−バスカニオン教会−

礼拝堂などに置かれている「天に向かい歌う少女像」は少女神の像であり、主であるバスカニオンの像は存在しない。
教会は印章に「椿の五弁花」を用いる。



少女神

コレツェオスと呼ばれる少女が神の使いとして崇められている。
その歴史は古く、バルダ大陸が生まれる以前より語り継がれてきたとされる。
少女神コレツェオスは、世界が滅ぶときを決める者、裁定者であり、その力を有するとされる。
さらにコレツェオスはその神の力を失ったと同時に、新たな少女神を世界のどこか(レイモーン)に産み落とすとされる。
アンブロシアーナが生まれた年、前任の少女神であったコレツェオスは力を失った。
力を失くした少女神は、それから一年以内に落命する運命にある。
これは逃れることのできない死で、その落命の仕方はそのときにより異なる。



繁栄の儀(プロスフェストゥム)

少女神をはじめ、聖黎人や大司祭、司教など、バスカニオン教の崇高なる偉人たちが集まり、豊潤と安寧を祈る、四年に一度、 紫暁月の30日目から8日間、フランチェサイズ大聖堂で行われる花と踊りの儀式。
バスカニオン教のフランチェサイズ大聖堂で大々的に行われ、大陸全土から主要人物が集まる祭典でもある。
少女神は祭女官(さいじょかん)と巫女たちの宗教歌の中、身体中に銀の鈴をつけて踊る。
魔道具である神楽鈴は聴くものすべてを楽しい気分にさせる鈴である。
アンブロシアーナは二度経験している。



誕生祭(フェステドバード)

コレツェオスの力、アーリメントが発揮される日。
終わりと始まりの月の間の日に行われる。
一年は四つの月に分かれ、 紫暁月(しぎょうづき)・蛍藍月(けいらんづき)・黄昏月(たそがれづき)・白帝月(はくていづき)、 一月は91日と定められている。
誕生祭は白帝月の最後の日と紫暁月の初めの日の間に設けられたどの月にも属さない日、俗に“数えない日(バードラ)”に行われる。
バードラは、バルダ大陸の民の祝日。



狂信者(ツェペラウス)

バスカニオン教の信徒。
熱狂的な信者は、ツェペラウスと呼ばれ、バスカニオンのために命を投げ打つ覚悟がある。
コレツェオスを聖母と崇め、教典を網羅している。
一般市民と区別がつかない。




非国教徒(ディセンター)

公にバスカニオンを侮辱した人間は、狂信者に囚われたりするが、大抵は潜んでいてそれとわからない。



四重僧兵(テトラフォニア)

教会が持つ軍隊。
非国教徒に対しての武力とされているが、現、聖黎人ユールカは四重僧兵の規模を縮小するよう、教会に働きかけている。
四重僧兵は熱心な信者、すなわち狂信者の集団でもある。
四人一組で動き、碑金属で武装している。背中に椿の五弁花を模った外衣を着用。


