夢を見た。雪の中に立つ、あんたの夢を。あんたは俺を見ていつものように笑うんだ。差し出した俺の手を見つめたまんま。
 柔らかく俺を包み込むようないつもの笑顔を浮かべて、あんたは言った。

_____ 必ずしもあなたが、最高の指導者というわけではない

 伸ばした手もそのままに項垂れた俺の両肩に、雪が静かに積もっていく。


***


 いつもより早い時間に目が覚めた。頭が少し痛い。ぼんやりと霞んだ視界に無意識に手で目元を拭うと、指先が冷たい滴を掬った。なんだかひんやりとしている頬に手の甲で触れると、やっぱり濡れて、かぴかぴしていた。

 なんだ、俺、泣いてたんだ。

 俺はベッドの上で上体を起こし、自分の手を胸の辺りでぎゅっと握りしめて、もう疾の昔に癒えたと思っていた胸の傷がずきんと疼くのを感じた。


 そう、分かってる。俺は最高の指導者なんかじゃない。

 例えば、フォンヴォルテール卿グウェンダルが、眉間に深い皺を刻み俺に向かって言うとする。

『必ずしも小僧が最高の指導者というわけではあるまい。』

 うんうん、その通りだよグウェン。きっと俺は大きく頷くだろう。指導力なんて欠片も無いトップより、有能な周囲の者たちの力で国は上手く動いていくんだもんな。

 例えば、フォンビーレフェルト卿ヴォルフラムが、その湖底を思わす碧色の瞳で俺を睨みつけ、ビシッと俺の鼻先を指差しながら言うとする。

『必ずしもユーリが最高の指導者というわけではないだろう。なんせお前はへなちょこだからな。』

 その通りだけど、へなちょこ言うなヴォルフ!でも、何だか悔しいけど、痛いほど真っ直ぐ俺に向かってくるヴォルフの言葉に、きっと俺はちゃんと頷き返し、常にアイツの瞳から目を逸らさずにいれる自分であろうとすると思う。

 例えば、フォンクライスト卿ギュンターが、壊れていなければ超絶美形なその顔に、魔族だけど聖母のような笑顔を浮かべて、俺に言うとする。

『陛下、大変申し上げにくい事ではございますが、陛下は、今はまだ最高の指導者というわけではございません。ですが陛下、陛下がこれからの永きに渡り、素晴らしき指導者として、我が眞魔国の民を導いていかれるよう、このわたくし、フォンクライスト・ギュンターが、常にべいかのお側に侍り、誠心誠意ぃ、手取り足取りぃ・・・・ぶっ、ぶふぁっ!』

 えっと、飛び散る汁はちょっと勘弁してギュンター。でも、不出来な孫が可愛くて仕方が無いって感じで迫ってくる王佐の汁攻撃を避けながら、俺は、この壊れてなけりゃすこぶる優秀な教育係の忠告に素直に耳を傾けることだろう。

 でも _____





優しさの在り方






「なあ、グリエちゃん。」
「なんすかぁ、坊ちゃん。」
「俺って、最高の指導者だって思う?」

 血盟城の見晴らしの良いバルコニーの手すりに両肘を付き、俺は眼下に広がる練兵場に目を向けたまま、すぐ側に居る気配にぼそりと問いかけた。

「思わないっすねぇ。」
「即答ありがと。そうだよなぁ、やっぱそう思うよなぁ。」

 軽く組んだ両手に顎を乗せぼんやりと兵達の中心に立つ人物の動きを見ていた俺は、予想通りの答えに、視線を逸らさないまま、うんうんと大きく頷いた。そんな俺を不審に思ったのか、本日この時間の俺の護衛を任された男が、ひょいっと背後から俺の顔を覗き込んだ。

「あのぉ・・・、坊ちゃん?俺、今、ヒドく不敬なこと言った自覚あるんすけどぉ、怒らなくて良いんですか?」
「何で?だって、俺、自分がへなちょこ大魔王だって知ってるもん。だからグリエちゃんがそれをはっきり指摘したとしても、俺怒んないよ。」

 ぐぅーんと大きく伸びをしながら、きんと張り詰めた冬の日の空気の中でも射し込む暖かな日の光に目を細める。執務で凝り固まった手足を思い切りよく伸ばしながらのんびり空を見上げると、くくくっと小さく笑う声が聞こえた。

