『I Trawl The Megahertz』はとぎれた記憶を振り返りながら自分の人生の意味を見出そうとする女性のポートレイトのような作品です。ラジオのダイヤルを回し、遠く離れた放送局にチューニングを合わせながら、さまざまな放送を断片的に聴いている誰かのように。"ように"と言っているのは、こういうあいまいな感じが試行錯誤しながら作ったこの作品にぴったりくるからです。1999年、病気の為にキーボードの前に体を曲げて座り、モニターを一心不乱に見つめるという従来の方法で作曲ができなくなりました。(その理由は何度も目の手術をしていたからです。)1971年からずっと曲を書いてきたので、これにはかなりのフラストレーションを感じました。作曲できなければイライラして不愉快な禁断症状を引き起こすのです。そういう状態だったので、読書することさえできず、TVやラジオの番組をテープに録音して聴いて時間をやり過ごしていました。聴取者が電話で参加する番組、インタビュー番組、個人用無線で行われる会話、暗号化された軍事情報などあらゆる種類のものを聞くことにのめり込んでいたのです。皮肉っぽい見方をする人は、おそらくこういった行為がもたらすものとして大きなものが不眠症の治療だと言うかもしれません。その通り。録音したもののうち、その90%が退屈なものでした。でもたいていのことって、その90%は退屈じゃないですか?これは実際に起こったことで、まったく自分の意思に反してやったことなのですが、聞いたことのいくつかを心の中で勝手に編集し始めるようになったのです。ドキュメンタリーの中のちょっとした言葉が真夜中に放送される聴取者が電話で参加する番組の悲しい打ち明け話とリンクしあったり、違う時間帯の別の番組で話されたフレーズと結びついて奇妙に新しい感動的な文章を作りだしたり。そして個々のフレーズの純粋さ(あるいはやましさ)を守り、初めて聞いた物語のようにまとめるために、細部を変えていきました。そう、あと全体がもっと音楽的な感じになるよう作ったつもりです。この作品においてはっきりしていること、それは作曲ができないという不遇な状況に置かれた抒情的な音楽家の潜在意識にコントロールされて作られたということです。拾い集めた言葉はある部分ではラブソング、同時に一方では悲嘆にくれる歌にもなるよう構成していきました。(真夜中すぎのラジオ電波を通じてどれだけ多くの悲しい話が流れているかご存知ですか?)正直言って、洗練された作品として完成させるにはかなりの手を加えることが必要でした。(失礼ながら、一般的に個人用無線で話される会話は戦争の最前線レポートとは全然違いますからね)だから集められた素材の骨子となるような部分もいさぎよくたくさん切り捨てて、語り手のキャラクターをより明確にしていったのです。彼女が話す物語の細部はすべて自分で作り上げています。そして最終的には、これまた皮肉っぽい話なのですが、『I Trawl The Megahertz』の音楽部分はすべてコンピューター上で作曲するようになりました。実際、この作品を作る方法としては、テクノロジーに大きく依存するようなやり方以外にありえないのです。自分自身が音楽について無学ということもあって、有能な音楽ソフトに頼っています。音楽ソフトのおかげでさまざまなアイデアを試行錯誤する手段が持てるのです。(言わせてもらえれば、今回のアルバムは全曲を作曲して、コンピュータースクリーンに楽譜通りの入力はしているけど、1音たりとも自分で演奏をしていません。)恥ずかしながら、カラム・マルコムとデビッド・マクギネスにお願いして、MIDIでのヴァーチャルな楽器演奏と実際のミュージシャンの演奏とのギャップを埋めてもらったのはまったくの正解でした。音楽的素養のない人間のアイデアをプロのミュージシャンの笑いものにならない譜面に書き換えるのを手伝ってくれた2人には感謝しています。辛抱強く、高度な演奏を提供してくれたミュージシャン達、この野心的な作品の資金を調達する方法を見つけてくれたキース・アームストロングにも感謝します。最後になりますが、『I Trawl The Megahertz』の語り手をしてくれたイヴォンヌ・コナーズ、彼女の神秘的な声は1999年10月25日、ロンドンのケンジントンにあるロイヤル・ガーデン・ホテルの551号室で午後6時15分から8時45分の間に録音しました。すごく詳しいでしょう。彼女の声なしにこの作品はもはや想像できません。イヴォンヌと彼女を紹介してくれたカスバーソン夫妻にも感謝します。またマーティンとミカエル、2人の兄弟にもこの作品を捧げます。
1. I Trawl The Megahertz
2. Esprit De Corps
3. Fall From Grace
4. We were poor...
5. Orchild 7
6. I'm 49
7. Sleeping Rough
8. Ineffable
9. ...but we were happy
|