「レディ・イブ」の頃
−バーバラ・スタンウィック伝記より− *1*


ヘンリー・フォンダ、バーバラ・スタンウィック、プレストン・スタージェス


S.S.サザンクイーン号のデッキの手すりごしに身を乗り出す6人。この豪華客船はとある重要人物を乗せたモーターボートを待つために南洋の島の沖合いに錨をおろして停泊している。ハリントン”ハンサム・ハリー”大佐とその娘ジーンはまばゆいばかりの南洋の光のもと相棒のジェラルドと一緒に下を見おろしている。まわりにいた婦人の一人がその重要人物がパイク氏だと知ると、自分の娘に挑発的なスケスケの服を着てくるように言いつける。 カメラはジーン(本名はユージニア)の方へ移動。聡明そうな顔立ちをした彼女はリンゴをかじりながら、思惑ありげにモーターボートが近づいてくるのを眺めている。
ジーン: 彼ってお金持ち?
ジェラルド: 船を止めさせるほど。彼なら川の流れだって止めさせかねません。
ジーン: 私たちにないものを全部もってるのね。
ジェラルド: パーサーもうれしそうに言ってました。「大金を落としてくれる上客だ」って。
ジーン: パイク・ピークってブランドのオーナーだっけ?
ジェラルド: 違います。パイク・ペール。エールでよく飲まれているビールです。
ジーンはリンゴを手すりの向こうにつきだして、狙いをさだめるかのように下に目をやっている。
ジーン: (興奮気味に)金持ちでカード好きだったらいいのにね。
ハリントン大佐: 声が大きいぞ。
ジーン: 太った奥さんがいてくれれば月光の下でダンスしなくて済むのに・・。どうしてカモはいつもステップのとき足を踏むのかしら。
ハリントン大佐: カモはみんな不器用なのさ。
ジーン: いつも私ばっかりが汚れ役なのね。パパにカモられるのを待ってる老婦人だって一杯いるのに。
ハリントン大佐: じゃあ、おまえが行って見つけてこい。
ジーン: 「ハーイ、3枚賭博はいかが?」なんてね。
ハリントン大佐: わしらは格調高いペテン師なんだ。そんな低俗なのマネはやめることだな。
プレストン・スタージェスの脚本の最初の2ページには優雅なトランプ詐欺師である父娘と彼らの餌食となるためにモーターボートで近づいてくる億万長者チャールズ・”ホプシー”・パイクと彼の従者であり監視役でもあるマグジーについて述べられています。
「彼は有言実行の人でした」バーバラはスタージェスのことを回想します。「それまで私はパラマウント社との契約はなかったから彼は私を借りざるをえなかったわけだけど、どっちにしろ私はこの役を演じてたわ。彼はハンク(ヘンリー)・フォンダもフォックス社から借りたがってた。こっちも込み入ったキャスティングで、当時のハンクはダリル・F・ザナックのリンカーンをやってて他にもトム・ジョード(怒りの葡萄)やジェシー・ジェイムズの役なんかもやってた。でもスタージェスはどうやって彼が素晴らしいコメディアンだってわかったのかしら?こうやってどうにかみんなが”レディ・イブ”に集まってきたのよ。」



メインページへ戻る/ 次頁へ/