第2話 written by ケイさま
「はあぁ〜〜〜」
蘭世はベッドにうつ伏せに寝転んで溜め息をついた。
視線の先には合宿の日程表―。
“27日打ち上げ。近隣湖にて花火大会 俊と曜子のデート♪”
この文字が飛び込んでくる。
「あ〜あぁ・・・神谷さんが相手だもんなぁ。 それに神谷さんの別荘だから神谷さんには逆らえないし・・・」
俊に多くを期待してはいない。
でも俊と曜子が27日に、よりによってその日にデートだなんて耐えられない。
「折角の合宿なのにな・・・」
蘭世はごろりと壁の方に寝返りをうった。
ベッドに向かって垂直に涙が一筋伝った。
数日後の部室 蘭世は冴えない顔をして雑事をこなしていた。
まだ俊と曜子の姿はない。
「よう、江藤マネ、どうしたんだよそんな顔して」
日野が機嫌良く問いかけてくる。
蘭世はゆっくりとうつむきがちだった顔を上げ、日野を見つめた。
「いいわよね、日野くんは。合宿にはゆりえさんも一緒で」
「ななな・・・何言って・・・」
「慌てなくてもいいわよ、顔に書いてあるわ。 それにゆりえさんにはセコンドもして貰った事もあるからマネージャみたいなものだし」
「江藤は神谷が相手だもんな、手強いよな。 それに今回は神谷の別荘だから、神谷には逆らえないしなー」
「そうなのよぉ〜!」
蘭世は涙目で日野を見つめる。
「まあ、まあ、そんな顔するなって。
俺に出来る事があれば協力するぜ」
そう言って日野は、不敵な笑みを浮かべた。
「ホント?日野くん」
「ああ、まかせとけって!」
「絶対よ!お願いよ!」
あてにしてよいのかどうかわからない約束が交わされた。
あっという間に合宿がやってきた。
日野はさも当たり前かのようにゆりえを連れて来た。
曜子はどうして?という顔をはじめこそしたものの、
「ま、女手はあってもいいわよね。それに私と俊の邪魔さえしなければいいし。むしろ・・・」
曜子はそう言って蘭世に視線を送った。
「な、何よ神谷さん!!私がなんだって言うの?!」
「ま、私の別荘なんだから私には逆らわないでよね」
「ぐっ・・・」
蘭世は唇を噛み締めた。
「さ、行きましょ行きましょ。車もウチの組のだから。 勿論俊は私の隣ね〜♪」
車内はサロン仕様になっていて、曜子が俊の隣に座っても、ぐるりと輪になりテーブルを囲む形になった。
俊の顔が見れるのは嬉しいけれど、曜子が俊にベタベタするのを見るのは辛い。
けれど、俊もまとわりつかれるのを嫌うので、割と和気藹々と車内では過ごす事が出来た。
到着した別荘は、曜子が言ってただけあって、立派なものだった。
湖も美しく最高のロケーションだ。
(これで、真壁くんと2人きりだったらな・・・)
蘭世は溜め息をこぼした。
でも、合宿は合宿だ。
蘭世は気持ちを切り替える事にした。
マネージャーに没頭して嫌な事はなるべく考えないように。
避暑地であることもあって、 部員の方も調子よくトレーニングが出来ている様であった。
順調に合宿は進み、あっという間に明日は最終日だ。
(眠れない・・・)
深夜に蘭世は部屋を抜け出した。
湖の方へ歩いてみる。
風は肌寒い位だ。
「眠れないの?」
後ろから声がした。ゆりえだ。
「うん・・・明日、あ、もう今日か・・・実はね今日は私の誕生日で」
「まあ!そうだったの・・・ 明日はお天気も良さそうだし、いいお誕生日になるといいわね」
「そうね・・・」
ゆりえにはそれ以上言いあぐねて蘭世は部屋に戻った。
こうして迎えた最終日。
この日は午前で練習を切り上げて、昼は湖のほとりでバーベキュー。
冷たい湖の水とたわむれたり、すいか割りをしたり。
ゆりえが蘭世に近づいてきた。
「皆で誕生日のお祝いしたらいいじゃない」
「ううん、いいの」
ゆりえはにっこり微笑む。
「そうですわね。お祝いをして欲しい人は1人よね」
「そうなんだけど、真壁くんはそんな事忘れてるし、神谷さんが・・・でしょ? 」
「そのことなんだけれどね、克が何か企んでるみたいよ」
ゆりえはくすっと笑う。
蘭世は合宿前の日野との曖昧な約束を思い出した。
「えっ?!ホント?」
「ええ、私も詳しい事はわからないんだけれど・・・でも何かする気よ」
とは言え陽射しが傾くにつれ、蘭世の気持ちは沈んでいった。
日野の企みもあてにして良いものかわからない。
俊は今日の日の意味にまだ気付いておらず、 蘭世がただ曜子が自分にまとわりつくことを嫌っているだけだと思っている。
俊自身は曜子の言う事など意に介さず、どうにでもするつもりでいる。
だから蘭世が必要以上に落ち込んでいる理由がわからずいらついていた。
いよいよ夕景になってきた―。
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