ペンギンドクターの
診察室


薬は神の恵

ステロイドというとアトピー皮膚炎を思い浮かべる方が多いことでしょう。皮膚の炎症を強力に抑えて、アレルギーで全身に広がった湿疹が治る。しかし、余り使っていると副作用の方が心配になる。これしか効かないという病気もあるほど大切な薬ですが、一般には評判が良くありません。

このステロイドが良く効いて幸せになった三人の女性がいます。Aさんは多発性筋炎いう珍しい病気でした。病院に来られたときには電話の受話器が取れなくなったと言っていました。次ぎに来られたときには箸が持てなくなってきて、即入院となりました。全身の筋肉に炎症が起こり急激に筋肉の細胞が壊れていくのです。そのため箸を握る力も出なくなります。早速ステロイドの大量内服を開始し、効果が出てきたのを確認して徐々に減らしていきました。

Bさんはループス腎炎という腎臓の病気にかかり高熱が続き、入院直後から腎臓の働きが急速に悪くなっていきました。一時は透析になるかと心配されました。やはりこの方もステロイドを大量に内服し、それでも効果が出ないので免疫抑制剤という当時では副作用の強い薬も追加しました。幸い効果が出て腎臓の働きは次第に正常に戻っていきました。

Cさんはネフローゼで他の病院で治療を受けていましたが、良くならず受診されました。腎臓の病気で尿蛋白が沢山出て、身体の中の蛋白質が減ってしまい、身体中がむくみで腫れてくる病気です。この方もステロイドの大量内服を始め、効果が出たので徐々に減量することができました。蛋白尿が消えますと維持量という最低量のステロイド量を決めて、それを何年も続けていきました。

Aさん、Bさんはいわゆる膠原病という難病の患者さんです。副作用は覚悟の上で大量の薬を飲み、少々の副作用は乗り越えて薬を続けます。そうしないと生命にかかわるからです。Cさんは一旦良くなりましたが2度ほど再発があり、その度に入院をしてステロイドを最初からやりなおしました。

この三人の女性はいずれも20才前半で発病し、一番輝いた時代を病気と闘いました。どの病気も治ったとは言えない、一旦安定したという意味で「寛解」という言葉を使わねばならない難しい病気です。嬉しいことに三人ともに病気が寛解したあと、結婚をされて子供さんを生みました。発病以来20年近く経ったいまも、母子ともに元気で過ごしておられます。この場合、ステロイドは患者さんと、患者さんの未来と、患者さんの新しい命を救ったことになります。薬はとかく嫌われがちですが、正しく診断し適正に使われれば、病人にとってこれほど力になってくれるものはありません。私達は豊かさになれて、薬の有り難さを忘れがちです。健康も、食べ物も、そして薬も神様のお恵みです。

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