ジェロントロジー・高齢社会の人間学をテーマにしています     法律と福祉

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   間の大切さ    “ 法律と福祉は表裏いったい”  

 成年後見制度の理念は、①残存能力の活用(理解) ②自己決定の尊重
            ③ノーマライゼーション
 
 これは、デンマークの福祉理念として謳われています。法律を実行するためには
 福祉の裏付けが、福祉を実行するためには法律の裏付けが必要でしょう。


タイトル   法律と福祉

  成年後見制度の理念と福祉の関係について述べてみます。
 これは、特別養護老人ホームや近隣の高齢者との交流で感じたり、見たりしたものです。
 

  残存能力の活用(理解・知ること)

   「梅雨はげし、老人ホーム、静かなる」 この俳句は、要介護度4の方が地方新聞で
  特選として選ばれた俳句です。仮にAさんとします。
  小さな声でつぶやいていた声を娘さんが聴きとり、メモをして投句をしました。
  残存能力の活用といっても簡単にできるものではなく、普段からのコミュニケーションと
  こころの交流があって、初めてその人の残された能力が理解できますし、その能力を
  活用することができるのではと考えます。

   Aさんは、娘さんと一緒の生活を始めたのは要介護度5の時でほぼ寝たきりでした。
  生活は、まず食事に気をつけ、自然を感じる環境と安心感に包まれた日常でした。
  その後特別養護老人ホームでの生活に変わりましたが、施設の相談員、介護職員と
  娘さん家族とが協力し合い、要介護度5から4となりその時期にできた俳句です。

   Aさんの生きてきた環境を理解し、Aさんの生きてきた歴史を受けいれ、日常生活を
  お手伝いした結果だと思います。
  介護保険制度という法律と福祉のこころに包まれた結果が、Aさんの残存能力を見つけ
  たと思います。
  本人が主役(Aさんが)という日常があってこそ素晴らしい能力を発揮することが出来た
  のでしょう。

   施設の職員と娘さんに敬意を表したい気持ちで一杯です。
  Aさんが、要介護度4となり、俳句を創ることができた時期に、民法643条(委任)を利用
  して娘さん夫婦と委任契約を結び、将来の不安感を除くように配慮したそうです。
  財産管理・医療・葬儀などなど。
  今でも委任契約には、Aさんの署名が残っています。面白い個性豊かな文字です。

 
 自己決定の尊重
 
   自己決定は非常に難しいことです。認知症と言われる方の残存応力を見極めて、
  それに合った自己決定ができるかどうかが難しいと思います。情報のほとんどない、
  意思決定をする意思能力も残されていない方が、自分のこころでものごと決めることが
  できるでしょうか。
  しかし、自己決定こそが大切です。日常生活や病気の治療、延命に関すること等など。
  
   多くの理解者が必要になることでしょう。しっかりと意思能力がある間は色々と話したり、
  決めることができますが、判断能力が衰えてきた場合には思い通りにならない場合が
  出てきます。と言って本人の意思を無視し、決めることはできません。

   Kさんについて述べてみます。Kさんは、著書を数十冊書き残していますし、文章教室を
  開いていた程の素晴らしい女性でした。十数年間は一人住まいでしたが、常に自分で
  物事を決め、交友関係も広く、すべて自分の意思で生活をしていました。

   今年(2015)4月に亡くなりましたが、自分を話す場合はしっかりとしていましたが、
  状況判断力は定かではありませんでした。これまでが全て自分で決めてきた方です。
  親族といえども口出しできないような雰囲気でした。病院で治療のためと最後は身体に
  色々な機器が・・・・。それを外そうともしていました。

   亡くなるまで自分の意思で生きたということは素晴らしいことです。
  しかし、と言う言葉をつけたくなる状況でした。
  何故これだけしっかりとした方が、このような状態になったのでしょう。元気な間に考えて
  誰かに自分の意思をしっかりと伝えておくことも必要でしょう。
  それを文章に残せば、自分の望む状況を設計できたのではないかと思います。

   自己決定は、大切なことで誰にも侵すことはできないと思いますが、人間は永久に
  意思能力がしっかりとしているとは保証できません。元気なうちに大切な人とチームを
  組み「助けて」と言える人が必要です。

   Kさんとは、いろいろと議論をしましたが、「助けて」の言葉を聴いたことがありません。
  しっかりとしすぎて、他人が口出しできなかったのではないでしょうか。助けてが大切です。
  96歳でこの世を卒業しました。

   成年後見制度を利用する場合にも自分の意思をどのように後見人等に伝えておくこと
  ができるか、親族が伝えることができるか、これが最も難しいことです。

   任意後見制度で自分の意思をしっかりと伝えるために、将来を考えて契約することです。
  判断能力がしっかりとしている今こそ、大切に自分を考え自分のこころを多くの人々に
  伝え、また、法律を利用することも大切でしょう。

  法定後見・任意後見制度・介護保険・延命治療公正証書等、元気な間に考えましょう。

  ノーマライゼーション

   ノーマライゼーションとは、「障がい者の権利宣言」に謳われていますが、
  私は次のように考えています。

  「障がい者も高齢者もすべの人々の権利は平等であり、社会の一人として助け合い
  混在し幸せな生活が送れるような環境」

   老人ホームを訪問し、常に感じることですが、社会と別世界のような気がします。
  何故でしょう。
  地域とのつながりを感じないからだと思います。未だに老人ホームの建設に反対したり、
  子供の声を煩いと言ったり、世代別につながりを感じません。

   特別養護老人ホームやその他の老人ホームでも社会の中の一つであり、別世界では
  ありません。
  多くの人々が老人ホームを自分の隣近所と同じように考えて、共に幸せな環境を作る
  必要があり、老人ホームは関係者のみのものではないということです。
  社会の財産の一つです。

   施設運営者ももう少し社会に解放し、多くの人々が訪問し、多くの意見を取り入れて
  欲しいと考えます。

   最初に述べましたAさんなどは、ノーマライゼーションを実行でき、多くの人々が協力し
  合ったので、幸せな環境で生活できたのではないでしょうか。
  高齢者や障がい者の幸せを、町全体のこととして考え、実行できる施設であって欲しい
  ものです。
   スケールメリットを狙ったような郊外の大規模の老人ホームは反対です。
 
      ※     ※     ※     ※     ※     ※     ※     ※

      今までに私が聴いた高齢者の素晴らしい言葉を述べてみます。

    ⑴ こころは見えませんが、感じることはできます。私の手を握りながら。
                             (96歳の方、亡くなる3日前に)
    ⑵ 「美しい花ね」(意識がないと言われてお見舞いの花を観て発した90歳の方)

    ⑶ 「ご主人に美味しい御馳走をつくってあげて」
                             (要介護度5の認知症と言われていた方)


     < 死とは、自分一人のものではありません >

   < 残された一人ひとりが亡くなった人のこころを感じて、生き続けるのです>

                           シニア ライフ アドバイザー 岡島 貞雄
                               


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