写本の画像を得る――ハードウェア
数年前から、個人が賄い得る出費でマイクロフィルムを読むことができるようになりました。2400dpiという超高解像度スキャナ、スキャナからコン
ピューターへの高速情報伝達を可能にしたFireWire(IEEE
1394)インターフェース、クロック周波数400メガヘルツ(Macintosh)以上のCPUが組合わさることにより、専門的な使用にたえる電子画像
がマイクロフィルムから得られるようになったのです。
実は、これらはどれも、もはや、新しい技術ではありません。現在では、4800dpiのスキャナ、1ギガヘルツ以上のCPU、そしてFireWire
(IEEE 1394)を上回る転送速度を可能にしたFireWire800, USB
2.0が現れています。これらを使えば、さらに、快適に高品質の画像を得ることができるでしょう。しかし、筆者にできるのは、自分が実際に用いている装
置、器具類について説明することです。読者はそこから推測して、もっとよい環境を手に入れることもできるでしょうし、逆に、すでに中古品として出回りはじ
めたハードウェアを使って、筆者が知るのと同程度の環境を整えることもできるでしょう。
ただ、快適に作業を進めるためには、筆者の環境が最低限度だと考えてください。FireWire(IEEE
1394)インターフェースを使えない環境、5年以上前のコンピューター、2400dpi以下の解像度のスキャナを使った場合、得られる画像の画質が悪
かったり、あるいは画像を得るのにやたら時間がかかったり、あるいはせっかく得た画像をうまく扱えなかったりします。
ところで、コンピュータ関連機器は日ごと進歩しています。この章が2004年、1月の時点で書かれたということは、記憶にとどめておいてください。
スキャナ
2400dpiという解像度は驚異的です。1インチX1インチの正方形を576万個の正方形に分割して、色彩を感知するのです。1インチの幅の写本画像
を幅10インチに拡大したとしても、240dpiです。わずか、2.54cmの幅が240分割されているのです。ほぼ縦横0.1ミリメートルの微細な四角
形からなる画像ですから、専門的使用に十分に耐えます。数字でわかりにくければ、写本の一文字をだいたい1インチ角くらいの大きさに拡大して、初めて、細
分化された四角形の輪郭が見えるようになる、と言えば、よいでしょうか。これは、二カラムの写本でも、疑わしい文字を十二分に確認できる倍率です(オリジ
ナルの写本の文字の大きさにもよるので、必ずしも正確な表現ではありませんが)。
写真自体が細かな粒子になった感光物質に光を当てることで画像を得るのですから、粒子の細かさの限界を超えた倍率になれば、それ以上の拡大は無意味にな
ります。おそらく、3600dpiあたりになると、その限界がくるのではないだろうかという気がします。後でも述べるとおり、現段階ではスキャナの読み込
み速度は決して速いとは言えません。したがって、今後6000dpi,
7200dpiといった高解像のスキャナが登場した場合でも、どの程度の画質が必要なのか、読み込みにどの程度の時間を割くことができるのか、などを考慮
する必要があるでしょう。
ケーブル――IEEE1394, USB2.0
ともかく、高解像度の画像はきめが細かいので、レーザープリンタなどで印刷しても、非常に鮮明なハードコピーを得ることができますし、ディスプレイ上で
の拡大も快適です。普段は、小さな四角形に画像が分割されていることを意識することさえないでしょう。逆から言えば、それほどまでに細かく、撮影対象を分
割して電子情報化しているわけですから、データサイズは莫大です。一頁の白黒画像が4-5メガバイトになります。カラー画像ともなると、4-50メガバイ
トになるかも知れません。 一枚の画像を読み込むたびに、スキャナは得た情報をコンピューターに送り、コンピューターはそれをハードディスクに記録しま
す。この場合、まず、ボトルネックになるのは、スキャナとコンピューターをつなぐケーブルですUSB2.0は現在のところ、もっとも高速なデータ伝達が可
能なケーブルです。いえ、実はFireWire800が最高速なのですが、これは比較的新しい規格ですから、私の知る限り、これに対応したスキャナはない
ようです。
なお、USB1.2とUSB2.0を混同しないようにしてください。USB2.0は480mbpsの転送速度をもち、IEEE1394の400Mbps
を凌駕します。ところが、USB1.2の転送速度は12Mbpsに過ぎないのです。USB1.2は現在発売されているコンピューターでさえも、まだ利用さ
れている規格です。また、数年前の周辺機器の多くは、USB1.2にしか対応していません。
