写本画像を加工する
ソフトウェア
取り込み作業直後の画像は、100メガバイト前後の大容量ファイルになり、そのままでは操作が非常に困難になります。写本を十頁分も見渡さないといけな
いような場合は滅多にありませんし、画像には余分な余白も読み込まれています。余白を取り除き、一頁ずつに画像を分割すれば、一枚あたりのファイル容量は
4メガバイト前後になります。この程度のファイル容量なら、かなり古い世代のコンピューターや、あまりメモリを積んでいないマシンでも、画像を閲覧できま
す。開くのに多少時間がかかっても、写本を一頁読み進めるには結構時間がかかりますから、それほど気にはならないでしょう。
画像を扱う際に注意すべきなのは、画像を操作するためのアプリケーションと閲覧するためのアプリケーションは、別に考えるべきだということです。もちろ
ん、両者が一致しても構わないのですが、一つのアプリケーションで全てをすませようと思い込むのは禁物です。というのも、画像を分割するという作業は、画
像そのものというよりも、ファイルの操作に近いものがあり、多くの類似した単純作業の集積となります。一方、画像を閲覧するという行為は、写本を読む際の
要請を満たすために、画像を調整するという個別的な作業になります。両方に強いアプリケーションもあるのかも知れませんが、たいていのソフトはどちらか一
方に強いというふうに筆者は感じます。
以上の一般論を踏まえ、筆者の環境について説明すると、閲覧用にはAdobe-Photoshop-Elementsを、画像操作にはGraphic
Converterを使っています。後者はMacintosh用のシェアウェアです。Windows版もあれば大ヒットは間違いなしだと思いますが、今の
ところ、Mac専用です。
以下では、これらのソフトの解説を行いますが、同じソフトを使わない場合でもご一読をお勧めします。というのも、閲覧の場合、加工の場合、ソフトの仕様の
どういう部分が問題になるかをあわせて解説しているからです。
加工用ソフト――Graphic Converter
写本画像を扱う場合、Graphic Converterにはいくつかの大きな利点があります。
まず第一に、このアプリケーションでは、画像の一部を選択し、その部分だけを別のファイルとして保存できるのです。これにより、十頁分の画像を十個の個
別ファイルに分割することが、非常に簡単にできます。Adobe-Photoshop-Elementsで同じことをしようと思ったら、選択部分をコピー
し、新規画像を作成して、そこにペーストした後で、ようやく保存ができます。Graphic
Converterでは、これがワンアクションでできるのですから、これほど楽なことはありません。書類名称も自動的に連番をつけてくれたらと思うのは、
筆者が欲張りなせいでしょうか。
第二に、画像の傾き補正が非常に簡単にできるということがあります。マイクロフィルムは、写本を一頁ずつ開いて撮影してあるものがほとんどです。そのた
め、写本の製本の具合により、上下で頁の開き具合が異なることも少なくありません。その場合、当然、文字がある程度傾くことになります。できる限り読みや
すい画像をえるためには、そうした傾きを補正します。画像の回転は、多くのアプリケーションで可能です。90度、180度といったまとまった単位ではな
く、0.1度単位で傾きを調整できるものもあります。しかし、傾き具合を数字で把握するのは、かなりの習熟が必要です。ほんの0.5度ほどの傾きでも、写
本の画像は驚くほど傾いて見えるからです。しかも、ブラウン管のディスプレイを使用していると、画面の湾曲が、混乱に拍車をかけます。こうした問題を極め
てスマートに解決しているのも、Graphic
Converterの特徴です。本来垂直になっていないといけない部分をなぞって斜線を引くと、その斜線が画面の上下に対して直角になるように、画像の傾
きを補正してくれるのです。
第三に、バッチ機能が使えるということがあります。Graphic
Converterは本来、その名の通り、画像のファイル形式をコンバートするためのソフトです。ダイアローグで書き変えたい書類を選択するだけで、複数
の画像書類をTIFF形式からPICT形式に一括して書き換えたりすることができます。ほとんどあらゆる画像ファイル形式がサポートされているため、これ
自体、非常に便利な機能です。ですが、話はそれにとどまりません。このファイル形式変換の際に、ある程度画像の操作を自動的に行えるようになっているので
