2本のライン






ファレリー兄弟の新しい映画を見た人間の感想は底抜けに面白いという人と不愉快な気分になったという人に分か
れている。しかしどっちにしても映画は大ヒットしており、興行ランキングでは2週連続の4位、これまでに1270万ドル
を稼ぎ出している。

「『メリーに首ったけ』は今上映中の作品の中でも本当に強い映画だ」エグジビター・リレーション社副社長のポール・
ダーガラベディアンは興行成績を見てそう言う。「先週からたった8%しか落ちてない。かなり厳しい競争のはずなの
にこれはすごいことだ。面白いって噂が広がって伸びてるんだろうね」

ファレリー兄弟はこれまで『ジム・キャリーはMr.ダマー』『キングピン』という作品を作ってきたがこれらの映画を受け入
れることのできない人達もいた。好きになるか、嫌いになるか、そのどちらかであるという評判も噂で広がってるようだ
が、ファレリー兄弟がとんでもないコメディ映画の次世代のリーダーであることはこの『メリーに首ったけ』でも明白であ
る。

最新作『メリーに首ったけ』ではみんなの好意の対象となる女性にキャメロン・ディアスを起用し、彼女をめぐってバト
ルする二人の男性をベン・スティラーとマット・ディロンが演じている。

観客は陰部や分泌物にまつわるたくさんの下品なジョークの連続に見舞われることになる。身体障害者やマスター
ベーションのギャグもあり、子犬が電気ショックを与えられるシーンもある。性器がジッパーに挟まれるシーンはこの
映画で最も話題になってるシーンだ。



興行成績では圧倒的な強さを持っている一方、この映画のユーモアはアメリカ映画で最低の部類に入るとする批評
家たちも存在しており、ナショナル・パブリック・ラジオ誌の娯楽欄担当の批評家トム・シェールズはこの作品をグズ映
画呼ばわりしている。

二人が超えてはならないラインまで踏み込んでいるという批判について当のファレリー兄弟はどう思っているのだろう
か?

「2本のラインがある」ピーターは言う。「批評家達がそこにあるっていうライン。そして本当の境界線となるライン。僕
らが向かってるのは本当の境界線なんだ。でも僕らはその境界線を越えるようなことはしない。僕らはそのラインがど
こにあるのかを知ってるから越えることはないんだよ。そのラインを越えると本当に卑劣だから観客は笑わないから
ね」

キャメロン・ディアスも同意する。

「悪意なんてまったくないの」彼女は言う。「私達は誰も馬鹿になんかしていない。精神薄弱者のことを笑いものにし
てるんじゃなくて、彼らのことを笑う人たちを笑いものにしてるのよ」



映画の中のキャメロンの弟は精神薄弱者で、耳をさわろうとする人間に対して暴力的になる性癖を持っている。

この弟にまつわるユーモアはフォレスト・ガンプのような可笑しさがある。「そう、フォレスト・ガンプみたいなものさ」ピ
ーターは言う。そうファレリー兄弟は別にこの映画で新しいことをしているわけではない。

「知恵遅れの人間をとり上げた映画っていう意味ではフォレスト・ガンプみたいなものさ」ピーターはトム・ハンクスがオ
スカーを獲得したこの映画を例えに出して説明する。「あの映画のユーモアの多くはフォレストを笑うところからきてる
んだけど、とってもハートのある映画だから、みんな本当にフォレストのことが心配になる。それは監督自身がフォレ
ストのことを心配しているからなんだ」




ファレリー兄弟はシャム双生児を題材にした新しいコメディを作っている。「僕らは二人とも同じビジョンを持っている」
二人はしばらくの間会社員として生活を送った後に映画の作り手になった。ピーターは営業職、ボビーは"世界で一
番最初の巻きビーチタオル"を作った会社で開発助手をやっていた。二人は映画業界をハードに生き抜いてきて、い
まや強固なチームになった。

「二人で続けてるのは、他には替えがたいレベルの信頼度があるのが一番の理由だと思う」ボビーは兄と一緒に働く
ことについてこう語る。「僕らは基本的に同じヴィジョンを持ってて、ちょっと常識はずれのところがあるけど、二人でそ
れを共有してる。だから他人からもっと手加減するようにって言われても、二人ならそのヴィジョンを守り通すことがで
きるんだ」

ファレリー兄弟は批判を受けているにもかかわらず、自分達のユーモアを手加減することはしない。二人はすでに
『Stuck on You』(邦題『ふたりにクギづけ』は6年後に製作された)という新作に取りかかっている。これはシャム双
生児を題材にしたコメディだ。

「彼らは幸せなシャム双生児なんだ」ピーターは言う。「二人は自分達のことを神から祝福されていると感じている。
二人以外の人間にとって、人は一人で生きていくものとされているけど、二人は寛大な気持ちを持ってて、友達もたく
さんいるし、プロムでも一番の人気者だからそうは思わない。州で一番強いホッケーチームでゴールキーパーもやっ
てる。それも二人がシャム双生児として生まれたからなんだよ」

ファレリー兄弟はあらゆるものを笑い飛ばしながら勝ち進んでいる。



マット・デイモン、グレッグ・キニア
『ふたりにクギづけ』(2003年)より




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