ペンギンドクターの
診察室


胃カメラ

 胃カメラといえば馴染みのある言葉でご存じの方も多いと思います。文字通り長い管の先端にフィルムを仕込んだ小さなカメラが付いていました。50年余り前に日本で初めて開発された技術です。胃癌の早期発見に威力を発揮しました。ただこの欠点は写真を撮ってフィルムを現像するまで結果が分からないことでした。

 10年くらい後で髪の毛より細いガラス繊維----光ファイバーが出現しました。これを束にしますと手元まで光を引き出すことが可能になります。先端にカメラを取りつける必要がなくなり、手元で直接見ながら検査の出来る内視鏡がアメリカで作られました。肺や大腸の検査などにも応用され、どなたもたいてい一度はこのお世話になっておられることと思います。

 そして現在では電子内視鏡の時代に入っています。最近爆発的に売れているデジカメと同じ原理で、先端の目に当たる部分にCCDというものを使っています。非常に小さくなったビデオカメラが先端に付いていると思ってください。別名ビデオ内視鏡といわれています。この方法になってからは、テレビの大画面に胃の中の様子をそのまま映し出して、明るい部屋で患者さんにも見せながら検査をするようになりました。

 この百年科学技術の進歩が医療にもたらしたものは数え切れないほどです。胃の検査一つをとってみても以上のようなめざましい発展がありました。その間に病気の事情も大きく変わっています。今まで胃癌が日本で一番多い癌でしたが、最近は少しずつ減っています。その代わりに肺癌や大腸癌が一本調子に増えてきました。とくに大腸癌は女性では二位、男性では三位の死亡率となっております。

 癌は遺伝子の異常が原因で起こると言われています。なかでも大腸癌は何度か遺伝子の異常が積み重なって、階段的に癌になっていくことが分かってきました。つまり早いうちに癌の芽を摘んでしまえば、癌にならずに済むということになります。そこで最近では積極的に内視鏡を使って、大腸癌になる手前のこぶを発見して、疑わしいようなら切り取ってしまうのです。それには何カ所も、また何度でも繰り返してやれる方法がなければ出来ません。内視鏡をつかえば、何度でも、また、大腸全体を見渡して何カ所でも検査し、怪しいところがあれば取ってしまうことが出来るのです。

 この内視鏡の優れた特長をもっと上手に使った治療法が最近広まっています。内視鏡下手術といわれる方法です。もともとお腹の中をのぞいて肝臓の表面の色や形を観察する腹腔鏡という検査がありました。これは硬い金属の管を使っていましたから取り扱いの難しいものでした。ところがビデオ内視鏡が登場して、自由にお腹の中が見えるようになりました。その上明るい部屋で2,3人の医師が同時に一つのテレビ画面を見ながら、お腹の中の手術ができるようになったのです。いまでは胆嚢を取り出す手術は、この方法が標準手術となっているそうです。今後ますます内視鏡の利用される分野が広がると期待されます。

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