「いやいや、さすがの俺でもへなちょこ大魔王だなんて不敬な台詞言いませんって。」

 俺の横に並び俺と向かい合う様に手すりに背を預けたヨザックは、オレンジ色の髪をがりがりと片手で掻き混ぜながら口の端を持ち上げにやにやと笑った。

「でもまあ確かに、坊ちゃんは時々執務室を抜け出しますし、御自ら国を飛び出しては護衛泣かせで無茶な外遊なさいますからねぇ。そう言う無鉄砲なところは指導者っぽくなくて、最高、だなんて呼べないかも知れませんねえ。」
「ホント、スイマセン。」

 今まさに、執務室逃亡大作戦を実行中の俺は、その申し訳なさに身が竦む想いだった。あ、一応言い訳しておくと、別に執務を全て放り出して遊んでる訳じゃない。今はちょうど休憩時間だったんだ。ただ、執務室内でお茶飲んでじっとしてるだけの休憩ぐらいじゃ凝り固まってしまった俺の体や脳ミソが全然すっきりしなかったんで、グウェンとギュンターがほんのちょっと席を外してる隙に少〜し足を伸ばしてこの見晴らしの良いバルコニーまで散歩に来ちゃっただけだ。何も言わずに。
 そんな後ろめたさを胸に実際に首を竦めて小さくなっていた俺は、横目で優秀なお庭番を伺った。すると意外にもヨザックは真摯な表情を浮かべ、俺の顔をじっと見つめていた。俺はちょっと緊張しつつ、背筋を伸ばして続く言葉を待った。

「でも、坊ちゃんはそうやってご自分の事を諌められ、奢る事無く俺たち下々の者の意見もちゃんと聞いてくださる。それって、最高の指導者なんかじゃなくても、俺たち臣下や民にとっては善き王の姿なんじゃないかなって、俺はそう思ってるんすけどね。」

 俺は坊ちゃんのこと気に入ってるんですから、そう付け加えて、ヨザックがいつもの顔でニヤッと笑った。

「ありがと。」

 何だか瞼の裏が熱くなる。それを隠す様に俺が下を向くと、ヨザックは大きな手で俺の頭をぽんぽんと軽く叩いた。

「で、何を悩んでらっしゃるんですか?」

 さすが眞魔国一の敏腕お庭番。俺の頭ん中が、今朝からぐだぐだでぐるぐるなのをしっかり見抜いていらっしゃる。

「ひょっとして、あの大馬鹿野郎のことですか?」

 ヨザックは背後にある練兵場で剣の指南役を勤めている男を親指で指し、器用に片眉だけを上げた。

「ご名答。・・・・・実はさ、夢を、見たんだ。」
「夢、ですか?」
「そう、あの時の夢。」

 いつの事かなんて言わなくてもヨザックには分かっている。一瞬僅かに痛ましそうに歪んだ彼の表情に気付かない振りをして、俺はバルコニーから心持ち身を乗り出して頭上の空を仰いだ。冬の空は高く澄んでいて、どこまでも見渡せそうだ。

「今更だろ?もうとっくに、コンラッドは帰ってきてるってのにさ。」

 そう言って俺は手すりにもたれかかり、出来るだけ明るく見えるように笑顔を作った。でも、それはどうやら失敗したようだ。ヨザックの表情がますます曇った気がする。

「でもさ、時々不安になるんだよね。今日みたいに変な夢見た時とか、あいつが傍に居ない時なんかにさ。でね、夢の中で、爽やか笑顔のあいつが言ったんだよ・・・・」
「必ずしもあなたが、最高の指導者というわけではない、ですか?」

 言葉をなくして俯いてしまった俺の代わりに、ヨザックが先を続けてくれた。練兵場から、演習中の兵達の声が聞こえて来る。俺は、その中のたった一人の声を求めている自分に気付く。
 暫しの沈黙の後、俺はゆっくりと顔を上げた。

「色々とさ、想像してみたんだよ。例えばグウェンが言ったらどうなんだろう、とか、ヴォルフだとかギュンターとかだとどう思うんだろ俺、とかね。」
「で、どうでした?」
「それがさ、ちゃんと納得出来るんだよ、みんなだと。今グリエちゃんに聞いてみてもさ、そうだよなぁってすんなり納得、だったしさ。でもさぁ、コンラッドだとダメなんだよなぁ、俺・・・・。」

