ペンギンドクターの
診察室


問診

最近電波時計というものが普通の家庭に出回っています。国が標準になる電波を出して絶えず時間を自動的に合わせる時計です。私の手元には電波時計を含め数個の時計があり毎朝2,3度目覚ましの音が鳴りますが、それでも気づかずに寝過ごすことがあります。残念ながら機械の時計はどんなに正確でも身体の都合には合わせてくれません。ところが朝お日様が照り始めると不思議なことに勝手に目が覚めます。少しの光を感じて脳が勝手に目覚めるのです。これこそ本当の目覚まし時計です。私の身体の都合に合わせて快い目覚めを与えてくれます。

このように人間の身体の感受性は実に良くできています。病気で身体に感じられる異常、つまり自覚症状も感受性の表れでしょう。ところが最近の私達はこの身体の感受性がいささか鈍感になっているようです。風邪で来た患者さんに色々と症状を聞きますが、熱がありましたかと聞きますと、ほとんどの人が計っていませんから分かりませんと返答されます。なるべく医者には正確に言わないと誤診されるかもしれないと心配されてのことかも知れません。

私の小さい頃には熱があるかどうか、体温計を使わなくても大体判断できました。手を当ててみれば分かります。そうしなくても、口から出る息の温かさとか、顔のほてりとか、あるいは背中がぞくぞくとする寒気とか、色々な身体の感じで熱のあるなしを判断したものです。

子供を連れて来られるお母さんは、その子の病状を説明する時に、朝の時何分には体温が何度になり、その何時間後には何度になり、夜には何度何分になりましたと、細かく数字で体温の変化を教えてくれます。しかし医者は熱だけでは病気を診断できません。咳がどの程度で、喉を痛がったのか、鼻水はなどと、発熱以外の症状についても知りたいのです。体温の数字を聞いているだけで貴重な時間が過ぎてしまいます。

どうして患者さんがこんなに熱のことをしっかりと訴えるのかと考えてみますと、体温はどなたでも分かる数字になって出てくるからです。発熱は個人の感受性で判断することなく、いわゆる客観的な数字になる症状だからだと思います。それだけ私達は数字を丸飲みにして信じやすいのでしょう。言い換えれば、数字にならない自覚症状、つまり症状を受け取る感受性に患者さんはもう一つ自信が持てないようです。でも医者の知りたいのは患者さんの感受性を通して分かる詳しい自覚症状なのです。どうぞ医師の前では皆様の感受性を大いに信用して自覚症状を詳しく話して下さい。

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