ジュネ「泥棒日記」

 

 フランスの異色作家、ジャン・ジュネ(39歳)が新作「泥棒日記」を発表した。ジュネは昨年、無期懲役の判決を下されたが、コクトー(60歳)やサルトル(46歳)による大統領への働きかけで特赦となり、執筆活動を再開、本作を発表するに及んだ。
 「泥棒日記」の主人公(ジュネ自身)は、スペインを中心にヨーロッパを物乞いしながら放浪し、悪行の限りを尽くす。窃盗、殺人、裏切り、同性愛、売春、SS(ナチス親衛隊)・ヒトラー賛美。一般の社会から隔絶された悪の世界を描き出すジュネは、単に悪を賛美するだけでなく、一般的な世界観の価値に対峙して、アウトサイダーの世界観を構築し、そこに生(または性)と愛を見いだし、高貴な価値観を付与する。悪や異端の描写は、サドや中世にも作品は存在するが、ジュネの小説は決してグロテスクではなく、むしろ異様にまで詩的(ポエジー)であり、そこに彼の作品を際立たせているものがある。
 彼自身、孤児で、同性愛者で、乞食そして窃盗犯であり、獄中で執筆された処女作「死刑囚」をはじめ、前作「花のノートルダム」でも、異端の世界を描き、単なるポルノ小説であるという風評もあるが、コクトーをはじめサルトルなどの知識人は、ジュネの言語的表現としての彼の才能を買っている。 




戻る
01.ジュネ「泥棒日記」
1949年
20世紀の精神
    トップ戻る