2003年8月上下旬

8月1日。
新たなプロジェクトに向けての会議。
しかし、このプロジェクトに参加することになるか、それとも・・という微妙な心境でやりづらい。
夕方、妻から電話。席を立ち、誰もいない場所へ。
「今、電話あった。『ぜひ来てください』やって」
そのまま会社の外へ出て、先方の担当者へ電話し確認。
「決まりました。来て頂けますか?」に「ありがとうございます。お願いします」と即答。
社員募集の告知を聞いてから実質約40日。
サラリーマン生活10年目にして、電撃的に「転職」が決定。
直感が予感に変わりそして確信から現実になる。


そして、席に戻り一呼吸おいて、直属の上司であるKマネージャーの席へ。
「あの、お話があるのですが・・」。
マネージャーにしては寝耳に水の話。
誰もいない会議室で話を切り出す。
「・・・退社します」
「えっ?」と思わずマネージャー苦笑い。
「5分前に決まりました。転職します。行きたい会社があるんです」と畳み掛ける。
そしてこの40日間の話、そこに至った心境などを全て話しする。
「・・引止めへんで」とマネージャー。
「びっくりしたけど、いい話や。別に今の会社が全てじゃないし、出合ったことがなくなる訳じゃない。またどこかで仕事することになるかもしれへんし・・次が決まって辞めるんやから安心や」
仕事のフォローはもちろん、精神的にも多くの場面で助けてもらった。
営業でくさってた時に、システムへひっぱてくれた恩人でもある。
この人が上司で良かったと心底思っていた。
そしてH先輩も交え話。
H先輩にも良くしてもらった。
僕のマニアックな資質を見抜き、最初におもしろがってくれた人でもある。
かってはこのHPでも対談してたぐらい。
どちらも僕に影響を与えてくれた恩人である。
またチームで新しい仕事をしようとしてた矢先に抜けることは申し訳ないが、
しょうがない。
僕は抜けることを選んだんだから。


8月2日。
滋賀の物流センターへ。
朝、所長に「話があります」と伝える。
二人で喫茶店へ向かう。
車に乗るとき所長が少し悲しそうな顔で「イヤな予感があたりそうやな・・」と一言。
退社の件を所長に話しするのが一番辛いなと思ってた。
男気溢れる所長には本当にお世話になった。
仕事はもちろん、それ以外、生きるということで影響も受けた。
数週間前に異動の話が出た時、所長はたいして仕事もできない僕にこれからも物流の為に力を貸して欲しいと言ってくれたのに。
そしてコーヒーを飲みながら、退社すること、これまでの経緯を全て話す。
「(所長としては)残念やし、居て欲しいけど、(個人としては)自分で決めて自分の行きたい方向へ行こうとしたこと、よくやった、おめでとうと言いたい」まじに泣きそうになる。


昼休み、後輩I君に退社の旨告げる。
I君のことは単なる会社の同僚というだけではない、この数年苦楽をともにしてきた仲間であり友人だと僕は思ってる。
だからこうして一人抜けることは悪いなという気持ちがやっぱりある。
でも、しかたない。
話切り出す。
絶句してしまうI君。


8月4日。
本社にて専務に正式に退社を申し入れ。
そして多大なる影響を受けたT先輩にも退社の旨伝える。
「いいタイミングなんやないかな」と先輩。
久々にじっくり話す。
仕事に酒、いろんなことを教わった先輩。
多分、この人に逢わなかったら今、退社するという決断をできなかったかもしれない。


それから数日で、一人一人退社の旨報告。
絶句する人、大声あげて驚く人、泣き出す人・・。
何の前触れも無くいきなり退社、それも今月でってことで驚かれるのも無理ないんだけど。
お盆まで引継ぎ仕事。


休日。
家族でひらかたパークのプールまで。
開園前に行ったものの、物凄い人だかり。
まさに芋洗い状態。
こんな悲惨なプールしらないってぐらい。
あまりの人の多さに家族揃ってうんざり。
昼までで出てくる。
後はゆる〜い「吉本版おばけ屋敷」とか見て帰宅。


お盆。
家族で実家へ。
ここで初めて転職の件、両親に。
さすがに驚きは隠せない様子も、まぁ次が決まってるんだし問題ないでしょうと。
久々に帰郷してる兄も交え食事に。
ずっと昔、20年ぐらい前、家族で行ったことのあるレストラン。
家族の一員だった僕は、新しい家族を作った。
僕の前にはいくつものサークルがつらなっている。


