ペンギンドクターの
診察室
この頃どうもホケてこられたようです。病院に連れて行くのも可愛そうですので、ちょっと往診してください。そう言われて気軽に出かけましたが、はっきりした異常は見あたりません。家族の話を聞きますと少し様子がおかしい程度ということでした。一応頭のことですから脳卒中なども考えられ、病院に受診することを勧めましたが高齢だからと断られました。何度か往診をしているうちに次第に意識のレベルも落ちてきました。かといって、手足はちゃんと動かせます。半身麻痺のようなものはありません。老人性痴呆の始まりか。
しかしどうもおかしいので、病院で検査をしてもらうよう強く勧めました。やっと家族が病院に連れて行き、頭部の精密検査を受けました。CTというレントゲンの検査です。普通のレントゲンではなく、大きなドーナツのような輪の中に頭を置いて、周りをぐるぐるとレントゲンが回ります。そうすると頭の中にある脳が、卵を輪切りにしたような絵になって出てきます。これをテレビの画面でみて、何処かに出血した所がないか。血管が詰まって死んでしまった場所があるか、出来物はないかと詳しく調べることができるのです。
このCTで調べましたら脳はどうもなかったのですが、脳味噌の外、脳と頭蓋骨の隙間に血液の固まりがたまっていました。この固まりが豆腐のような柔らかい脳味噌を押さえていたのです。それで意識がおかしくなってこられたのでした。
このような病気を硬膜外血腫といいます。脳を包んでいる硬い膜と頭蓋骨の骨との隙間に血液がたまって出来るのです。徐々に目立たぬように起こりますから、慢性という言葉が前に付きます。よく老人ボケは治らないといいます。実際治らない痴呆症がほとんどです。なるべく病気が進まないようにするため、リハビリや、薬や、いろんな治療が試されています。
ところが痴呆の中に治る痴呆がある。この一つが慢性硬膜外血腫という病気です。場所が分かれば、そこに穴を開けて血液の固まりを取り除いてやれば、見事にボケは治ります。先ほどの方も手術を受けて退院され、それから短歌の歌集を本にして出されました。
あきらめる前に、正しい検査を受けることを是非忘れないでください。医療の技術は検査の面で非常に進歩しています。医者も薬も神様のご守護です。大いに信用し利用してください。同時に神様に感謝もいたしましょう。