semi-sweet chocolate

 

 

 

仕事を終えて学校へ来た時には、もう五時間めの授業が始まる手前だった。

今日は特別な日。男の子にとっても、女の子にとっても。

 

授業の内容が、ちっとも頭に入っていないみたい。みんなどこか上の空。

教室全体が、少し浮き足立っている。先生もややあきらめ顔。

 

さあ、チャイムが鳴った。 この 日だけは、男の子はやたらと1人で行動したがる。

期待と不安で入り混じった後ろ姿。

なんだか少し滑稽。

 

女の子は大抵1人では行動しない。お目当ての彼を見つけたら、3人ぐらいで向っていく。

赤い顔で、消えそうな声で、精一杯の勇気を振り絞って言うの。

「あの…これ、良かったら受け取ってください」なあんてね。

 

もう誰も教室には残っていない。窓からは午後の冬の風景と、チョコレートが飛び交う様が見える。

ほおづえをついて、ただ眺めていた。

 

「なんだ、まだ帰らねーのか、安西」

声のする方を振り返る。青柳幸太だ…

「何見てんだ?」

いつの間に背後に立って、上から覗き込む。

 

「おーおー、あいつら相変わらず仲のよろしいこって」

「そうね…」

冷やかすように幸太が笑う。でも私は…。

 

「しっかし、鈴世のやつも律儀だよなー。あ、また断った」

「人の頭の上で、実況中継しないでくれる?」

「なんだよ、機嫌悪ぃな、おまえ」

私は何も答えなかった。いや、答えられなかった。

嫌な沈黙。

 

「悪かったな。おまえ、鈴世のこと好きだったもんな」

急に声のトーンが変わった。でも聞きたくなかった。

「やめて!!」

今更ながら、耳を塞ぐ。幸太が目を丸くしている。

落ち着かなくちゃ。でも、心は頭の命令をきかない。

 

「泣きたかったら、泣けば?」

ぶっきらぼうな困ったような幸太の声。

「なんなら、一緒に泣こうか。いやーおれもなるみにさー…」

「バッカみたい!」

わかってる。幸太の気持ち。ほんとは慰めてくれていること。

 

「ありがと。でも平気」

くるくる変わる私の表情に、幸太は少しとまどっている。

「あ、そうだ」

鞄の中を探る。

「これ、良かったら…」

「え?」

差し出されたチョコレートを前にして、幸太が緊張している。

なんだか可愛い。

「義理チョコ!1つ残っちゃったの!じゃあね」

びっくりしている幸太を残して、私は教室から走り去る。

 

『良かったら受け取ってください』なあんて、私にはやっぱり言えない。

 


 

バレンタイン企画でyokoponさんへプレゼント。

幸太と双葉は結構書いてて楽しいことに気付きました。

そしてこの話はキャンディーとマシュマロへ続きます。

 

NOVEL