浅草キッド「お笑い男の星座2」読了。
もち「TVブロス」連載時から熟読してたが、改めてまとめて読むと何重にも折り重なった笑いの層の分厚さに圧倒される。
スキルの高さに裏打ちされた言葉遊びとストーリー展開、そして何より登場人物たちに惚れ抜くキッドの「熱」。
ナンセンス極まりない大爆笑巨編「自称最強・寺門ジモン」編、壮大なる芸人のロマンに泣けてくる「江頭グランブルー」編は必読。
そして最終章に登場する稀代の怪物・百瀬博教編にこの「お笑い男の星座」という宇宙的なストーリーにかけるキッドの熱い「男のホモッ気」を感じるのである。


久々に京都で飲み会。
気の会う友人と京都で飲む通称「Pの会」。
まずは「転職決定」の報告。
この転職、妻以外には誰にも言わずに行ったのだが、唯一先月会社帰りにばったりあった友人Kにだけは面接を受けることを告白していた。
その時Kがなにげに「受かるかもしれんなぁ・・」と言った言葉が実はかなりはげみになっていたのだ。
そんな訳でこの場でいい結果を報告できることが出来てよかった。
これからなんだけど、みんな喜んでくれてなんだか照れくさい。
でも酔った勢いで「いつか、自分の名前で勝負する」宣言する。
彼らと話すると僕はいつもちょっと青臭くなってしまうんだ。
で途中、急激に酔いが回って青ざめるアクシデントもあったが、なんとか持ち直して会合は終了。
彼らが居てくれる限り、僕はいつでも青臭くなれると思うと嬉しい。


お盆明け。
ほぼ引き継ぎ業務も終了。
5時半に退社して梅田ウロウロ。
こんなことをすることも、もうなくなるんだな。
この梅田の地下道に響く靴音は僕を少し大人にした。
ポケットの中でコンビニのレシートといっしょにしわくちゃになっていた夢を、僕はもう一度広げてみることにしたんだ。


でジュンク堂書店で探していた和田誠「時間旅行」藤子F不二雄の絵本「ぞうくんとりすちゃん」を発見し早速購入。
僕が捨て切れなかったことって、たぶんこんなこと。


9月1日から新しい職場で働くことが決定した。
引継ぎもほぼ終了したので有休消化に入る。
まずは一日、京都旅へ。
京阪電車で出町柳まで出て叡山鉄道で一乗寺の書店・恵文社へ。
理想の部屋のような書店。
のんびり端から端まで眺める。
和田誠「いつか聴いた歌」、娘にと和田誠の絵本「パイがいっぱい」購入。
それからバスで北山界隈へ。
東洋亭で絶品のホイル包ハンバーグの昼食。
北大路〜北山の鴨川沿いは高校時代の思い出の場所。
高校生の僕は、いつも下ばかり向いて歩いていた。
この河原で一人風に吹かれて、不安だらけの未来に光を探そうとしてた。
あれからもう10年以上たった。
まるで何も変わってないようにも思うし、随分変わってしまったようにも思う。
10年後の僕は、あの橋の上で微笑んでるんだろうか。


滋賀会館シネマホールでマイケルムーア監督「Bowling for Columbine」がかかったので観にいく。
深く重いテーマを知性とユーモアによってエンターティメントとして成立させているとこが凄い。
これは毒でもないし、正義でもない。
実に真っ当な「なぜ?」という感情。
なぜ僕たちは「銃」を手にするのか?なぜ僕たちは憎みあったり、殺しあわなくちゃならないのか?
無邪気な夢想家、そして冷静な批評家、何より根底に流れる「愛」と「悲しみ」の感情にマイケルムーアの気骨を感じる。
ここにでてくる人々、コロンバインでの悲惨な事件の被害者も加害者もチャールトンヘストンもブッシュも、もちろんムーアもそして僕も同じ人間なんだよなぁと思うと激しく胸が震える。


その夜、娘と藤子F不二雄の唯一残した絵本「ぞうくんとりすちゃん」を読む。
言葉の無い絵本。
F氏の柔らかな画を眺めながら、これが今、僕が子供にしてやれることの全てなんだと思う。


3年ぶりに家族旅行に出かける。
朝早くから車に乗り込み芝政ワールドまで。
大きなプールは気持ちいい。
波が出るプールで家族3人遊んでいるとちょっと幸せを感じるもんである。
昔、隣町に波の出るプールがあって、子供の頃夏になると連れていってもらっていた。
今はもうないそのプールで過ごした日のことを子供視点から大人視点になって思う。
「愛すべき生まれて育ってくサークル」の渦中にいることを深く感謝する。
で散々遊んで芦原温泉のホテルへ。
いいねぇ家族旅行は。
部屋でお茶飲んで浴衣に着替えて大浴場へ。
部屋へ戻るとテーブルにはおいしそうな料理が並んでいる。
いいね、いいね。
ビールなんぞを飲みながら料理を味わう。
社会人になって10年、なんだかんだよくやった俺。
戦士には休息も必要なんだよね・・・なんつって。
で娘ともう一度露天風呂入って、あたたかな布団で就寝。
翌日は朝からおかわりする勢いで朝食。
朝風呂つかってからホテル出発。
水族館と東尋坊に寄って、後は家までクレイジーケンバンドを聴きながらのロングドライブ。
さぁ次の家族旅行はいつになるやら。


