キャンディーとマシュマロ

 

 

あれから一ヶ月が過ぎた。

季節は冬から春へと移り変わる。

変わらないのは、幸太の態度と平行線を辿るわたしたちの関係。

 

「きゃぁっ!!」

翻る制服のスカート。

赤い顔で振り返ると、そこにはにやにや笑う幸太の姿。

 

「へへっ。今日の安西のぱんつはブルーのギンガムチェック!」

くり返される、鬼ごっこ。

でもどんなに追い掛けても、きっと彼は捕まえられない。

 

今日がどれだけ大切な日か、ねえ幸太、あなたは知ってるの?

 

一時間目から学校にきたし、早退もしなかった。

ほんとはマネージャーさんに、随分無理をいって頼み込んだのに。

期待してたわたしがバカだったのかしら。もうとっくに放課後。

 

なんだか泣きたくなった。

情けなくて、気持ちが届かないのがもどかしくて。

素直になれない自分が歯がゆくて。

 

義理チョコだと言って渡してしまったこと、ずっと後悔してた。

そのままの意味に受け取ってしまったのかなあ。

だから何も言ってくれないの?

これが幸太の返事なの?

 

諦めて鞄を持った。もう帰ろう。

だんだん惨めな気持ちになってきた。

 

靴箱の前での自問自答。

いいかげん、気持ちを切り替えたようがよさそう。

 

「あのさ、市橋、これ」

「ありがとう、幸太くん」

聞き覚えのある声が靴箱の向こうから聞こえた。

 

咄嗟に駆け寄る。

幸太から手渡された袋と、にっこり微笑んで受け取るなるみ。

後ろから思いきり、頭を殴られたような気分。

軽いめまいと沸き上がる苛立ち。

 

ぱしっ。

 

言葉が出ない代わりに、出てしまった右手。

彼の頬を打った手のひらが、じんじんする。

わたしの心も同じように、ひりひりする。

 

二人は何が起きたのか分からない顔をしていた。

いたたまれなくて、唇をかんで走って逃げる。

消えてしまいたい。こんな自分。すごく醜い。

 

「待てよ、安西!!」

すぐに幸太はわたしの手首を捉えた。

「何怒ってんだよ。わけわかんねーよ」

 

恐る恐る幸太の方を振り返る。

なぜか、彼は泣きそうな顔をしている。

 

「市橋さんには、ちゃんとお返しするくせに」

涙が自然と流れ落ちる。

わたし、すごく嫌な女の子だ。

これじゃほんとに嫌われちゃう。

引っぱたいた手のひらがわたしを責める。

 

「あ、あれは…。誰からももらえないんじゃないかって、心配してくれた市橋が先月くれたから。そのお返しだよ」

「義理チョコの…?」

 

「そう!中身はスーパーの特売で買ってきた、お得用サイズのキャンディー!!」

そう言って、照れまじりに今度はわたしに袋を突き出す。

 

「おまえのはマシュマロ!」

「…なんでマシュマロなの?」

 

「ば、ばっかやろ、キャンディーは義理。マシュマロは本命に決まってるだろ」

「え?」

「うわ〜〜、何てこと言わすんだおまえは〜〜」

幸太は急に慌てふためいて、くるっと後ろをむいた。

照れてるのが、よくわかる。

おかげで、さっきまでの涙は不安と一緒にとっくに乾いてしまっていた。

 

「ねえ、幸太くん。マシュマロが本命ってわたし、初めてきいたわ」

「え?違うのか?」

「それにね。わたしマシュマロって嫌いなんだ。」

「え〜〜〜!?」

 

「うそ」

 

また幸太が慌てている。ごめんね、幸太。少しだけ意地悪させて。

わたしはやっぱり素直じゃないみたい。

 


 

ホワイトデー企画でyokoponさんへプレゼント。

ホワイトデーのお返しって、キャンディーとマシュマロ、どっちがメジャーなんでしょうか。

マシュマロは本命ってたしかどっかで聞いたことがあるんですけど、不確かな情報です;

 

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