bitter-sweet chocolate
放課後、日野克は生徒会長、河合ゆりえに校舎の屋上に呼び出されていた。 吹きさらしの場所に立っている二人に、容赦なく冬の冷たい風が吹き付ける。 なんだか雪が今にも降ってきそうなくらい、雲はどんよりと暗い。 先ほどから、呼び出した張本人であるゆりえはうつむいてだまったまま。 克には彼女の本意がまるで見えず、だんだんいら立ちを感じはじめていた。
「で、何だよ話って」 ゆりえから少し顔を背けて、克は長い沈黙を破った。 一方ゆりえはまだうつむいたままだ。
「あ、あのね…」 「学費の話なら聞かねーからな」 「え?」驚いたゆりえは顔を上げた。 「もう、たくさんなんだよ。俺を哀れんでんのか?同情してるのか?こっちは迷惑なんだよ!」 克は地面に向ってはき捨てるように言った。 「違…」 続かない言葉の代わりに、ゆりえは首を横に振る。 しかし顔を上げない克にはそれは見えない。
「違うって言ってるでしょーー!!」 「……」 あまりの大声に克は唖然として、ようやく初めてゆりえの顔を見た。
この耳をつんざくような声が、いつも能面のような表情で淡々と話す彼女から出たとは、誰が信じるだろう。 この感情をそのまま現した彼女の姿を、顔を真っ赤にさせ、あまつさえ瞳にはうっすらと涙さえ浮かべたその姿を、一体誰が信じるだろう。 目の前の克でさえ、すっかり戸惑ってしまい言葉を失っていた。
「違うのに……克のバカっ!」 何か言葉をかけようとした克の目の前に、ゆりえがさっきまで手に握りしめていた、 小ぶりの紙の手提げ袋が飛んできた。 それは見事に克の顔面にヒットし、しばらく彼の顔に張り付いた後、つま先の辺りに落ちて倒れた。
「いってーな、何すんだよ」 片手で顔を押さえていた克がもう一度正面を見ると、ゆりえの姿はすでになく、 非常口のドアの向こうへ消えようとしていた。
信じられない出来事の連続に呆然としていた克だったが、足元に残されていた存在に気付き、 冷たいコンクリートの上に腰をおろした。 袋から少し飛び出していた箱に手をのばす。 赤いリボンをほどき、包装紙をはがす。
克は箱を開けたその手をとめた。
先ほどの衝撃まではおそらく綺麗に並んでいたであろう、いくつかのチョコレートが入っていた。
克は一つつまんで口にしてみた。ほろ苦い味が口に広がる。 「生徒会長がこんなもの、持ってきていいのかよ…」
複雑な気持ちで克は天を仰いだ。 やがてひらひらと羽のような雪が舞い降りはじめた。
雪は彼の鼻先に、頬に落ちては溶けて流れた。自分でも説明のつかない涙とともに。
yokoponさんにプレゼント。 バレンタイン企画で書いたうちの一つです。 素直になれない二人というのが、なんとももどかしくて好きです。 ちなみにこの話はmedicineに続きます。
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