三谷幸喜の01年作「バッドニュースグッドタイミング」DVDで。
公演時、水道橋博士氏や清水ミチコ氏が大絶賛してたのでずっと見たかった作品。
伊東四郎、生瀬勝久、八島智人ら芸達者が繰り広げる爆笑劇で噂以上のおもろさ。
勘違いにつぐ勘違いで転がりまくるストーリー、それをもうただ、ただ笑いだけで展開していく疾走感。
殿堂入りっすね。
娘が中学生ぐらいになったら絶対見せる。
このおもろさは人の人生変えかねないよ。


鈴木惣一郎、青柳拓次、高田蓮らからなるバンド・RAMのファーストアルバム「HOME FAMILY LOVE」購入。
早速聞いてみるが、これが良い。
ジャケットに写る、柔らかな光と緑に包まれたメンバー、それぞれの優しげな表情そのままの音楽。
アコースティックな響きの向こうに音を奏でる喜びが満ちている。
かって鈴木氏が率いたバンドEverything Playの「Holiday」の再演、青柳氏作「HOME」が特にお気に入り。
思わず部屋でアコースティックギターを爪弾いてみる、日曜の午後。


カーネーション待望の新作「LIVING/LOVING」購入。
もうね、最高としか言いようがありません。
はっきりいって17年カーネーションを聴き続けてきて良かった。俺の見る目に狂いは無かったと自慢したい。
一曲目「やるせなく果てしなく」。カーネーションのロック、この切なさ具合、ロマンティック具合、ちょっと泣いたね。
カーネーション語らせたら多分滋賀県一だと思うよ、俺は。
これ聴いて何も感じない奴とは、話もしたくないね。


物流センターで送別会開いて頂く。
会場は野洲駅前の飲み屋。
この飲み屋に何回足を運んだことだろう。
ピーク時には週3回は通ってたもんね。
まさか自分の送別会が行われることになるとは2ヶ月前には想像すらしていなかった。
共に働いた多くの人たち。
もしかしたらもう2度と逢うこともない人もいるかもしれない。
それでも何万分、何億分の一の確率で出会ったという事実は永遠だ。
食べて、飲んで、そしてありがとうだ。
出会いと別れを繰り返して、人生は進んでいく。ってなもんだ。
で2次会はいつものラウンジへ。
ってこの1年ぐらいはあまり行ってなかったんだけどね。
ママに「久しぶりやん、辞めるんやって」などと言われつつ、皆でワイワイ。
珍しく一気飲みなどしつつ夜は過ぎる。
こうして野洲駅前から一旦、卒業する。


8月最後の金曜日。
10年働いた会社への最後の出社日。
もうこの会社の通用口をくぐることもないだろう。
この日記でも愚痴を相当こぼしてきたけど、なんだかんだ言って初めて勤めた会社でいろんなことも学んだ。
仕事の厳しさもおもしろさも、多くの人に出会って影響されて僕も少しは大人になった。
サラリーマンなんて勤まるはずないと思ってた。
内向的で協調性がなくて、小心なくせに自信家で、空っぽなのに見栄っ張りで、ぐーたらでいい加減でひねくれてて。
何度もへこんだけど、10年前より確実に僕はタフになった。
最後になるとどうして全ての想い出が甘美になっちゃうのかな。
送別会も開いてもらう。
H先輩のエンターティナーぶりを見るのも最後なんだな。
1次会が終わり、2次会の途中で帰る。
あえて最後までは付き合わず、終電の時間で皆にさよならを言って店を出る。
いっしょに出た後輩の女の子と駅まで話して、最後に握手して別れる。
「がんばって下さいね」という彼女の笑顔が、僕のこの会社での最後の甘美な想い出だ。
そしてディスクマンから流れるBGMはカーネーションの「やるせなく果てしなく」。


偶然や必然だけじゃ測れないだろう?
こんなこときっとありえないとおれは思ってた
天気予報ははずれそうさ風を感じればいい
やるせなく果てしない悲しみを蹴り飛ばそう
きみのすべてに賭ける
これからの未来より先に
目の覚めるような眺めのいい場所まで届け
行方をさえぎるREDLIGHT
気まぐれなシグナルを睨もうか
坂の途中
ずっとおれはこの時を
夢に見てた

ときめきに震え
止まらずに走れ
吹き飛ばせすべて
倒れてもどこまでも
眩しすぎる
夕陽はおれの腕の中に揺れて
(やるせなく果てしなく/作詞・直枝政広)


2003年11月上旬の日記へ


今、あなたがご覧になっているHPは「OFF!!音楽と笑いの日々」です。
引き続きお楽しみください。