ペンギンドクターの
診察室


超音波検査・心エコー

憩の家が開院した頃、日本で当時は珍しい医療機器が色々そろっていました。その中にレーダーの様な丸い画面の大きな機械が1台あり、研修医の私はこれが超音波診断装置であることを初めて知りました。超音波で体の中を見る方法は、日本が世界に先駆けて開発した技術として有名です。戦争中に研究された潜水艦を発見する機械の知識が役立ったのだそうです。いまでは魚群探知機がよく知られています。船から海の底に音波を出し、音が魚の群に当たると反射して返ってくるのを計り、魚の群を探す方法です。人の身体は半分以上が水分ですから音波はうまく中に入っていけます。そこで肝臓の前後の壁や、中の血管、すぐそばの胆嚢などに音が当たると、はね返ってきます。音波を出してから返ってくるまでの時間から、それぞれの位置を計算して画面に絵として表示します。

 少しややこしくなりましたが、とにかく身体の中の様子を詳しく絵にして見ることが出来るのです。憩の家の最初の装置はレーダーのようなぼんやりしたものでしたが40年ほど経ち随分進歩しました。今では大抵の場所が、取り出した標本のようにきれいに画面に映し出されます。ただし、肺のような空気が沢山あるところや、脳などの硬い骨で囲まれているところは、超音波が通らず検査は無理です。それでも心臓、肝、膵、腎、甲状腺、乳房、子宮や血管、さらに眼や関節などと非常に応用範囲が広がってきました。その上枕元でも聴診器のように簡単に使えるコンパクトな装置が開発され大変役に立っているのです。

 超音波で今一番よく使われているのは腹部断層装置です。これで胆石や胆嚢ポリープの検査を受けた方は多いことと思います。特に肝臓や膵臓の癌を発見するのになくてはならない検査です。ところで最近C型慢性肝炎が騒がれるようになりました。B型肝炎は随分前からビールスの正体が分かっていて、母子感染を予防することで病気自体が減ってきました。C型肝炎のビールスは正体がなかなかつかまらず、10年位前からやっと診断できる方法が見つかりました。そしてこの患者さんが日本で相当多くおられることが分かってきました。

 C型慢性肝炎の大変なところは、10年20年経って癌になることがあるという点です。この肝臓癌の患者さんは数十年前から増えています。全部の肝臓癌の4分の3がC型慢性肝炎からのものです。ゆっくり進行する慢性肝炎から癌がいつ出来るか。超音波装置を使えば、患者さんにとって楽に手軽に正確に、癌の早期発見が出来るのです。もちろん診断の難しい場合は、CTやMRなどの大がかりな検査を追加していきます。何度でも簡単に受けることが出来るところが、大がかりな検査と違う超音波の利点です。超音波断層装置は肝臓に限らず、今ではお腹の定期検診になくてはならない検査となっています。さらに乳癌や甲状腺癌の診断にも力を発揮しています。もし医者に超音波検査を勧められたら、まず怖いあぶない検査では全然ないと思ってください。

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