ペンギンドクターの
診察室
空脳という言葉はもちろんありません。要するに脳が空っぽということです。脳が空っぽでも飢餓と思わない。そういう人もいるでしょう。しかし私たちは知恵、知識を持っているから人間だと考えられています。せっかく生き物の中で身体のわりには大きな脳味噌を持っている私たちですから、脳の中にしまっておく知識や知恵を沢山持つのにこしたことはありません。反対に脳が空っぽではさみしい限りです。
禁断の木の実という言葉を耳にしたことがあるでしょう。人はそれまで知らなくて純粋な気持ちで生きておれたのに、知ってしまったために疑いや欲望がフツフツとわいてきて、邪悪な心になってしまう。そんな知識のことだと思ってもらえばよろしい。確かに、知識には知らなければ良かったという様なものが多くあります。たとえば原爆を造る知識、拷問の知識、毒や麻薬の知識などなど沢山あります。しかし、どんなに沢山の有害な知識があっても、それを何倍も上回る有益な知識があることは間違いありません。
今から30年ほど前に世界の賢人達の集まりから重大な警告が出されました。このままでいくと人類は人口がどんどんふえるのに食料の生産が追いつかず、近い将来食料危機が起こるというものです。実際1960年から1990年までの30年間で世界の人口は1.6倍に増えました。しかし幸いなことに同じ期間で食料の生産量は2倍以上になり、むしろ一人あたりの食料の量はふえることになりました。これは緑の革命という農業技術の進歩があったからです。たとえばアジアでは品種改良の結果、ミラクルライスと呼ばれている収穫量の多い米が作られました。こうして私達は食料危機を乗り切ることが出来たのです。
このように現在の世の中で私たちが生きていけるのは、何千年もかかって人類が築き上げてきた知識や知恵のおかげです。おやさまは、神様が6千年をかけて人間に知恵を仕込んだと教えて下さっています。神様が私達人間を創られたということ。また、おやさまが私達人類の親であるという真実も、この160年あまり前に初めて知らされた知識でした。知識を記憶し正しく理解して、誤りのない生き方をする知恵も、私達に与えて下さった大切な神様の恵みです。それが脳に納まっていなければ大変悲しいことです。
では頭に知識がないと、飢餓と言うほどの苦しさを私達は感じるのでしょうか。感じる人も、感じない人もいるでしょう。初代真柱様の伝記にこんな一節があります。真柱様がまだ十代の頃、おやさまに京都に学問をしに行かせてほしいとお願いされました。おやさまは、「私も一緒に連れていくのならどこへ行ってもよろしい」と言われたそうです。結局真柱様は京都に行くのをあきらめ、おたすけのご用のために教祖のそばに留まられたのです。この若い真柱様の気持ちは、私にも分かるような気がします。若いときには好奇心というか、知識欲というか、とにかく未知のものに対するチャレンジ精神がもりもり沸いてきます。若さのせいでしょうが、これが青春だと思います。反対に真実の姿や本当の話をみずから見聞できないで、知識の山から遠ざけられると、体の中から沸き上がってくる衝動のようなものを抑えきれなくなって、空腹飢餓と同じほどの苦しさを感じるのだと思います。
たかが知識ぐらいのことで飢餓と同じ様な苦痛を感じるだろうか。もっともな疑問です。特に本当の飢餓を生き抜いてきた経験豊かな大人には、知識が学べないからと言ってアブラムシを口にくわえるほどに辛いとはとても思えない。大人は深く大きな人生経験から、一方的に片寄りがちな若い感覚を押さえこんでしまうのでしょう。私は息子から「なぜ人は生きるのか」と聞かれたことがあります。最初は、何をキザなことをと思いました。けれどもよく考えてみますと、考えれば考えるほど正解が分かりません。息子よりはるかに長く生きているのだから、一度ならずこんなことは考えていたはずです。なのにとっさに答えることが出来ません。そのうち人さまのためになるように生きているのだと思いつきました。あまり自立した主体的な意見ではありません。エーイつまらん。そんなこと考えても飯は食えない。結局その時は私もおおかたの大人と同じ思考過程で済ましてしまったのです。
青春は腹の足しにならぬ知識でも、とにかく一生懸命に考え抜くエネルギーと時間を与えてくれます。乾いた砂に水をまくように、若い頭には知識が素直にどんどん吸収されていきます。人生経験という支えがない代わりに、ふらふらとどこにでも飛んでいき、興味の向くままに知識を飲み込んでいきます。これは若さの特権です。このような青春のただ中にいる若者が頭を空っぽにしていては、飢えと渇きで苦しむのは当然です。ゲームや、タバコや、ファッションで頭を麻痺させようとしても、埋めきれない穴が頭の脳味噌にぽっかり空いているはずです。欲しいものなら求めましょう。知識を知恵に変え、魅力のいっぱい詰まった若者になって下さい。