4.待ち望んだ報告

 

「では、久しぶりの再会に乾杯」

4人はグラスを合わせて涼やかな音を鳴らした。

しかしその中身はノンアルコールである。

俊は車を運転しなくてはならない。

蘭世は身重。

そんな二人に気遣ってか筒井とかえでもソフトドリンクだ。

 

アルコールの力を借りずとも、場は多いに盛り上がる。

盛り上げているのは女性陣。

昔話に花を咲かせるほど時間がたったわけではないが、話したいことは懐かしさや嬉しさと共に次々に溢れてくるようで。

 

よくそんなに話すことがあるものだと半ば感心し、半ば呆れている俊に

 

「ところで真壁選手、奥様のことを好きだと思われたのはいつからでしょう?」

と突然芸能リポーターに扮した筒井が架空のマイクを突き出してきたので、

俊は飲み込もうとしていたお茶を吹き出しそうになるのを寸での所で踏みとどまった。

顔が赤いのは咽せたからだけではなさそうだった。

 

「本当は中学校の頃からでしょう?真壁くん」

なんてかえでまで参戦してくるものだから、俊は言葉が出ない。

そんな時の蘭世は相変わらず頬を染めてうつむいているから、当然助け舟の期待はできない。

 

「お…おれのことよりもそっちはどうなんだよっ!」

破れかぶれになって反撃に出てみる。

 

「だめだよ、真壁。質問してるのはこっちなんだから」

とフレームレスのレンズ越しの目をさらに細めて筒井が笑う。

合わせてくすくすとかえでも笑う。

 

「…おまえら、本当にお似合いだよっ」

精一杯強がって睨んでみせるが、敵は余裕たっぷりに笑顔を崩さない。

その分だけ余計に腹立たしい。

いや、本当はスラリと相手のパンチをかわせない自分が一番苛立たしい。

 

 

「わたし、お茶煎れてくるね」

かえでが空いているお皿を下げつつ立ち上がろうとした時、蘭世は口を開いた。

 

「…あの…ね…筒井くんが手紙に書いてたことなんだけど」

 

かえでは一瞬動きを止め、隣の席に座っている筒井を見た。

彼は夕凪の海のように穏やかで静かな笑顔で、視線を合わせた。

そして目顔でかえでに席につくように促す。

それに応えるようにかえでは静かに頷き、ゆっくりと席につく。

 

和やかな空気は変わらないが、それでも蘭世は思わず姿勢を正した。

 

「改まっていうのもなんだか照れるんだけど」

指を組み合わせてテーブルの上に置き、まっすぐ俊と蘭世を見つめて彼は言った。

顔に笑みを残したままだが、瞳だけは真剣さをたたえている。

芝居がかった口調でもなく、あくまでも自然な動作なのにもかかわらず、まるで映画の1シーンのようにも見える。

 

「彼女と…かえでと結婚しようと思っている」

 

耳に飛び込んできた台詞は、期待して予想していた通りだったはずなのに、短くとも誠実な筒井の言葉が蘭世の胸に響く。

また、どんな名優が演じたドラマだって敵わないほど、一人の男性としての筒井の言葉はいまだ実感が湧いていないかえでの胸に、

頬に伝う雫と同じ、温かいものがじわじわとしみ込んでいった。

 

 

 

「おめでとう!筒井くん、かえでちゃん」

手を叩いて喜んでいる蘭世もつられて早くも瞳が潤んできている。

 

「式は、来年の春の予定なんだけど、出席してもらえるかな?」

「もちろん!」

 

芸能人の結婚式にありがちな、華美なものではなく。

むしろ身内だけで静かに行いたいと、筒井は穏やかな口調のまま語った。

ちょうど俊と蘭世の時のように親族とごく親しい友人だけ、というのがかえでの理想らしい。

 

「楽しみだな〜。早く来年にならないかしら」

夢見がちな黒い瞳が遠くを見つめている。

蘭世にはきっと花嫁衣装をきたかえでの姿が見えているに違いない。

そしてそれを涙ぐみながら祝福している自分と、その隣にはもちろん愛する夫。

それから…新しい家族と。

蘭世の空想は、俊の静止が入らない限り果てしなく続きそうな勢いだった。

 

彼女の意識を除いてみなくても、相変わらず大声で呟いてくれるものだから、

手に取るよりも、わかりやすい。

隣で俊は苦笑まじりに隣の蘭世を見た。

 

 

 

 

 

 

幸せな時間は永遠に続くかのように思えた。

 

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