 そう、例えあいつが全然似合わない他国の軍服に身を包んでいたとしても、コンラッドの言葉だけはどうしても受け入れることが出来なかった。あの時、俺は必死になって、その言葉の裏にあるものを探していたんだ。

「本当ならさ、コンラッドの意思を一番に尊重してやらなけりゃいけなかったんだ。だってさ、俺は『基本的人権の尊重』とか『職業選択の自由』ってヤツの尊さだとか重さだとかを知ってるんだよ。それが当たり前に守られてる世界からやってきた魔王なんだからさ。だから、王様らしくない、無茶ばっかりするへなちょこ魔王が上司なら、コンラッドはそんな上司なんか見限って、自分の技量を最大限に生かしてくれるもっと良い上司を選ぶ権利があるんだって、俺は分かってた筈なんだ。友情は友情、職場は職場、ってね。」

 友情で手加減はするけど、職場は大シマロンの代表選手。今思うと、実際あの国でのコンラッドは、そういう風に俺に接してたんだと思う。

「でもさ・・・・、俺はあの時、どんな我侭を言っても、コンラッドには俺の傍に帰って来て欲しかったんだよ。」

 自分を誤魔化しながら過ごしていた日々は、哀しくて、苦しくて。俺の中で上手く呼吸ができない程に膨れ上がっていく厄介な感情を、俺は押さえ込む事ができなかったんだ。

「俺には、坊ちゃんの言う『基本的人権の尊重』やら『職業選択の自由』やらは小難し過ぎて良く分かりゃしませんがね。でも坊ちゃんは、そんな施政者としての面倒くさい思考や柵を全部ぶっ飛ばしてでも、あいつをお傍に置きたかったんでしょ?」

 俺に問いかける声はとても優しい。その声に促されるように、俺はずっと胸に溜め込んでいた想いを、今までの不安を、まるで吐き出すかのように言葉に紡いだ。

「うん。ただ単純に、傍に居て欲しかったんだよ。それだけなのにさ・・・・、なんで大シマロンの制服なんか着て、他のヤツのこと陛下なんて呼んでんだよ!あんたは俺のコンラッドじゃねえのかよ!ってね。すっげームカついた。」
「ムカついちゃったんですか?」

 ヨザックは一瞬呆気にとられたような表情で俺の顔をまじまじと眺め、プッて噴出して可笑しそうに腹を抱えてげらげらと笑い出した。

「そりゃムカつくよ。それまではさ、にこにこと過保護な保護者面して、俺が欲しがる言葉をほいほいくれてたクセにさ、肝心な時に俺になぁ〜んにも言わずに一人で勝手に突っ走りやがって・・・、挙句の果てに最高の指導者じゃない、だぞ。そんな言動も全部俺のためだってんだろ?わかりにくいって言うの!だいたい、俺の気持ちは無視かよ!ってな。」
「それでムカついた、な訳ですか。はははっ、あいつったらホント不器用。」

 眉をしかめて口を尖らせたまま、俺はまだ笑い続けているヨザックと同じように並んで、手すりに両肘を掛け背中を預けた。

「今だってそうだろ?魔王である俺が疾に許してるってのにさ、あいつはいつまでも自分を許せずにいる。でもって、またろくに休みもしないで、俺の為にって今まで以上に働き続けてる。俺の我侭を我侭にさせない為にね。ったく・・・不器用過ぎだよ・・・。」

 笑いすぎて目尻に滲んだ涙をぬぐい、ヨザックは不満顔の俺に、まだ笑いの残る蒼く澄んだ瞳を向けた。

「あいつにとって、坊ちゃんは特別なんですよ。」
「こんなにへなちょこな魔王でも?」
「どんな坊ちゃんでも、ですよ。坊ちゃんにとっても、あいつは特別なんでしょ?どんなに頑固でヘタレた大馬鹿野郎でも。そうでしょ?」
 
 ヨザックのその問いかけに、その時まで俺の体の中でもやもやと燻っていた感情に、すとん、と何か収まった様な気がした。絡まっていた感情が綺麗に整理されていく。俺の中で縺れ合っていた迷いや不安が、少しずつゆっくりと溶かされていくみたいに・・・。
 
