殴られてもタダ酒


 登場人物 S先輩、H先輩 、私の高校の先輩で全国大会3位になった時の主力選手

      Nさん、     S先輩、H先輩のライイバル高校の主力選手

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1、 大学のスポーツ部員は、その大学に憧れて試験を突破する者。
2、 大学側が勧誘する者。
3、 高校の監督が、今までの付き合いで(大学側との)進学する者
   と大体3パターンに分類される。
2の場合、選手は商品であり、高校は仕入先になる。
3の場合は、去年は良い商品を安く売ったので、(有望選手を進学させたので)
 今年は在庫処分に協力して下さい。と言って進学させるもの
 私の高校時代の監督は、N大学の卒業で、体育教員だった。 
 N大学は、リーグ戦に加盟しており、体育学科もあり、体育教員にもなれた。
 関東大学では、対抗戦、リーグ戦の2つのリーグがあり、
 私達の頃は、圧倒的に 対抗戦に人気があった。
 S先輩、H先輩は、対抗戦リーグで体育教員になれる大学として、N体育大学に
 進学した。もし、N体育大学がリーグ戦に所属していれば、おそらく高校の監督は
 同リーグのN大学に進学させていただろう。 
 やはり、同一リーグでライバル関係にある、大学に有望選手を送るのは、監督も
 母校に強くなってもらいたいし、気が引けるのである。

 S先輩、H先輩も、全国3位の勲章をぶら下げて、N体育大学に進学した。
 しかし、私の高校のラグビー部は、東京に進学するのは、H大学、C大学、N大学
 と3つの大学には、付き合いがあったが、N体育大学は、ラグビー部として初めての
 進学者だった。

 N体育大学もラグビー部の寮があり、当然、S先輩、H先輩も入寮した。
 S先輩、H先輩も高校の先輩がいない、かばってくれる先輩がいない25年前の
 寮は、苦労の連続だった。
 そう内のひとつのエピソードを取り上げてみたい。


 俺(S先輩)とHは、花の都東京にやってきて、大阪と東京の規模の違いに
 驚き、すぐに東京が好きになった。
 大学の練習も厳しかったが、高校時代も絞られていたので、あまり苦には、
 ならなかった。
 寮も、厳しかったが1年の仕事(雑用)をしていれば、自由時間もあったし
 それなりに、大学生生活を楽しんでいた。
 同じ大阪からやってきた、Nとは、高校時代しのぎを削った仲だが、同じ釜の飯
 を食べるようになり、仲がよかった。
 ただ、Nの高校時代の監督が、俺達の大学のOBで、Nの高校の先輩も、
 この寮に、いるのでNは何かにつけ、先輩たちにかばってもらえたが、おれ達は、
 先輩がいない分苦労した。
 俺の部屋長は、4年生で東北地方から来た先輩だった。Hの部屋長は、4年の
 和歌山から来た先輩だった。
 ある日、Nが、俺と、Hに、「俺の親戚が、上野でスナックやってんねんけど
 一緒に行かへんか?」と誘ってきたのだ。
 俺たち、3人は、夕食の後片ずけをして上野迄出掛けた。
 その店は、駅裏の繁華街にあり、若い女の子が5〜6人いて、経営者はNの伯母さん
 だった。伯母さんは、おれ達が、Nと同級生で同じ大阪出身ということで、可愛い
 女の子を、付けてくれたのだ。「みっちゃん」と「なおちゃん」だった。
 2人とも、20歳ぐらいで大学生のおれ達は、すぐにのぼせあがった。
 あっという間に時間が過ぎてしまい、気が付けば門限時間をかなりオーバーしていた
 直ぐ様、帰ることになりなった。伯母さんは、お金も取らず、いつでもタダで
 飲ましてあげるから、またおいでね。と言ってくれた。
 あわてて、寮に帰った3人は、恐る、恐る、各部屋に戻っていった。
 俺が、部屋に入ると、部屋長は、「楽しかったか?」と笑った。
 しかし、目は笑っていない、俺は直立不動で扉の近くに立っていた。
 すると、隣の部屋から「ドスッン」「バゴッン」と人の殴られる気配が・・・・
 Hの部屋だった。
 部屋長は、笑いながら(目は笑っていない)立ち上がり俺に近ずいてきた。
 翌朝、俺とHは、顔を腫らしながら、食堂に行った。
 Nは、昨日と変わらない顔をしてやってきた。
 Nの部屋長は、Nの高校の先輩だったのだ。
 その週末また、Nに上野のスナックに誘われた、「みっちゃん」と「なおちゃん」
 に会いたい、タダ酒を飲みたい、また出掛けてしまった。
 飲むほどに気が大きくなり、門限の時間が来ていたが、今の楽しい時間の誘惑に
 負けてしまい。また門限破りをしてしまった。
 また、寮に帰り殴られた。
 Nは、平気な顔をしている。
 そんな生活が毎週2〜3ヵ月つずき、最後に部屋長から、「上野のスナック」
 に限り、門限破りのお墨つきをもらった。
 貰ったとたん「みっちゃん」と「なおちゃん」は、スナックをやめてしまい、
 行く理由が無くなってしまった。
 当時、口説きたいとか、Hしたいとかじゃなく、大人になった気分だったのだろう。
 殴られてもタダ酒を飲んだあの頃に戻りたい。