後藤を待ちながら・・・・最終話


佐伯  「あなたこそ、自業自得だ」
キム  「あっははは・・・・・そうかもしれませんな」
佐伯  「あなたのお国の人はみんなそうだ」
キム  「なっ何ーーーー」
佐伯  「だって、そうでしょう北朝鮮は、国民が飢えているのに、莫大なお金のかかる、核開発をしている」
     「愚かなことをしている・・・・・・・・・」
     「あなたも、人並み以上の暮らしが出来るのに、家族を大切にしなかった。」
     「あなたも、北朝鮮の指導者も同じですよ。」
キム  「私の人生の半分の失敗は、あなた方銀行屋の所為なんだーー」
     「そら、有頂天になり、家族を大切にしなかったさ、しかし北朝鮮がああなったのも、」
     「あなたち日本人の所為でもあるんだよ」
佐伯  「そうら、またそうやって責任転換する」
     「私の、家族を奪い、私を苦しめてきた原爆を作るんて・・許せない」
キム  「ほう、佐伯さん、日本が北朝鮮よりプルトニュウムを持っているのを知っているんですかい」
     「日本だって、人工衛星飛ばしてるじゃありませんかい」
     「日本の技術なら、原爆積んだロケットなんて、お茶のさいさいじゃないのかい?」
     「アメリカは、幾つ飛ばしているんですかね?、佐伯さん」
佐伯  「日本人は、そんなことしない戦争なんて・・・・絶対に・・」
キム  「ほう、言い切れるんですかい?」
佐伯  「北朝鮮も、パキスタンも、インドも、中国も貧しいから、ああやって脅かして、金を引きだそうとしているんだ」
キム  「アメリカ人や、フランス人は、知的な人間で裕福だから安心なんですかい?」
     「あの、戦争の時、日本はなんて言ってアジアの国に入ってきました?」
     「欧米諸国からアジアを護る、でしたよね」
     「やったことは、欧米諸国より、ひどかったじゃないですかい」
佐伯  「そうやって、50年以上も前のことをいつまでも言って・・・・・」
キム  「佐伯さん、さっきあんた、こう言いましたね。」
     『8月6日の朝のことは、昨日のように思い出す・・』ってね」
     「アジアの、国の人たちは昨日の事のように思い出すんですよ。」
     「いつ、また侵略されるか?蹂躙されるかってね」
     「だから、いくら貧しくとも、莫大な費用が掛かろうとも、核開発を容認するんですよ」
     「愚かなことだが、それが現実なんですよ」
     
佐伯  「・・・・・・・・・・・」
     「しかし、戦争は・・・許せない・・・」
キム  「私だってそうでさー、戦争もイヤだし、原爆だって無い方がいいに決まっている」
     「そんな金あるなら、米買いなって言ってやりたいよ・・・・」 
「でもね、佐伯さん・・・・あの国は、50数年前から時間が止まっているんですよ・・」
     「未だ、戦争をしているんです。同じ民族と、日本相手にね・・・・・」
     「それに日本だって、戦争の準備しているように思えて仕方がないんですよ・・私は・・・」

       暫く沈黙のあと・・・キムがぽつりぽつりと・・  

     「戦後、朝鮮に帰った奴がいましてね・・・・ええ、そいつも孤児でね・・・今は何をしているのやら・・」
     「新しい国を作るんだーって言って目を輝かせて帰りましたよ」
     「そいつと、2人で悪さばかりしました・・・食べるためにね、イヤ生きるためにです・・・・」
     「実を言うとね、終戦後わたしゃーこの辺りで、ノラ犬のように生活していたんでさ・・」
     「何もかも、無かったときを思い出しましてね・・・・今も何にも残っていませんがね・・・・」
     「それで、ついふらーっとやって来たんでさ・・・」

    もう辺りは、暗くなりアベックたちが公園にぽつり、ぽつりとやってきている

キム  「もう、すかり暗くなってしまいましたね。」
     「後藤さん、遅いなー」
佐伯  「来やしませんよ、来なくて良かった・・・」
キム  「どうしてですかい?」

      暫らく沈黙の後・・・・・・・

佐伯  「私は、あなたとお話をして、就職のことなど、もどうでもよくなったんですよ」
    「社員のためだと言いながら・・私は大切な税金を盗んだんだ・・・・・・・」
    「戦争も、理由をつけても所詮人殺しだ・・・・・・・・・」
    「それに・・・・キムさん・・日本も戦争の準備をしているかもしれない・・・・」
    「私は、ふと今、そう思いましたよ・・・・・・・」
    「いつか・・そう、いつかわかりあえる日が・・くるんでしょかね」
キム 「そらーー、来ますよ、佐伯さん」
    「わたしと、あなたのようにね・・・・・・・」

     またも、沈黙がつづく

キム  「あっ、佐伯さん、アベックが増えてきましたね」

佐伯  「ああ、本当だ」
キム  「老人二人が、こんな所にいると、痴漢と間違われますよ。」
佐伯  「あっはは・・・・・違いない」
「どうです、一杯やりに行きますか?」
キム  「いいねぇーー銀座ですかい?」
佐伯  「まさかーー」

     二人同時に笑う・・・・

キム 「近くに、モツの煮込みのうまい店知ってるんでさーー」
佐伯 「おっ、ホルモンですね」
キム 「ブランディーとは行きませんが・・・・・・・ガード下にね。」
    「百年の孤独」っていう宮崎の美味い焼酎を飲ませるんですよ」
佐伯 「そりゃーーいい、行きましょう、案内してください。」

  二人は、ベンチから立ち上がり、身振り手振りを加えながら、談笑し
  公園の出口めざして歩きだした。

 公園の出口までは、闇が支配していたが、その『向こう側』は、明るい都会の明かりが眩いばかりに光っている。