男子3日会ざるは刮目せよ!!


私が中学3年の頃のお話である。
最近、広島のある高校で、暴走族の生徒が同級生からお金を巻き上げ、暴力団に上納し、
そのため、かつあげされた男子生徒が、自殺する事件があった。
私の中学にも、よく似た事件が起こった。
同級生の数人がよく弁当を忘れたと言っては、数十円から百円単位で、
同級生達にお金を借りるのだった。(当然返済の予定は無い)
また遠足や、文化祭、運動会などの写真を写し、1枚百円で売り捌いていた。
私には絶対言ってこなかったが,借りる頻度が頻繁になり、返済も当然しなくなり、
その3年の女子を含めた小悪人達は、皆から当然嫌われた。
3年生から相手されないとなると今度は、下級生にまで被害は及んだ。
私はある日、ラグビー部の2年生がその3年生からお金をせびられているところを目撃した。
当然近寄り、何をしているか聞いた。
2年生はシロドモドロになっており、3年生はバツの悪そうな顔をしていた。
案の定小銭をせびっているのだ。
この3年生のグループは、卒業したTとつながっているのだった。
私はお金を返却させて,「2度とラグビー部の部員からお金を借りるな」と言って念を押した。
その日の部活で,3年のあのグループにお金を貸した者と聞くと,下級生ほぼ全員が手を上げた。
3年生に聞くと誰もいなかった。
するとある同級生の1人が「あいつら、卒業したTにお金を集めてこいと言われてるらしいで」と言った。
もう一人が「実は、ぼくもTに直接お金を貸してくれ,と下校中待ち伏せされて、2千円貸してん」と言った。
私は、ラグビー部の顧問の先生に、そのことを言った。
学校は大慌て、全校生徒にアンケートを取ると、被害者が数十人出てきた。
結局、総額80数万円になり,Tの親が弁済することになり、表ざたにはならなかった。
Tは進学もせず,取り巻きを集めてふらふらとしていた。
T達の喧嘩を見たことがあるが本当に汚い。
負けかけると、仲間が止める振りをして相手を羽交い締めにし,その間に殴るのだ。
私は2年生の時,ナイフを突き付けられたことがあった。
そのとき恐怖を感じたが、その恐怖と、卑怯な
Tに対して言い返せなかった自分の中の屈辱感が、心の奥深くあった。

高校3年間、中学時代の友人とはほとんど遊ばなくなった。
生活時間が合わないのだ。高1の時は、帰宅が夜10時を回っていたし、
遊ぶ体力も気力も無かった。
その事件は、大学の寮に入る2週間ぐらい前に起こった。
高校も卒業し、自動車教習所に通っていた私は、そこで偶然に中学時代の友人と再会し、
喫茶店や、酒を飲みに行っていたのだ。
ある夜、2人で銭湯に行くことになり、待ち合わせをし、銭湯まで少し遠いが話しながら
歩いていると、前からTが子分2人連れて歩いてくるではないか?
私の友人は緊張していた。なぜなら、まだTは不良そのもので、かつあげを
繰り返していたのを知っていたからだ。
私は心のなかで、「俺にかつあげしてこい」と本心で思っていた。
案の定、Tは「久しぶりやの、金貸してくれへんか?」と言ってきたのだ。
子分の2人は、Tの中学からの子分だった。
私は、「お前に貸す金なんかあるか」と言った。胸がスカッとした。
Tは「何ーーー」と子分の手前すごんでみせた。
少し自慢になるが、私は結構、ラグビーで高校時代、名前を知られる存在になっていたし、
Tも狭い町なので、噂ぐらい聞いているはずだ。まだ、私が、中学生のままで、
ナイフを突き付けられて何も言えなかった私だと思っていたのか?
私は、さらにTを挑発した。「お前負けそうになったら子分とかかってくるからのーー」
Tはサシでやったると息巻いた。
勝負はあっけなかった。あっというまに押し倒し、殴り付けた。
Tは、私に押さえ込まれて身動きできなくなった。
必要以上に人を傷つけるのがいやだった私は、「あやまったら許したる」と言ったが、
Tは、子分に襲いかかれと押さえ付けられながら、わめいた。
子分の1人は何か武器になるものを探そうとした瞬間・・・・・・・・・
私の友人に「サシで勝負すると言うたやろーー」と怒鳴られ動きを止めた。
「友人は「もう勝負は付いたんやからもうええやん」と言って
私を引き離した。Tはそれでも、「覚えておけよ」と言って立ち去った。
私は家に帰り、大学生の兄に一部始終話をした。
兄は、「中途半端やな」と一言。
Tにも面子がある。「お前一人の時に集団で来るかもしれんぞ」 そう言った兄は、
しばらく考え、「もう1回シメてこい」(なんちゅう兄貴や)
私は、子分2人の家を知っていたので直ぐに家を訪ねた。
彼らたちは金魚の糞なので私と喧嘩する気持ちなどさらさら無いが 
大阪弁のいわゆるカマシだけは、入れておこうと思ったのだ。
2人とも家にいなかった。私は家人に私の名前と、「ちょっと話がある」と言って
帰った。Tの家には行くなと兄から言われていた。
仕返しするために、武器を集められていてはいけないからだ。
翌日、T1人で私の家にやってきた。
子分2人が、私が家にきたことを家人から聞いてTに泣き付いたのだ。
「あいつら関係ないから、やめたってくれ。昨日のことは謝るから」
えっ、こいつ案外ええとこあるやん。
私は、拍子抜けした。
私の数年間の屈辱感と怒りはこの時消えてなくなった。


                 後日談
子分Aは、その後、親がTと引き離すために(本人も嫌がっていた)家族がどこか遠い土地で
就職させ、その場所を誰にも言わず、いつのまにか家族ごと引っ越しをした。
あの夜、子分Aを見かけたのが最後になった。

子分Bは窃盗で捕まり、少年院へ入り、その後何処へ行ったかわからない。
ただ、噂によると、Tが見張り役でT1人が逃げ、Bは1人でやったと言い張り、
罪を被ったそうだ。

Tはまだ、私の実家の近くに住み真面目に働いている。
3年ほど前、道で会ったときに、私に愛想笑いをしてきた。