ペンギンドクターの
診察室
私達人間はもともと食べ物がなくて飢えるということに慣れていました。身体の仕組みも、飢えに耐える能力を大切にして作られています。西洋の絵画展で、果物や魚や鶏などがテーブルに一杯盛られている絵をよく目にします。長い人間の歴史でごく最近まで、飢えないことが一番大きな幸福だったのです。
ところが私達の生きている日本はどうでしょう。飽食の時代といわれるほど食べ物が溢れているのです。飢えには強いが飽食には弱い人間ですから、食べ過ぎた結果多くの方が糖尿病になってしまいます。
この数十年の間に日本で糖尿病が増えてきた原因の第一は、この栄養過剰だと言われています。戦争が起こらないできた平和の恵みの一つが糖尿病だと皮肉る方もおられるくらいです。
こんなに食べなければ、きっと糖尿病は治るのにと分かっていても、好きなものを食べないでおくのはとても辛いことです。食欲を自分の意志でコントロールすることは簡単なようで、なかなか出きるものではありません。
ある日いつも来られる患者さんのコレステロール値が正常の1,5倍以上になっていました。あわてて聞きますと当時は卵を近所の方から一箱頂き、おいしいから朝晩食べ続けていたとのことです。早速これはやめてもらいました。行きすぎるところはありますが、何事にも積極的な方なのです。
その後に糖尿病が出てきましたので、食べ過ぎて肥えないように指導しました。1,2ヶ月するとデータがまた極端に良くなっていました。持ち前の積極さで、玄米を毎日食べているとのことでした。体重は10キロ近く減りました。玄米は同じ量を食べているつもりでも、あとでお腹が本当に空いてきます。同じ茶碗でもカロリーが白米より随分少ないのです。この方から糖尿病の食事指導の大切さを改めて教えていただきました。
おやさまの教えに「病の元は心から」というお言葉があります。糖尿病を診ておりますと、私はこのお言葉の意味がそのまま素直に納得できるのです。健康には悪いと分かっていても、食欲という欲を抑えること、まして打ち勝つことは本当に難しいことだと思います。心の欲が糖尿病の元だと、心から納得するのは並大抵のことではありません。
この頃よく耳にされる生活習慣病という言葉は、私達の欲から出た現在のライフスタイルに大きな原因があるのだと言う意味です。タバコやお酒も、ケーキの食べ過ぎも、病気につながる不摂生は、全部私達の心から出ていることだと警告されているのです。