sweet,sweet chocolate

 

俊はさっきから黙って自分の右側を歩いている、蘭世の様子が気になっていた。

あきらかにいつもと違う。会話もちぐはぐ、何だか噛み合わない。

珍しく、右手をコートのポケットに突っ込んでうつむいて歩いて、

「はぁ」とため息すらこぼす始末。

 

「どうかしたのか?」

「う、ううん、なんでもないの」

不自然なほど、首を大きく横に振る。ますます怪しい。

 

「おまえ、ポケットに何隠してんだよ」

痺れを切らした俊が、立ち止まって蘭世に問いかけた。

「何でわかったの?ひょっとして見えてるの!?」

引っ掛かった。明らかに動揺してあたふたしている。

 

「見えるわけねーだろ。バレバレなんだよっ!」

俊は蘭世の左腕を掴んだ。

 

ずるずる引っ張られて出てきた蘭世の手の中に、すっぽり納まってしまいそうな、リボンをかけられた紙袋が一つ。

俊はそれを何も言わないで、ただまじまじと見つめていた。

 

「あのね、中身はチョコレートなの。今日、バレンタインでしょ。でも、真壁くん、今減量中で大変な時期だから…」

 

たどたどしい蘭世の言葉を、俊は黙って聞いていたが、突然おもむろにがさがさと音をたてて、袋を開けはじめた。

 

その中には、小さな小さなハート形のチョコレートが一つ、申し訳無さそうに入っていた。

それを手にとってみた。俊の手のひらではさらに小さく見える。

 

「で、でも小さくてもカロリー高いし。あの、ほんとに食べないで…」

 泣き出しそうな蘭世の声が、耳に届いていないかのように、俊はぽいっと自分の口の中へと放り込んだ。

 

「あ」

口をあんぐりと開けて、信じられないとばかりに、彼を見る。

「うまいよ」

俊はそう言って、悪戯っぽく笑った。

「ほんとに!?」

その言葉に霧が晴れたような笑顔を見せる蘭世。

 

「味見してみるか?」

俊は自分の口元を指差した。

 

その途端、ぽんっと音をたてて蘭世の顔が真っ赤に染まった。

俊はその様子を見て、吹き出しそうになるのを必死に堪えて、

片方の手で自分の口を覆い、もう片方の手で蘭世の頭を軽くぽんぽんとたたいた。

 

「ごちそーさん」

 

 


 

バレンタイン企画でyokoponさんへプレゼント。

俊が言った「味見してみるか」という台詞なんですが、

昔りぼんで読んだ「いるかちゃんヨロシク」の春海がいるかに言っておりました。

たしかその後二人はkissをするのですが、俊と蘭世ではそうはいかないでしょう。

 

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