 そうか、俺にとって、コンラッドは特別なんだ。

 尖らせていた唇が、いつの間にか弧を描いていた。

「そうだよ、特別だよ。ホントに、どうしようもなく頑固でヘタレた大馬鹿野郎だけどな。」
「誰が頑固でヘタレた大馬鹿野郎なんですか?」
「えっ!?」
「坊ちゃんと俺の知り合いのことですよぉ〜、ねっ、坊ちゃん。」

 いつの間にか剣の指南は終わっていたみたいだ。ふいに俺たちの前に現れた噂の人物の声に驚いた俺とは対照的に、優秀なお庭番はたいして驚くこともない。むしろ余裕の笑顔を浮かべ、バチンと音がしそうなほど見事なウインクを俺に向けた。 

「そうそう。俺たちの知り合いの話。ねぇ〜、グリエちゃん。」

 ヨザックの惚れ惚れする様な上腕二頭筋に腕を絡め、俺たちは二人並んでコンラッドにわざとらしいニッコリ笑顔を見せ付けた。そんな俺たちに、練兵場から帰って来たばかりの俺の護衛は一瞬目を見開き、やがて肩を竦めて苦笑を浮かべた。

「俺が居ない間に、随分と楽しそうになさってたんですね。実は、練兵場から垣間見える陛下のお姿が気になって仕方が無かったんですよ。」
「うん・・・、色々んなね、話をしたよ。」

 大きく頷いて笑う俺の顔を見て、コンラッドは何故かほっとしたような表情を浮かべた。慈愛を湛えたその薄茶の瞳に見つめられると、俺の中に僅かながらに残っていた不安はあっという間に霧散してしまう。やっぱりコンラッドは『俺の特別』なんだ。

「ところで、陛下。執務室へはお戻りにならなくてよろしいんですか?」

 コンラッドの一言で、俺は急激に現実に引き戻された。

「うわぁぁ、しまった!?」 

 グウェン、ギュンター、ごめんなさい。すっかり忘れてマシタ。慌てて腕のデジアナ時計を見ると、執務室を抜け出して、もうかれこれ1時間以上経過している。あたふたしてる俺を見て、コンラッドとヨザックは顔を見合わせ苦笑してる。

「陛下が早くお戻りにならないと、そろそろ汁っぽくなった王佐が、陛下を探しに城中を走り回りますよ?」
「それは勘弁シテクダサイ。それと・・・、陛下って言うな、名付け親。」
「失礼、ついクセで。じゃあユーリ、執務室まで戻りましょうか?」 
「おう。」

 コンラッドに促されるまま、バルコニーから城の中へと向かう。二・三歩歩いた時、ふと思いついて俺は立ち止まり、半歩後ろを歩く男の顔を見上げた。

「なあ、コンラッド。おれって最高の指導者かなぁ?」

 俺の問いかけに、しばらくの間沈黙した後、剣胼胝のある大きな掌が伸びてきて、俺の頬に触れた。硬くなった親指で俺の目尻の縁をそっと撫で、コンラッドはゆっくりと口の端を上げて双眸を細め爽やかに笑った。

「ええ、もちろん。俺にとって、あなたは最高の指導者で、最高の主ですよ。だから、もう心配しないで。俺は二度とあなたのお傍を離れたりしません。」

 女の子だったら一発で蕩けるだろう、俺が一生掛かっても出来ないような憎らしい程の笑顔でそう言いきる男の顔を俺はまじまじと見つめ、すぐに頬に熱が集まってくるのを感じた。そうだった、この過保護な名付け親が、今朝の俺の様子に気付かない訳がなかったんだ。いくら彼が俺を起こしに来る前に、赤くなった目元を冷やし、顔を洗って涙の跡を誤魔化したとしても。それでも今まで何も言わず、黙って俺の事を見守ってたんだ。糞!ったく、誰のせいで俺がぐだぐだぐるぐるしたと思ってんだ!ひとりで勝手に過保護な名付け親気取りやがって!

