丹波篠山マラソン


10数年前の12月、教師をしている大学のラグビーの先輩から電話があった。
「おう、久しぶりやな、何してんねん」
「あっ、久しぶりです。先輩こそ元気ですか?」
「ええ話があんねんけど」
私は、ドキッとした。なぜなら数日前に、大学の同級生から同じ台詞の電話があったからだ。
そいつも教師をしていた。内容は、マルチ商法まがいの、「アムウェイ」の勧誘だった。
私は、教師という立場と、「友人を無くすよ」と忠告して電話を切って直ぐだったからである。

「先輩、アムウェイちゃいますやろね。」
「何やそれ??」と先輩は、全然意味が解らなかった。
おそらく、先の同級生は、先輩、同期、後輩に勧誘しているのと違うかな?と私は早合点をしてしまった。
「ところで、クリスマス空いてるか?」
「いやー先輩、私だってイブの夜を過ごす彼女ぐらいいますから、ダメですよ。」と断った。
「ちゃうちやう(違う、違う)25日や、」
「25日やったら、都合つきますよ、何かあるんですか?」
「そやねん、うちの学校に講師の女の先生いてんねんけど、その先生の同級生と合コン頼まれてな」
「独身男性、6人段取りせんなあかんねん。」
「先輩、そらーーええ話やないですか!!行きますよーーー」2つ返事をして参加することになった。

当日、大学時代から何かあると、行っていたパブで、クリスマス合コンが開かれた。
男性全員は、大学時代体育会ラグビー部に所属していただけあって、すごかった。
私も、宴会部長だが私の出る幕はほとんど無かった。
なんだか、盛り上がり2組のカップルがその合コンで、出来上がった。
その内の1組は、結婚をし現在幸せに暮らしている。

合コンも盛り上がり、急に幹事の先輩が切り出した。
「実は、丹波篠山マラソンにうちの学校の、教師で参加することになってたんや」
「そやのに、みんな急にキャンセルや、参加費納めているからこのメンバーで行かへんか?」
みんな、ノリノリ状態で、全員参加が決まった。
私は、行きたくなかった。
なぜなら、長距離は苦手だったからだ。
先輩は、荒れた学校に勤務していた。
生徒も、教師も何かに疲れはてていたのだった。
まず、生徒より教師集団が、生き生きと活性化しなければならないと、考えた先輩は、
教師集団の「丹波篠山マラソン」参加を企画したのだった。
1Kmでもよい、完走しなくてもよい、教師が職員室でまとまなければ、
荒れた学校をどうにも出来ないと考えたのだった。

しかし、参加表明し、参加料を納めた先生方も、尻込みし多数の欠員が出たのだった。
元々、不参加の場合会費を返納しない約束だったので、私たちが無料参加出来たのだ。

マラソン当日、梅田で待ち合わせた私たちは、丹波篠山まで電車に乗った。
なんとか座席を確保した、私たちはまたもやノリノリ状態だった。
電車は、マラソン参加者で一杯だった。
私は、乗り込む前にキオスクで買っていた、ワンカップを取出し飲みだした。
すると、先輩は「お前、全然走る気持ちないやろ」と当たり前のことを聞いてきた。
「はい、全然ありません!、とりあえず10Kmは、走ります。」と答えた。

人、人、人、1万数千人参加するだけあって、人が多いのにはびっくりした。
町立体育館みたいな所で着替えた私たちは、ミィーティングをした。
とりあえず、完走、リタイヤにかかわらず集合場所を決めた。
リタイヤするときは、後方よりバスが来るらしく、手を上げれば乗せてくれるらしかった。
篠山城跡まで、乗せて来てくれるのだ。

スタートの号砲が鳴り響いた。
しかし参加者は、膨大な人数だ。私は町民がボランティアで出していた。
無料のおでんの屋台の前で、おでんを食べていた。
スタートから、15分ぐらいしてやっと前が動きだした。
目標の10Kmまで頑張ろう!そう決めていた私は、走りだした。
コースの沿道の町民の方が、家の前で「炊き込みご飯」のおにぎりや、果物などを持ち
無料で、ランナーに取れるようにしていてくれた。
そして、お年寄りから子供まで「頑張れーー」と声援を送ってくれるのだ。
私は、まじめに参加しないで、酒を飲んでいたことや、
体調のことなど考えないで、飲食していたことを後悔した。

目標の10Kmを越した、もう少し走ろうかな?と思ったが、普段不摂生がたたり
無理しないでおこうと思い、手を上げてバスに乗り込んだ。
すると、もうバスに乗り込んでいる人が沢山いたので少し安心した。
先輩の学校の先生も、もう乗り込んでいたので、互いに苦笑いだった。

先輩は、時間制限の為に折り返し地点で、強制リタイヤをさせられた。
私たちのグループの参加者の中で、唯一1人だけ完走者が出た。
帰り、またもや梅田界隈で、打ち上げの飲み会をした。
そうなのだ、私はこの為に参加したのだ。
なんやかんやと言いながらも、楽しい一日を全員が過ごすことが出来た。
みんな、誘ってくれた先輩に感謝の言葉を言ったが、先輩はぽつりと呟いた。
「ありがとう、喜んでくれて、でもお前らには悪いけど、学校の先生に参加してほしかった。」