ところで、これらのデータ転送速度のmbpsはメガバイト毎秒ではなく、メガビット毎秒ですから、ご注意ください。8ビットで1バイトですから、
USB2.0でも、60メガバイト毎秒です。USB1.2だと1.5メガバイト毎秒です。ただ、この転送速度だけを見ると、4-5メガバイトの白黒画像な
ら、USB1.2でも、3秒くらいでデータ転送が終わりそうです。実際にはそうは行きません。
スキャナがそれほど速く画像データを得ることができないというのが第一の理由です。先も見たとおり、一平方インチあたり、576万個の正方形に分割して
いるのですから、時間がかかります。だったら、USB1.2はボトルネックにはならないではないか、と思う人もあるでしょう。ところが、USB1.2接続
だと明らかにデータ転送がボトルネックになるのです。考えられる理由は、スキャナが連続的にデータを送らずに、大容量のデータを断続的にまとめて送るか
ら、というものでしょう。データ転送は検証を行いながら行いますから、一方通行ではなく、一方から他方へと情報交換が行われます。そうしたやりとりをする
のには、1.5メガバイト毎秒というのは遅すぎるのです。
IEEE1394やUSB2.0のデータ転送速度の方は、スキャナの読み込み速度や、コンピューターの記録速度を大幅に上回っているはずです。ですか
ら、後は、コンピューターやスキャナの性能が、画像取得に要する時間を決定することになります。最近のスキャナは安くなった分、読み込み速度は確実に落ち
ました。現在一番の鈍足はスキャナということになるかと思います。
コンピューター
スキャナを使って、画像を取り込む場合、コンピュータの側で重要な要素となるのは、ハードディスクへの書き込み速度とCPUの能力、それにRAM(メモ
リー)の容量です。
スキャナから得た画像情報を記録する速度に関しては、コンピュータのハードディスクへのアクセス速度が重要な決定要因となります。たとえば、画像を保存
するハードディスクが、USB1.2で繋がれた外付けのものであった場合、記録速度がかなり低下する恐れがあります。一方、内蔵ハードディスクを使った
り、USB2.0, IEEE1394で繋がれた外付けハードディスクを使う場合には、記録速度は全く問題になりません。
一方、CPUやRAMは記録された画像を操作する際の快適さを大きく左右します。4-5メガバイトの白黒画像であっても、白黒反転や画像の回転を行う場
合には、かなりのCPUパワーが必要になりますし、また、いくらCPUにパワーがあっても、メモリーが足りなければ、いちいちハードディスクにアクセスし
て処理を進めることになりますから、莫大な時間がかかることになります。
後から見るとおり、写本画像を最初から一頁ずつ分割してスキャンするのは効率が悪いので、十頁程度をまとめて取り込むことになります。その際には、余白
などの不要部分も読み込みますから、取り込み画像のファイル容量は実に100メガバイト近くにもなります(白黒画像の場合)。100メガバイト級の画像を
回転したり、白黒反転させたりするには、300メガバイトくらいのRAMが必要になるでしょう。現在のOSはかなりのメモリを消費しますし、画像ソフト自
体にもメモリが必要です。300メガバイトのRAMというのは最低線だと考えてください。
筆者の環境
前項までの一般論を踏まえ、筆者の環境を説明しておきます。
コンピューターはPowerMac G4/400 (RAM=768mb,
MacOS9.2)、5年ほど前の機種です。G4/400の400はクロック周波数400mhzを表します。ただし、MacのCPUとWindowsの
CPUはかなり違いがあり、Windowsマシンでの、400mhzでは、遅すぎます。Macであれ、Windowsであれ、ここ2-3年に購入したマシ
ンなら、問題はないでしょう。RAMはかなり多めです。白黒の写本画像を扱うだけなら、ここまでの量は必要ないでしょう。Macユーザーは、筆者のOSが
MacOS9.2だということに注意してください。以下でふれるアプリケーションやプログラムのうち、筆者が作ったものは、全てMacOS9.2上でしか
動作しません。
外付けハードディスクはIEEE1394インターフェースのIO-DATAの60GBのものを使っています。二年ほど前に購入したものです。
IEEE1394インターフェースのハードディスクならデータ転送速度等に問題が生じることはまずありません。
スキャナはEPSON社のGT-9700F(2400dpi)を使用しており、コンピューターとは、やはり、IEEE1394でつながっています。GT
-9700Fは透過原稿ユニット付きですが、透過原稿ユニットそのものは、写本画像の取り込みには使用しません。
EPSONのサイト:http://www.epson.co.jp/
目次に戻る
次ページ