後藤を待ちながら・・・・


    ここは、都心にある大きな公園・・・・・・・・
    近くには、大きなオフィスビルが立ち並び、お昼休みには近くの会社からOLや
    サラリーマンが憩いのひとときを過ごしにやって来た。
    しかし、時刻はあと1時間もすれば、日が暮れてくる時間帯で、公園は都心に
    あるにも関わらず、閑静なたたずまいを見せていた。
    遊歩道の木陰のベンチに、流行遅れだが仕立ての良い背広姿に、ネクタイをきちっと絞めた
    老人が(老人A)ベンチに所在なしに座っていた。
    噴水の方から、同い年ぐらいの仕立ての良い背広姿の老人(老人B)が歩いてくる。
    歩いてきた老人は、ベンチの前に立ち止まり、座っている老人に声を掛ける。

老人B 「ここに座っても良いですかな?」
老人A 「どうぞ、どうぞ、結構です」

    老人Aは、ベンチの端に少し寄る仕草をする。
    老人Bは、ベンチに腰掛をける。
    しばらくの沈黙の後、老人Bは煙草を取り出したが、ライターが見当らない。
    探す仕草、それに気が付いた老人Aは、自分のポケットから、煙草とライターを取出し
    老人Bにライターを渡す。

老人B 「こりゃどうも、ありがとうございます。」
     煙草に火を点ける、老人Aも煙草に火を付け大きく吐き出す。(ため息のように・・・・・・・)

老人B 「失礼ですが、何をなさっているのですか?」
老人A 「いや、人を待っているんですよ」
     「以前会社の部下だった、後藤っていう部下をね」
老人B 「そうですか・・・・」少しうなずく
老人A 「あなたの方こそ、なにをなさりに此処へ?」
老人B 「イヤーすることがなくて、ただなんとなく・・・・・・・・」
老人A 「そうですか、私は佐伯と申します。」
老人B 「私は木村です。日本名は・・・・・」
老人A 「日本名?」
老人B 「ええ、本名は金と書いてキムです。在日朝鮮人なんです。」
老人A 「ああ、韓国の方ですか?」
老人B 「いえ、朝鮮です」
老人A 「?」少し考える

   以下老人Aは佐伯と老人Bはキムと表示

キム 「韓国と、朝鮮は民族は同じでも違う国です」
佐伯 「勉強不足で申し訳ありません。」
キム 「いや何、日本の方は同じだと思っている人が多いんですよ」
キム 「よければ、お名刺でも・・・・・いや失礼、私も名刺を持ち合わせていませんから・・・・・・」
佐伯 「名刺ね・・・・・・数年前までは私の名刺で、銀座の何処の店でも飲めたものですよ。」
    と自嘲気味に・・・・・・・
キム 「私も、泡銭儲けた頃は、18Kの名刺を作り配ったものです。」
    「もらった人は、内心私のことをバカにしていたでしょうね・・・この成金と・・・・・」
佐伯 「どうりで、良い仕立ての背広を御召しになっていると思いました。」
キム 「何年も前のものです、もう残っているのはこれくらいで・・・」
    「あなたの方こそ良い背広じゃありませんか」
佐伯 「私も、もうこの背広しか残っていません」

キム 「そう言えば後藤さん、遅いですね」
佐伯 「来やしませんよ、約束は12時過ぎだったんです。」
キム 「なにか理由があって遅れているだけでしょう」
佐伯 「もう5時間以上も待っているんです、来ないですよ」
キム 「えっ、もう5時間も・・・・・・」
    「私は、まだまだ仕事がやれるって思っているんですよ、昔、可愛がった部下の後藤君に
    就職を頼んだんです。その返事がここでだったんです。」
キム 「会社ではなく、公園で?」
佐伯 「彼も、実際迷惑だったんですよ、私に頼まれたことが・・・・」
    「ですから、公園を指定されたんです。来なければ良かった・・・・・・」
キム 「・・・・・・・・・」
佐伯 「彼も犯罪者には関わりたくないんですよ」
キム 「犯罪者?」
佐伯 「商法の特別背任です。」
キム 「ははっははは・・・・」
佐伯 「何がおかしんです!」と語気を強めながら
キム 「犯罪者が二人・・・・・・はっははは・・・・・」笑い続けるキム。
佐伯 「犯罪者が2人?」
キム 「いや失礼、私もね犯罪者なんです。脱税の・・・」
佐伯 「脱税?こりゃあーたまげた、こんあこともあるんですかね」
キム 「公金横領ですか?」
佐伯 「私はある銀行の副頭取をしていたんです」
    「ご存じでしょうが、金融安定政策で、公的資金つまり税金を、銀行の資本増強に使ったアレですよ」
    「あの時公的資金導入してもらうために、不良債権をペーパーカンパニーを使って隠したんです」
    「不良債権を隠すために、回収不可能な会社に追加融資しましてね、挙げ句の果てに株主代表訴訟を
    起こされましてね、今はこんな有様ですよ。」
キム 「それは、自業自得だ」
佐伯 「何にを言う!!何もわからんくせに」     語気を強める。
    「あなたこそ脱税した犯罪者くせに!!!」
キム 「なにーーー私は、膨大な追徴金を取られたんだーーそのために会社が・・・・・・」
佐伯 「あなたこそなんだ!!あなたの経営能力が無かったんだろう」
    「儲かっているから、脱税するんだ」
キム 「元はといえば、あなた方銀行が悪いんだ、何だかんだと言って融資したではないか!!」
    「バブル崩壊後何だかんだといって回収したではないか!!あの追徴金でとられた裏金があれば・・」 
    「私は、破産しなくて良かったんだ」
    「なのに、銀行は犯罪まで起こして税金で助けてもらおうなんて虫が良すぎる」
佐伯 「ちがう、私は私利私欲でしたんではない、ああしなければ、数千人の行員の生活・・・・・
    その家族、取引先の従業員・・・・・・・数十万人の生活の為に・・」
キム 「私は一代で杵築上げたぱパチンコ屋をお上にと銀行屋に取り上げられたんだ」
佐伯 「パチンコ屋風情に経済の何たるかが分かるのかね」
キム 「どういう意味だ」
佐伯 「あなたはが18kの名刺を配るために、パチンコに夢中になった母親が、幼児を車の中で
    死なせたり、サラ金で家族が離散したり、売春までした主婦だっているんだ」
    あなたは、そんな人間の犠牲の上で贅沢していたんだ」
キム 「なにーーー、アル中になるのは酒屋が悪いのか!メーカーが悪いのか!!!」
    あなただって、大蔵省検査に手心を加えてもらうために、向島で芸者を上げて役人に
    接待をし、銀座の高級クラブで遊び回り、運転手付きの高級車で出勤していただろうが!!」
佐伯 「私は、私利私欲でない!!広島から出てきて50数年日本の経済の発展の為に働いてきたんだ。
    いつ、白血病になるか?癌になるか怯えながら・・・・・・・」
    今でもあの8月6日の朝のことは、昨日のように思い出す。」
    50数年経っても昨日の事のように・・・・・・・・・・

                     つづく・・・・・・・・・・・・・・・・・