「あんたさぁ、大概にしろよな。あぁ、やっぱ、何かムカつく。」
「えっ?ムカつくって・・・、俺にですか?」

 本来の護衛が俺の傍に付いてから、ずっと俺たちの様子を見守っていたお庭番は、過保護すぎる保護者より先に少々八つ当たり気味の俺の変化に気付いたようで、きょとんとしているコンラッドを見て、また込み上げる笑いを堪えるのに苦労している。

「グリエ・ヨザック。」
「はっ!」

 俺はそんなヨザックに、めったに使わない王様モードにフルモデルチェンジして、慇懃な態度で名を呼びかけた。伏目がちに胸に手を置き、かしこまった態度で対応してるけど、肩が震えてるよグリエちゃん。

「俺は今から執務に戻る。お前には、ウェラー卿コンラートを彼の自室に連行し、明朝まで尋問する命を与える。」
「御意。」
「この過保護な上に無茶しまくってる名付け親を、よ〜く反省させといてね。」
「はいな。」

 俺は王様モードを一時解除して、グリエちゃんほど上手じゃないけど、ぱちんと片目を瞑って見せた。そんな俺に、本家本元お見事なウインクが返ってきた。

「えっ?ちょっと待って下さい、陛下?」

 訳が分からず珍しく焦った様子な名付け親に、俺はまた王様モードを纏い、嫣然と笑って返す。

「ウェラー卿、これは王命である。」
「・・・・・・・・・・、拝命仕りました。」

 俺の言葉に唖然とし、コンラッドは掠れた声で答え臣下の礼をとる。その哀しげに歪んだ薄茶の瞳に、俺は魔王ではなく、渋谷有利として、出来るだけ優しく届くように微笑んだ。

「あんたさ、帰ってきてから働きすぎなんだよ。たまには幼馴染と酒でも呑んで、ゆっくりしなよ。ホントは休暇だってやりたいんだけどさ、それじゃ俺が寂しいからさ。ごめんな。」
「ユーリ・・・・、ありがとうございます。」

 コンラッドはフッと小さく息を吐き、肩から力が抜けたように呟くと、ゆっくり目を細め穏やかな笑みを浮かべた。俺も微笑んでそれに頷き返すと、近くを警護していた兵士さんに護衛を頼んだ。

「せめて執務室までぐらい、俺に護衛させて下さい。」
「ダ〜メ。そうやって、あんたが俺を甘やかして俺もそれに甘えちゃうから、今日はもう絶対にダメ。」

 懇願する護衛に俺がびしっと言い放つと、コンラッドは長兄そっくりの皺を眉間に刻み、少し不満げに苦い笑いを浮かべた。

「あっ、グリエちゃん、後で上等なお酒グウェンに見繕ってもらって部屋に届けさせるからね。」
「ありがとうございます、坊ちゃん。んじゃ行きましょうか、隊長。た〜ま〜にはぁ〜、坊ちゃんだけじゃなくぅ、グリエにも付き合って、く〜だ〜さぁ〜い〜v」
「ヨザ、気持ち悪いから纏わり付くな。」
「いやぁ〜ん、隊長ったらぁ、つ〜め〜たぁ〜い〜!」

 纏う雰囲気をガラリと変えたグリエちゃんが、人差し指を口元にあて、色っぽい流し目でコンラッドの腕に逞しい上腕二頭筋を絡める。それを煩わしそうに冷たく振り切るコンラッド。じゃれあう仲良し幼馴染二人組に手を振り、俺はその場を後にした。できれば、麗しき王佐が、まだあまり汁気を増していませんようにと願いながら。
 そして、霧が晴れたように不安や恐れが無くなった俺の心に、たった一つ残り、ぽっかりと浮かび上がった甘やかに疼く感情。そのくすぐったい様な気持ちの正体とちゃんと向かい合える自分で在る為に、俺はしっかりと胸を張り、前だけを見据え、執務室へと続く長い廊下を足早に歩き続けた。






当サイト初まるマ話、です。
えっと・・・、コンユ甘々サイト!とか銘打ちながら、全然甘くありませんね;;
次男、最後のほうにしか出てこないし;;;
まだ自覚前って感じですが、ウチの陛下はこんな感じ!って言うのがわかって頂ければ良い、という事で。
それと、あたしが陛下とお庭番の関係が好きだってだけです、スイマセン。
しばらくは出番多いかもしれません。
これからどんどん甘く、そしてエロくなっていくハズです。(笑)
まずは引っ付くまでお話を進めたいな、と思っております。
三話ぐらいでくっ付いてくれると良いんですが・・・;;;
早く痒くなるほど気障でエロい次男が書きたいもんです。

okan

(2010/01/21)