ファレリー兄弟はアンチ・コーエン兄弟



”オチがなければ意味がない ”




映画史によく通じている将来有望の若い映画監督。過去の偉大な監督達が映画にかけたマジックを理想とするプロ
意識を持った映画監督。ピーターとボビーのファレリー兄弟はそのどちらのタイプでもない。

「僕らは映画マニアじゃない」ボビーはそう言う。「市民ケーンだって見てないよ」生まれ育ったロードアイランド州のキ
ャンバーランドには映画館が一軒もなかった。『ジム・キャリーはMr.ダマー』『キングピン ストライクへの道』に続い
て、再び脚本とギャグを練り上げ、いいスタッフを集め、たくさんのガッツを込めた最新作『メリーに首ったけ』をリリー
スしたばかりだ。”映画史に残る作品を作るのが生涯の夢”、いいや、二人を映画作りに駆り立てているのはそんな
ものではない。

「大学を出てからの4年間は二人とももがいてた」ボビーは言う。「僕らはセールスマンをしてたけど自分達にはセール
スの仕事はあまり向いてなかった」その当時から二人は映画館に足を運ぶようになり、自分達にも映画が作れるんじ
ゃないかという思いにとらわれるようになった。シド・フィールドの代表作『Screenplay』を読んだのはボビーいわく、脚
本を書くには形式があると人から聞いたからだそうだ。

二人はハリウッドへ行くことを決意し、多くは『ドラグネット2』など日の目を見ないプロジェクトではあったが、そこでな
んとか雇われ脚本家になるチャンスをつかんだ。その当時、ピーターが書いた脚本『Dust to Dust』を友人のベネッ
ト・イエリンと一緒に手直しして、自分達で映画を作ろうという思いをふくらませていた。

13年間ファレリー兄弟と一緒に仕事をしてきたプロデューサーのチャールズ・B・ウェスラーは『Dust to Dust』を作品
化するための資金をかき集めていた頃をよくおぼえている。「出資者達に脚本を読ませたら、2つのことを言われた
よ。まず"こいつは痛快な作品だ"って。それから"これが面白いっていうならピーターに監督をさせてみたら?"って
ね」



そして、二人の思いはついに実現した。脚本に興味を持ったジム・キャリーが映画化への道を開いてくれたのだ。脚
本『Dust to Dust』は『ジム・キャリーはMr.ダマー』として映画化された。ピーターは短編映画、ビデオ、CMの経験な
しにいきなり監督に選ばれた。ウェスラーはピーターのビジュアルセンスを堅く信じていたが、そんなウェスラーでさえ
この新人監督が最初の製作会議に現われた時にはちょっとばかり心配になった。「はじめにピーターのところへ挨拶
に行ったんだけど、ピーターは手に1冊の本を持ってて、よく見たら"映画の作り方"ってタイトルの本だったんだ。思わ
ずフットボール選手みたいに彼に飛びかかっていったよ」

ボビーは思い出す。「僕らは自分達の度胸以外になにもあてにできるものがなかった。撮影の前の日、ピーターは気
分が悪くなって吐いてた」ファレリー兄弟ははじめてハリウッドへ行ったときに出会ったディビッドとジェリーのズッカー
兄弟に助けを求めた。「二人は素晴らしい助言をしてくれたよ。撮影監督と助監督を呼び出して映画の撮り方を知ら
ないことを打ち明ければいいって言われた。現場スタッフは喜んでそれを受け入れてくれたけど、僕らははじめ自分
達の映画が撮影監督にのっとられるんじゃないかって心配だった。だってそんな打ち明け話をするのは弱点をみせる
ことになるからね。でも今ではもうみんなのことを信じてるよ」

「僕らはアンチ・コーエン兄弟なんだ」ピーターは言う。「誰も僕らの映画作りを分析したりしないし、僕らも分析して欲
しいなんて思わない。コーエン兄弟はどうやってカメラを動かせばいいのかわかってるから、ひとつの部屋の中でも1
本の映画を撮れるし、見ている観客にはそれを気付かれることもないだろう」

「思うんだけど、映画学校で教えられるような知識がかえって映画の多くの部分をダメにすることもあるんじゃないか
な」ピーターは続けて言う。「特撮を使った大作映画、MTVみたいな映画、洒落たCMを撮る監督達、みんなとてもい
いんだけど、大事なのはストーリーだと思う」

ピーターとボビーはストーリーという点においては『キングピン ストライクへの道』は『ジム・キャリーはMr.ダマー』より
よくなってると思っている。デビューしてからの2年間、努力していい映画を撮れるようになったこともあり、二人は3作
目『メリーに首ったけ』で更なる進歩を遂げることができたと確信しているようだ。「キングピンのプロットはMr.ダマーよ
りよく出来てたけど、まだギャグに頼りすぎてた。今度のメリーではギャグなしにしてもいい映画になってるはずだ。み
んながこれまで見たことのないような工夫を凝らしたからね」



しかし『メリーに首ったけ』の製作は本質的にはそれまでの2作を反映したものだった。撮影の主要部分は47日間で
済ませ、予算は2300万ドル。これはどちらも前2作とあまり変わらない数字だ。ピーターとボビーが脚本書きから準備
作業そして撮影までずっと二人一緒にやったのもこれまでと同じだった。この共同作業についてピーターはこう言って
いる。「どちらかがうまくいかなくても、もう片方がそれをカバーしてくれる。ボビーは僕よりもいい編集センスを持って
いる。僕はシーンをカットするのが辛くて躊躇するんだけど、ボビーはいつでもバサッと切ってしまえるからね」ボビー
は言う。「これまで2度ほどあったけど、うまくいかないと自分達で気付いたシーンは撮らないようにしてる。そんなこと
もいい経験になって、いまではずいぶん早く撮れるようになったよ」ピーターが明らかにしたことだが、編集で2時間弱
にカットする前はたいてい約4時間のフィルムがあるそうだ。

ピーターは今では担保という言葉の意味を知っている。これまでの経験で映画撮影、資金集めのエキスパートにまで
はなっていないが、二人はもう自分達の知ってる言葉を使って有能なスタッフに技術的な指示を出すことに不安を感
じていない。『メリーに首ったけ』のプロデューサーであるウェスラーがこんなことを話してくれた。「一度、撮影第2班が
大事な道路標識を撮影しに行ったんだけど、焦点がボケてて使える部分が少ししかなかった」ウェスラーは撮りなお
しせずに、使える部分をデジタルで修正するように提案した。その時ファレリー兄弟は目を見開いてこう言ったらしい。
「そんなことできるの??」






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