す。たとえば、カラー画像を白黒画像にコンバートしたり、白黒反転を行ったり、設定した分だけ画像の上下左右を取り除いたり、といった具合です。ファイル
形式変換は変換元の形式と変換後の形式が同じであっても構わないので、バッチ機能は事実上、ファイル変換機能とは独立しています。
Graphic
Converterはシェアウェアで、ユーザー登録なしで使うと機能が制限されます。第一、第二の機能は登録以前でも使えますが、第三のバッチ機能は登録
後でしか使えません。Graphic
Converterの価格(35ドル)は、機能と比較すれば、格安です。市販のソフトの多くがインストール後、気に入らなくても、返品できないのに対し、
Graphic
Converterが好きなだけ試用することができます。おまけに、価格が安く、機能性がずば抜けているのを見ると、ソフトの販売システムそのものが、ど
こかおかしいと感じざるを得ません。今のところ、町中の電器屋では使い物にならないカスソフトが、結構、それなりの値札をつけ、もっともらしく置かれてい
ます。どんなカスソフトでも売れてしまえば勝ちなのです(筆者自身、どれほど無駄金を払ったことか)。電器屋をぶらぶらする前に、是非ともGraphic
Converterをお試しください。なお、もう一度繰り返しますが、Graphic
ConverterはMacintosh版しかありません。Windows用のソフトで、同名のものが最近現れましたが、無関係ですので、ご注意くださ
い。
GraphicConverterのサイト:http://www.lemkesoft.de/us_index.html
閲覧用ソフト――Adobe Photoshop Elemetns
Graphic Converterのすばらしさは、上に述べたとおりです。けれども、Graphic
Converterも完璧ではありません。弱点もあるのです。その最大のものは、画像を開いて行う操作には弱いということです。もちろん、傾き補正のよう
に便利な機能もあるのですが、巨大なファイルを扱う場合、次の難点が生じます。第一に、再描画が遅い、第二に、スクロールが遅い、です。
ディスプレイ上では、何枚ものウィンドウが重なりますが、これらは実際に重なっているわけではありません。たとえば、AというウィンドウにBというウィ
ンドウを「重ねた」場合、ウィンドウAの一部がディスプレイの画像から削除され、ウィンドウBの画像がそこに描かれます。ですから、ウィンドウBを取り除
いた時には、あらたにウィンドウAの画像をディスプレイ上に描き直さねばなりません。ちなみに、プログラミングで、この描き直し、つまり、再描画の指示を
忘れると、情けないことになります。ウィンドウBが重なっていた部分のウィンドウAの画像は真っ白けになります。Graphic
Converterは、こうした意味での再描画が少し遅いです。
また、ディスプレイのサイズより大きな画像を表示した場合、ウィンドウの右横や下にバーが現れます。これを使って、ディスプレイ上に表示される部分を変
更することができます。これがスクロールです。こちらは、非常に遅くなります。
この二つの難点は、実は、どちらも再描画の問題です。いずれ解決されるのでしょうが、今のところ、Graphic
Converterを使って、写本画像を閲覧するのは全くお勧めできません。写本画像を拡大して文字を追い、隠れている文字をスクロールして表示しようと
思ったら、そのたびに待たされる、とか、写本画像を読みながら、ワープロソフトでトランスクリプションを作ろうと思ったら、両ウィンドウの行き来にやたら
時間がかかるとか、そういった問題が続出します。すでに述べたとおり、閲覧用のソフトと操作用のソフトは、必ずしも一致しなくても構わないのです。
Adobe Photoshop Elementsは、Adobe
Photoshopの機能縮小版ですが、それでも、かなりの機能を持っています*。筆者がこれを閲覧用に利用する理由は、二つあります。第一に、再描画が
速く、画像を他のウィンドウの背後から前面にすぐに出せ、軽快にスクロールできるということ。第二に、コントラストや輝度の調整を、画像全体を見ながら、
行えることがあります。前者に関しては、すでに説明しましたから、第二の点に関してだけ、補足しておきましょう。
