「今日は悪かったなぁ、つき合わせて・・」

 

「いいっすよ、先輩

それにしてもどうしたんすかぁ・・顔色悪いっすよ

何か揉め事でもあったんスカ?

どうしてもって言うから駆けつけてきたんだけど」

 

「あぁ 言いづらいンだけどな

今日でここの店10日連続なんだ

寝ても醒めてもでな 参っちまってるんだよ

俺とした事が・・」

 

「何があったんスカ?」

 

「いやな ナンでも注文したらいいぞ

ミートスパでもチョコパフェでも

クリームソーダも後で言ったらどうなんだい?

好きなもの言ったらいいぞ」

 

「先輩、そんな俺今、腹は減ってませんし

お腹ゴボゴボになっちまいますよ

 

それよりナンスカ、一体?」

 

「お前にだけは告白しよう

実はな・・

今、水を持ってきた娘いるだろう?

あの娘に参っちまってるんだ 今の俺は」

 

「えぇぇ! 先輩ホンとっすか

今のあの・・」

 

「バカ野朗 振り向くんじゃないよ

気づかぬ振りして何気ない顔をしろって

 

偶然、知り合いとここへ来てな

ハートをえぐられたって訳なのよ

毎日一人でここにいるのもおかしいだろうと思ってさ

お前さんに付き合ってもらったのさ」

 

「ほっほうぅ そういう事ッスカ?センピャイ

はっはぁぁん  なるへそね

 

冷たくて意地悪そうな顔をしてやけに骨盤が張っている

顔は小さめなのにこんな太ももかい!という位でかそうだし

はちきれんばかりのジーパンなのに目がやたら暗い

美人な様なそうでない様な・・

何だかバランスが悪くて

なるほど 先輩好みの娘だ、あのこは

 

でっ この俺にどうしろと?

飛び道具にでもなれっと言うんですかい

さっそく行ってナシでもつけてきましょうか?」

 

「いやいや、早まるでない 今日はただどんな子か

冷静な眼でおめえに見てもらいたかっただけだ

あぁ、又、心臓がバクバクしてきた」

 

「しかし、先輩

あのカウンターの隅に座っている色男

あの落ち着きといい物腰といい

今も彼女と笑い合っていますがね

もしかしていい仲じゃないんですか

あの様子では」

 

「やっぱり、おめえもそう思うか? クックック

あいつもいつもあそこに座ってんだ!

そうは思いたくなかったよ

信じたくなかったなぁ

 

あっ こっちに珈琲、持って来たぜ

悟られるんじゃねぇぞ! ジッとしてろよ 息もすんな」

 

そんなこんなの昭和の喫茶店での風景かな

 


 

考えてみれば飲食業界全体がこの何年間ですっかり

様変わりをしてしまった 

たまのお出かけ、よそ行きのお食事だったのが普段使いに

成り下がってしまったのだから、今更昔を懐かしんでも

仕方がないかもしれない

時代の流れでそうなったのだから抗うのにも無理がある

これからは我々世代の人間がほのかに懐かしむ程度でいいのだろう

 

確かに現状は色んなスタイルの店舗があふれ飽和状態になっている

大型チェーン店展開をしているところはあらゆるスタイルを打ち出し

個人経営のパパママ喫茶店もより専門店化した

お客さんサイドからはそれぞれをチョイスができ

それに応じたおびただしい店群が手薬煉を引いて待っている

雑誌などあらゆる媒体で広告を打ち出して、それを見る限りでは

いながらにして万博会場のようだ

 

どこに行くのにも先ず情報が入ってきてあらかじめ下調べができ

それに基づいた行動ができる

口コミが一番とは言っても手っ取り早い広告に心動かされるのが

客側も店側も人情だろう タウン誌などを開くと次から次へと

あらゆる店舗の紹介がありクーポンなども付いていたりする

それだけを目当ての人もいれば何かの時の下調べに使う人もいて

何かと便利になったものだ

 

