ペンギンドクターの
診察室


MR・MRA

 大きな筒の中はなんだか暗い穴蔵のようで、検査が始まると大きな音がガンガン鳴り出し、すこし気の弱い人なら出してくれと大声で叫びそうです。ところが見かけとは大違い、この検査はとても楽チンで、終わるまでゆっくりと寝ておれば良いのです。その上撮影される絵は非常に精密で病気の診断に大変役に立ちます。ただ検査の費用が高く付くのが一番の難点です。

 大きな装置の筒の周りには、非常に強力な磁石が取り付けてあります。磁石といっても超高電流が流れて作り出される磁石です。数メートル以上離して金属を置いても、磁石めがけて飛んでいくほどの磁力です。この磁石の筒の中に頭を突っ込むと、頭の周囲に目には見えない高い磁力の空間が出来上がります。これを利用して脳の輪切りの絵をコンピュータで作り上げていくのです。ついでながら、これくらいの磁力でも人体にとってほとんど無害ですのでご安心下さい。

 MR検査はいままでには考えられないような強力な磁石を作り出すことができて初めて実現しました。それだけではなくコンピュータ技術の進歩があったぁら生まれてきた検査です。一つの画像を見るのには気の遠くなるような計算を瞬時にしなければなりません。この原理を発明した学者はノーベル賞を受賞しています。

 この検査の何が画期的かといいますと、身体を縦、横、斜めでも、どんな方向でも輪切りにして絵にすることができる点です。その上みたいところを拡大したり、血液の流れを絵にしたり、身体の中の生命活動を詳しく測定することもできるのです。例えば人が物を見つめるとき、脳のどの部分が活発に働くかをテレビに映し出すことができます。

 病院でMR検査が一番よく使われるのは頭の病気です。脳血栓や脳出血をまるで解剖して脳を取り出した様に詳しく調べることができます。首から脳に行く途中血管は骨の中を通り抜けますが、これもMRを使えば精密な血管の立体画像にすることができます。最近流行の脳ドックでは、頭蓋骨の中の血管を詳しく調べて、小さな動脈のこぶ、つまり動脈瘤を見つけるのです。突然激しい頭痛におそわれて、アッという間に命を落とすことのあるクモ膜下出血は、脳動脈瘤が破裂して起こります。一部の病院では破裂する前に動脈瘤を見つけだし、中に詰めをして破裂を予防する治療が積極的にやられています。

 難点はいくつかあります。まず金属が体の中にある人は、強力な磁力にさらされますから十分に注意する必要があります。また一回の検査に時間がかかることも大きな欠点でした。ところがこの十年の進歩は目覚ましく、MR装置の検査速度は飛躍的に速くなっています。たえず動いている心臓の検査も可能となってきました。心臓の表面にある細い冠動脈を動いているままに調べることもできるレベルになってきました。レントゲンが20世紀の医療を切り開いたように、MRは21世紀の新しい医療を開く技術の一つとなるでしょう。

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