* Photoshopの正式版は、自動処理機能が非常に充実しているようです。もしかしたら、Graphic
Converterと同様の処理が、同じくらい簡単にできるのかも知れません。とはいえ、定価96000円という価格は、ただごとではありません。本格的
なコンピュータグラフィックを趣味とする人でない限り、個人でこのアプリケーションを購入することはまずないでしょう。アプリケーションはバージョンアッ
プ料という維持費も必要なのですから。一方、Photoshop
Elementsは、スキャナを購入するとバンドルソフトとして添付されていることも多いです。写本を読むのに使うだけなら、古いバージョンでも十分に利
用できます。
写本画像をディスプレイ上で読む場合、コントラストや輝度の調整は非常に重要な意味をもちます。後ほど詳しく述べますが、たとえば、写本が大きなシミで
覆われいる場合などには、文字がかなり読みにくくなります。コントラストや輝度を調整することで、こうした問題を非常に簡単に解決できます。
Photoshop
Elementsの場合、輝度やコントラストを変更すると、リアルタイムで表示された画像全体に適用されます。一方、Graphic
Converterの場合には、画像の一部がプレビュー用に取り出され、変更の度合いは、その小さな画像でしか確認できません(実を言えば、これも再描画
が遅いのが原因です)。もちろん、操作性はPhotoshop
Elementsの方が断然優れています。画像の一部だけで、画像全体が被る変化を予測するのは非常に困難だからです。
Adobe Photoshopのサイト:http://www.adobe.co.jp/products/main.html
ファイル管理ソフト
分割後の写本画像は、莫大な数になるのが普通です。そうした画像ファイルを効率よく操作するためには、ファイル管理ソフトを使うと便利です。たとえば、
画像を分割するときには、とりあえず、画像に通し番号をつけていくのが、ミスを防ぐ上でも最善の方法ということになるでしょうが、閲覧するときには、
001r,
001v...などとなっている方が便利ですし、非常に大部な作品ともなると、画像をフォルダ分けした方が便利なことも多くなります。書類名を一括して変
更したり、書類名によりフォルダ分類を自動的に行ってくれるソフトは多数あります。そうしたものをうまく使うことで、画像ファイルの管理に費やす時間を格
段に節約できます。
筆者は、自分で開発したFileManagerというMacintosh用のソフトを使っています。一応シェアウェアですが、よほど気にいって、頻繁に
利用するというのでない限り、フィーを払う必要はありません。ユーザー登録以前であっても、全ての機能を使うことができます。
FileManagerのサイト :http://hp.vector.co.jp/authors/VA026513/
画像の出力
電子画像からは簡単に紙媒体のハードコピーが作れます。とはいえ、プリンタにはそれなりのスペックが必要です。実際の解像度が600dpi以上で、
1200dpi相当の解像度が得られるようなレーザープリンタが最適です。インクジェットプリンタも使えないことはありませんが、印刷速度が遅い上に、印
刷プロセスの性質上、文字の輪郭がぼやけます。インクジェットプリンタは、インクの小さな粒子を用紙に吹き付けるため、どうしても、ある程度の誤差が生じ
るのです。一方、レーザープリンタはトナーがくっついたドラムに直接用紙を押し当てるので、そうした誤差が生じにくくなります。二種のプリンタの違いは、
印刷した活字を虫眼鏡などで拡大すると一目瞭然です。インクジェットプリンタの場合、活字の外側にも小さなインクシミが無数についています。とはいえ、写
本が読める状態で印刷できれば良いのですから、今あるプリンタで、どの程度の画質が得られるのかを試してみるとよいでしょう。
筆者自身は、brother社のHL-1650を使っています。brother社のレーザープリンタは、同一価格帯でなら、他社に比べ、印字速度が格段
に速いのが特徴です(一分間に12枚だったと思います)。画像の印刷には結構時間がかかるので、印字速度は速ければ速いほど快適です。
brotherプリンターのサイト:http://www.brother.co.jp/jp/printer/printer.html
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