それだけ便利になったゆえに失ってしまった楽しみが数多くある

本屋さんで何となく立ち読みで冷やかしていたら

思いがけずに憧れだった本に出合えたり、衝動買いで選んだ本が

生涯に影響を及ぼす本になったり・・

ビデオショップでうろついていたら意に反していいシネマに巡りあえたり・・

 

インターネットやタウン誌ではこうはいかないだろう

それと同じ事が喫茶店にもいえる

何の作意もなくふらりと立ち寄った店が印象深かったりするものだ

もちろん失敗もあるが・・

私の経験では情報に基づいて訪れた店でいい経験はなかった

いい店でも、ある程度予想が付いているから感動が薄い

ほとんど、サービスまでがデジタル化されているようで居心地が悪い

 

そんな事で喜べるほど単純でもないし幼稚でもない

それだけ自分が大人なんだろうか?

そうではないところにやはりアナログな喫茶店の魅力を求めてしまう

 

それが客側として感じる私の正直な感想であって意見だ・・ピカボス

 

 


 

今度は店側になってシビアーに迫ってみよう

 

以前、コーヒー豆のメーカーの人が入れ替わり立ち変わり

色んなお客さんを連れてくる

それとなく訊いてみるとこれから喫茶店を始めようと計画している人の

モデル店として私の店を見学に連れて来ていたのだ

 

皆さん、これから自分の店を立ち上げようとしている方々だから

一様に夢見がちな表情をされていた

メーカーの人はこの道何十年の喫茶店開業のプロ中のプロだ

当時一緒になってこれからの喫茶店経営について話し合った

多額の資金を投じて始める原動力は “やるぞ!という意気込みだった

 

何人もいたが開店して案内を頂いた処にしばらくしてから訪れてみた

しかし、ほとんどが続かなかった

夢多く始めた店だったが予想をはるかに超えた現実に負けてしまったのだろう

異口同音に皆さんは言う

「喫茶店ってこんなに大変だとは思わなかった」

 

確かに客側と店側との違いはあるがただの好きだけでは続かない

結局、自分達の友達を呼んでの応接間に変貌するか、

投げやりな空気の中惰性だけでやっている

およそ、開店前の意気込みは跡形もなくなってしまっていた

改めて喫茶店を継続させるむずかしさを思い知らされた格好だ

すでにやめていった先輩方々の話を訊くと、もうコリゴリだと

言っていたのを思い出した

“ただ、好きなだけではやっていけない

 

以前述べたように街から喫茶店がほとんどなくなってしまっているのも

無理はなかったのだ  それだけ大変だったのだ

人のメンタルに迫り生業にするこの喫茶店という仕事 簡単なものではない 

これから生き残っていく為にはそれなりのテクニックや工夫も必要になろう

コンビニや自販機が氾濫する平成の今の時代

ただ座るだけでなんで金がいるの?

同じものか、もっといいものが家で得られるのに何をわざわざ?

そんな所から見つめ直さなければならない

 

これから社会が多様化になりますます複雑にもなるだろう

テーブルやカウンターに飲み物やフードを出すだけではやっていけない

媚を売っても続かない

色気を売るのは専門家に任せろ

 

今思うのは客側店側どちらもの客観的な立場で考えるくせをつける

店のあらゆる細かい所までも見つめ直す

毎日のオープンの札を出した時から舞台の幕が上がるのを自覚する

メンタルを扱う喫茶店主としてのプロ意識を守り続ける

どこにもないオリジナルを扱っているというプライドを死守する

そのうえで・・

好きになる事だ

好きであり続ける事だ

自分の店を愛し続ける事だ

自分の店の一番のファンはまず自分である事だ

自分が好きにならなくて誰が好きになってくれよう

いい時も悪い時も暇な時も忙しい時も全部ひっくるめて

それだけが自分独自の喫茶店をこれからも継続して行く唯一の方法だろう

 

喫茶店主の皆さん 

そして喫茶店を愛する全ての皆さんに捧ぐ・・ピカボス