僕たちが灰色の受験生だってことは、誰よりもぼく自身がよくわかっているのに。

大事な時期だってことだって、嫌っていうほど身にしみているはずなのに。

小塚さんは呆れるかもしれない。いやぼくだったら呆れる。言ってしまった言葉は吸い込んだって、元には戻らない。

それでも霧散してしまった言葉をかき集めたい気持ちでいっぱいだった。

 

小塚さんは目を見開いて驚き、やがて笑った。この表現が正しいのかはわからなかったが、ぼくは思った。

まるで楽しい悪戯を計画中の少年のようだと。

「いいね、それ」

「は?」

 

言い出しっぺのくせしてぼくは本気で驚いた。まさかこんな無謀な思いつきに賛同してくれるとは思わなかったのだ。

気づけばまたぼくはぽかんと口を開けていた。

 

「同窓会やろうよ」

「え!?いいの!?」

「うん。だって楽しそうじゃない」

 

思いがけない展開に、ぼくはやっぱりぼっかりと口を開けることしかできなかった。

 

日程や場所やら段取りを組むのは、もっぱら小塚さん主導のもと行われた。

こんなにバイタリティのある人だっただろうか。

ぼくは打ち合わせのため訪れたファーストフードの店でポテトを齧りながら、目の前でいきいきと提案している小塚さんを見ていた。

 

「女子はわたしが連絡するから、男子への連絡は鷹羽くん、お願いね。」

「あの、よ、よろしくお願いします」

 

齧りかけのポテトを口にくわえたままという、何とも間抜けな状態でぼくはぺこりと頭をさげた。

 

こうしてぼくのとんでもない思いつきは、小塚さんの多大なる協力のもと、現実へ向けて動き出してしまったのだった。

 

こんな大事な時期に同窓会なんて開いたって、はたして何人集まるだろう?言い出しておいてこんな事を言うのはルール違反だ。

だから決して口が裂けたって言えやしないけど、不安は黒いインクを水に垂らしたみたいに広がって背中合わせの期待を消そうとする。

ぼくはぶるぶると頭を振って、ペンを握った。

 

「親愛なる元2ーAの皆様へ」

 

たった一行書いただけで、何だか懐かしさに胸がいっぱいになる。でもいつまでもノスタルジックに浸っている場合ではない。

現実問題として、ぼくには明日の予習よりも大事な仕事が残されているのだ。

時計の針が思いもよらない数字を指しているに気づき、慌ててペンを走らせた。

 

「よし…できた」

 

誤字脱字がないか確認し、鞄へしまおうとした手をふと止めた。もう一度机の上に置き一呼吸おくと、ぼくは最後に一文を付け足した。

 

ーーー尚、当日はあけぼの中学の制服でお越し下さい

 

 

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