私立高校受験の裏事情


この物語は、あくまでもフィクションであり、登場人物、団体名は全て架空である。

俺は、中学教員、今年3年生の進路指導の責任者に初めてなった。
回を重ねるごとに、全体の志望校、が絞り込まれてきた。
無理を、承知で実力よりランク上の高校に進学したがる、生徒、保護者を説き伏せ、適正な
偏差値の高校の振り分け作業も、終わりに近付いてきた。
また、できの悪い生徒が、高校へ進学したいと言い出したが、私立は経済的に無理があったのだが、
しかし、なんとか進学させてやりたい。奥の手を使うのも、校長が首を立てに振ったのでなんとか
なるだろう。
偏差値の低い、高校を3校程、リストアップし、受験票を3通書くのだ、そして、定員割れしている
高校に、受験させるのだ。しかし、この方法で入学させた生徒の退学率は100%だった。
この生徒だけは、卒業してくれと思いながら、送り出すのだがいつも期待は裏切られた。


3組の新米担任は、初めて、3年生を受け持ち、高校受験させるために、不安がいっぱいで、
2ランク落とした、(偏差値の)高校を生徒や、保護者に勧めるために、保護者、生徒から不信感の声が
上がり、苦労している。
俺も経験があるが、初めての3年生の受験は、自分の時より苦しく、つらい、不安だらけだった。
ゆえに、安全に、安全を重ねるために、志望校のランクを落とした進路指導になる。
保護者や、生徒は、他のクラスの生徒の模擬試験と自分とを比べ、自分がランクの低い高校に
進路指導されるのが、我慢ならないのだ。

今日は、最終の進路指導の日だった。
各担任は、進路指導の問題を最終的に処理できない場合、今日の会議にて報告しなければならない
司会役は、進路指導責任者の俺がする手筈になっていた。

「みなさん、進路指導ご苦労さんでした。何か、問題あるクラスは、ご報告願います。」
問題点は、1つだけあった。
私の懸念事項だった、不安は適中した。
1組から4組までは、なにもなく後は、受験日を迎えるか、私立高校の結果にて、決める事項なのだ。
問題があるとすれば、私立高校専願受験だけだった。
5組の担任が、「P女学院の専願受験の件なのですが、Q子とR子が是非受験したいと言い張りまして・・・」
つづいて6組の担任が「うちの、S子もP女学院と言い張りまして・・・・・・」
困ったことになった。俺の中学から3人のP女学院の受験生がでるのか・・・・・・
5組と6組の担任が、異口同音に俺にもう一度、P女学院の受験担当者に、交渉してほしいと懇願した。
俺は、できるかどうかわからないが、明日、P女学院に出向き、お願いして来ると約束し会議は終わった。


翌日、俺はP女学院の会議室で、P女学院の受験担当者と向かい合わせていた。
担当者は、昨年の資料を前に置き、席に着いた。
「いつも、お世話になっています。今日お伺いいたしましたのは、受験生の人数の件で・・」
「実は、本校の生徒3名が、どうしても専願にて、P女学院を受験したいと、申しまして・・・・・」
「3人とも、偏差値は、62程ありまして、学力的には、差がないのです。」
「人物評価にも、問題なく、3名の受験御許可願いませんでしょうか?」
(先生、ちょっと困りましたな、昨年は、偏差値57の生徒と63の生徒を受け入れてるのです。)
(他の中学校の兼ね合いもありますので、本年も例年通りという事で・・・・・)
あっさりと断られてしまった。

そう、このP女学院は、偏差値も高く、大学も併設してあり、女子生徒、保護者からも人気があった。
定員400名のところを、200名だけ、合格者を各中学校に振り分けているのだ。
俺の、中学は、2名の枠をもらっていた。
しかし、約束事があった。偏差値60以上、2名以内という約束が・・・・
この約束をクリアーしていると、当日点数が低くても、合格通知が来るのだった。
これを、俺達は、「事前相談」と呼ぶ。
しかし、全部の私立高校がしているわけではない。
高校側は、この約束事によって、ある程度、成績の良い生徒を確保できるし、定員割れを防ぐ
事ができるからだ。
昨年は、無理を言って、少し偏差値の足らない生徒まで、「事前相談」にて、合格を貰った。

俺は、5組と6組の担任を呼び結果を伝えた。
「T女子なら、「事前相談」の枠が1人分あるので、3人の内誰か1人回してくれないか?」と言った。
結果、3人とも首を立てに振らなかった。

P女学院は定員400名だ、その年、P女学院の受験者数は、併願合わせて、1200名以上に膨れた。
実質、200名の定員枠を1000名で争うのだった。併願,専願両方でだ。
うちの生徒は、1200名ではなく、仲の良い3人で争うことになった。
3人の内で、上位2名が、合格通知を受け取り、1名は、残り200名の枠のなかに、点数で
入らなければならない。
しかし、その場合、偏差値は優に70は越えてしまう。結果、R子が落ちてしまい、2名に合格通知が来た。

このことは、生徒、保護者は知らない。

知っているのは、学校関係者だけだった。