かがくののおと 17


エンタルピー 1

  1. 蒸発

     分子1個が蒸発するときは,周りの分子との間の分子間力を振り切るだけのエネルギーがあればよい.多数の分子が蒸発するときは,分子1個が蒸発するのに必要なエネルギーと分子の数の積,だけではない.周りの空気を押しのけているので,その分のエネルギーが必要である.

      
     
      図 .1 分子1個の蒸発.体積変化はない. 図 .1 多数の分子の蒸発.液体が気体になり,体積が膨張する.その体積分,周り空気が押しのけられている.

     エンタルピーは,圧力一定の条件での,様々な変化(相変化,反応,など)に伴うエネルギーを扱う量である.すなわち,大気圧がある条件で,体積変化を考慮して扱う,現実的なエネルギー量である.

  2. モル蒸発エンタルピー

     蒸発潜熱とも呼ばれる.より正確には,物質 1 mol あたりについて,一定圧力のもとで,蒸発するのに必要なエネルギーとしてあつかう.

     熱エネルギーの単位としては,cal があるが,SI 単位では J (ジュール)を使う.1 cal は,4.184 J.もともと,1 cal は,水 1 g を,1 ℃(14.5 -> 15.5)上げるのに必要なエネルギーとして定義されていた.

    表 種々の物質の沸点におけるモル蒸発エンタルピー

     
    物質沸点モル蒸発エンタルピーエンタルピー / 温度
     TbΔ H m,b Δ H m,b / Tb
     KkJ mol -1J mol -1 K-1
    He 4.22 0.084 19.9
    H220.38 0.92 45.1
    Ne24.57 1.8073.3
    Ar87.29 6.52 74.7
    N277.35 5.59 72.3
    O290.18 6.82 75.6
    Cl2239.10 20.41 89.5
    CH4111.66 8.18 73.3
    C6H6353.25 30.8 87.2
    H2O373.15 40.66 109.0
    CH3OH337.9 35.27 104.4
    SiH4161.8 12.1 74.8
    Hg629.73 58.192.3
    Ag2466 254.103.0

     蒸発エンタルピーを温度で割った値は,ほぼ 80 J mol -1 K-1付近の値になっている.これは,蒸発が確率論的に扱えることを示している.この値は,蒸発エントロピーと呼ばれ,乱雑な状態への変化に対して,大きなあたいとなる.大きい値を示す物質は,液体状態において,分子間力による,分子同士のわずかながらの規則性が存在することを示している.(水素とヘリウムは,この比較では,特異的に低い値である.)

  3. 融解エンタルピー

     固体が液体になるとき,固体の規則性が失われて,液体の乱雑な状態になる.

  4. エンタルピー

     エンタルピーは,物質が地球上で存在するときにもつエネルギーである.つまり,ある物質1molのエンタルピーは,分子1つ1つのエネルギーの1mol分の合計にその物質が地表で存在するときに物質が排除する大気の体積(pV)エネルギーの合わせたものになる


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Last updated, Sep. 23, 2008