第一の経典
コレア記 より

何もないところより、主、バスカニオンは生まれた。
主は世界の端から端を決め、さらに水と大地を作った。
さらに命あるものを生み出すため、主は自らの身体を裂き、それをまずコレツェオスとした。
コレツェオスは主と同じヒトの形をし、女であった。
さらに神の言葉を聞く力を与えられ、主はそれを妻とした。
やがて女は創めの子供を身ごもった。
それは八本の脚を持つ、ヒヨケムシであった。
ヒヨケムシは産まれてすぐに、コレツェオスに言った。
「私はこの広い地に、ただ一匹の存在です。どうか、私の寂しさを和らげるため、気勢のあるはつらつとした子供をお与えください」
女は次の子供を身ごもった。
それは草を食む鹿だった。
鹿は産まれてすぐに、走り去り、戻ってこなかった。
ヒヨケムシは悲しみ言った。
「私と同じように、主を忘れぬ信心深く、知性のある子供をお与えください」
コレツェオスは次の子供を産んだ。
それはカラスだった。
カラスは生まれてすぐに、ヒヨケムシの頭上を飛んだ。
それを見てヒヨケムシは言った。
「おまえは私より後に産まれたものなのに、なぜ私の頭上を飛ぶのだ」
カラスは答えた。
「私の知性はあなたより高く、私は探求しているのです。あなたが私と共に生きるに値するかどうかを」
ヒヨケムシは怒った。
「なんと厚かましく、ずうずうしいカラスでしょう。私はもっと主を敬い、同じように地を這うものを求めています。どうかそのような子供をお与えください」
コレツェオスは次の子供を産んだ。
それはヒヨケムシと同じ、地を這うムカデだった。
ムカデは産まれてすぐに、主とコレツェオスに感謝した。
さらに主とコレツェオスのために、数え切れない脚を動かし、地を歩き回った。
主とコレツェオスはムカデを愛した。
ヒヨケムシは激しい嫉妬を覚えた。
やがて、主とコレツェオスは、去っていったカラスと鹿のことが気がかりで、ヒヨケムシとムカデを置いて行った。
ヒヨケムシはムカデに言った。
「おまえは主とコレツェオスをどう思う?」
ムカデは答えた。
「あの方たちこそ、我々の光。我々の母です。なんと貴い存在でしょう」
ヒヨケムシはさらに嫉妬した。
その胸の内が、ヒヨケムシにもわからなかった。
ヒヨケムシは考えた。
ムカデはなぜ主とコレツェオスのことばかりで、私を見てくれないのか。
コレツェオスは私のためにムカデを産んでくれたというのに。
それはつまり、ムカデは私のために生きているということではないか。
私はムカデより、カラスより、鹿よりも先に産まれ、主とコレツェオスに一番に愛される存在であるはずだ。
もしかして、またコレツェオスは子供を産むのに失敗したのではないか。
ムカデはカラスより鹿よりも性質の悪い、粗悪品だ。
主もコレツェオスも本当はムカデを疎ましく思っているはずだ。
ムカデが無数の脚を動かし、やがてねぐらへ帰り、闇の中で眠っていると、ヒヨケムシは静かに近寄り、ムカデを跡形もなく食べてしまった。
やがて主とコレツェオスは朝日と共に戻ってきた。
主は言った。
「カラスも鹿も仲間を増やし、これからはもっと信心深く生きるようになるだろう」
コレツェオスは気づいた。
「なぜムカデはいないのです。どこへ行ったのです」
ヒヨケムシは答えた。
「ムカデはまだ寝ているのです。朝日が昇ったことを知らないのでしょう」
主は言った。
「なら起こしてあげなさい」
ヒヨケムシは答えた。
「いいえ、私は起こしません。なぜなら、ムカデはとても疲れているからです」
そして主とコレツェオスは黙り、ヒヨケムシを見た。
ヒヨケムシの八本の脚の一本に、ムカデの無数にある脚の一本が絡みついていた。
「おまえはムカデを食べたのか」
主は静かに言った。
ヒヨケムシは首を振った。
「いいえ、いいえ、まさか」
「闇の中で行われたことなら、誰にも知られることはないと思っていたのか」
「いいえ、いいえ、まさか」
「光の中で行われた、どんな善行も悪行も私は見逃さないが、闇の中で行われた悪行は、闇の瞳が見ているのだ」
主は口を開いた。
その暗い口の中に、真っ赤に光る大きな瞳がヒヨケムシを見つめていた。
「ああ、どうぞお赦しください。ムカデを食べたのは確かに私です。ですが、ムカデは私とそして主とコレツェオスのためにならない存在だったのです。あれはカラスより鹿よりも悪い生き物だったのです」
主は口を閉じ、闇の瞳は隠れた。
しかしヒヨケムシの恐怖は終わらなかった。
主は怒り、そして言った。
「おまえはコレツェオスに、三度子供が欲しいと訴えた。そしてコレツェオスはそれに答えたが、おまえは一度も感謝することもなく、一度も満足しなかった」
「ええ、その通りです。ですが、主よ、私はただ寂しく、ただ悲しく、ただ辛かったのです」
主はその言葉を聞いたが、ヒヨケムシを赦すことはなかった。
「おまえには孤独と闇だけを与えよう」
そして主とコレツェオスはヒヨケムシの許を去った。
それから、ヒヨケムシは闇に生き、孤独と戦うことになった。
どんな生き物も、同じヒヨケムシ自身さえ、ヒヨケムシと共に生きることはできなかった。
やがてヒヨケムシは主とコレツェアスを憎むだけのおぞましい闇の存在となった。

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