交番に殴込をかけた教師


俺は1年間の時間講師の後、2回目の採用試験で教員に採用された、新米の体育教師。
配属された学校に、胸をときめかせ、新任の挨拶に行ったとき、ときめきは、不安に
変わった。
廃屋のビルか?と思う程、校舎は荒れ果て、まともに、ガラスのある教室は無かった。
廊下には、たばこの吸い殻がいたる所に落ちており、学舎とは程遠い光景だった。
職員室に入った時、ベテラン教師が23歳の若造に救いを求める、眼差しを投げ掛けた。
校長室に入ると、校長は新任の挨拶もそこそこに「ここまでに来る迄に、もうお気ずき
かと思いますが、本校はご覧のように荒れております。」
「あなたのような、若く理想に燃えた教師が、本校に赴任してくれ誠に喜ばしいかぎり
です。本校の、現状を打破するために、あなたの、若い力が必要です。是非本校を
変えるべく、頑張ってください。」
そう言われた俺は、面を食らった。
「ところで、XX先生は、高校、大学とラグビーをなさっていたとか?」
「ひとつ、本校でもラグビー部を作り、ご指導願いませんか?」
ちょっと待てーーー、ラグビー部を作るのは望むところだが、普通、同好会を作り
何年か実績を持ち、職員会議に諮りやっと出来るものだろう。
なんでいきなり、ラグビー部ができんねん。
超法規的処置だ。そこまで切羽つまっているのかぁーーー?
こうして、校長の「鶴の一声」でラグビー部は、創部された。
予算も付き、破格の待遇だった。

どこから手を付ければ解らなかった。とりあえず、対話から入れば100年は優に
かかるだろう。生徒は俺が何処までやるか見ている。
一歩でも引けば、もう教師として生きていけない。そんな剣が峰の所まで来ていた。
毎日が、生徒と喧嘩の毎日だった。
いくら、相手が中学生でも集団で来られれば負ける。
集団で来れないように、最初に俺に喧嘩を売った生徒はとことんやるつもりだった。
生徒が、女教師に対し暴れているとの知らせが職員室に入った。
俺はすぐ、その教室に走って行った。
女教師はうづくまり動かない。その背中を中学生が蹴っている。
俺は、引き離し「何をしてるんや!」と怒鳴った。
生徒は、「やかましいわ!!」と今度は俺にその得体の知れない怒りをぶつけた。
俺は、胸ぐらをつかみ殴った。何発も殴りつづけた。
生徒を引き倒し、更に蹴りつづけ、顔を蹴り上げ、鼻血が飛び散り、口も切れた。
「殴るとは、こういう事、殴られるとは、こんな事なんじゃー」と叫びながら。
生徒は、泣きだした。さらに追い打ちをかけるように踏みつけた。
やっと他の先生が中に入り、俺の喧嘩は終わった。(指導ではない)
校長は、「oo先生もひどい怪我をなされています。XX先生は生徒を殴った事を
気になさらないでください。教育委員会も保護者にも話はつけます。」はっきりと
言い切った。
校長は、不退転の決意だった。教育委員会もこの学校が相当ひどく荒れているのを
認知しており、少々の荒療治は、目をつぶる覚悟だな、と感じた。
それほど、ひどかった。警察を介入さす事は、敗北だと教師たちは解っていたが
教師としての良心と圧倒的な現実の前では、どうしたら良いか解らないのだ。
問題生徒と言われる生徒にもいくつかに分類される。
1、学校に来ない生徒。
2、狂暴ですぐに暴力を振るうもの。
3、窃盗及び恐喝するもの。
4、喧嘩はするが他の悪さはしないもの。(ただ喧嘩早いだけ)
5、授業についていけず、授業妨害するもの。
重複をするものもいるが、4と5の単体ならまだ救える。
俺は、1、2、3、は捨てることにした。体も時間もない。
4、5を対象にラグビー部を作ることにしたのだ。
1、2、3重複するものは、救いようがない、中学では末期がんと同じで、
教師では、もう無理だ、ここまでに来るまでに色々な要素が重なり合い、手の施しよう
が無いのだった。
俺は、4、5の生徒を集めラグビー部をつくり部員集めをした。
4、5の生徒は、何かやりたいし、心のなかに悶々としたものを持っていた。
3年生の硬派のやんちゃ坊主が入部してきた。1〜3の不良生徒も一目置く生徒だった
喧嘩早いが、あどけさの残る、話せば解る俺の好きなタイプの問題生徒だった。
彼の名は、G(ゴルゴ13じゃない)水を得た魚のように、毎日ラグビーの練習に
来たし、顔の表情も日に日に明るくなった。
相変わらず、暴力をふるう生徒はいたが、俺の顔を見るとやめるようになったし、
手の施し要のない生徒は、学校には来なくなった。
教師集団も、学校が少しずつ変わってきている手応えを、感じてきたために。
あきらめムードだった職員室も明るくなり、何とかしなければと思うようになってきた
学校のある所轄の警察の少年課の刑事とも、生徒が補導され出向いたので顔みしりに
なった。すぐにとはいかなかったが、地域も中学校が変わりつつあると感じてくれ
協力体制が整いつつあった。

ある日、顔見知りの所轄の刑事から学校に電話があった。
生徒が自転車窃盗で、補導されたのだ。学校の近くの交番のおまわりさんに、
呼び止められ、その内の1人が窃盗した自転車に乗っていたのだった。
その交番から所轄の警察に、パトカーで連れていかれ、取り調べられたのだ。
生徒は3人、Gも入っていた。俺は、すぐに警察署まで飛んで行き、3人の生徒と
あった。Gに事の経緯を聞いたのだ。
学校の近くの交番署の前を、Gを含めた。中学生が3人自転車で通りがかったところ
おまわりさんに呼び止められ、自転車登録を調べられたのだった。
その内の1人が窃盗した自転車を、乗っていて全員交番から、警察署までパトカーで
連れてこられたのだ。俺は頭に血が昇った。
俺は、顔見知りの少年課の刑事に、窃盗した生徒は仕方がない、しかし関係のない
生徒までパトカーにに乗せ、本署まで連れてくるとはどんな理由だ。
と喧嘩腰で話した。
刑事は苦しそうに、ただ事情を聞くためであって他意はない、と苦しく弁明した。
俺は、怒りが納まらなかった。
関係ない2人まで犯人扱いで、立直ろうとしている子供まで・・・・

その日、俺は学校を何とかしょうと立ち上がってくれた先生を誘い、酒を飲んだ。
俺は、その日荒れた。
付合ってくれた、先生は酔えなかったに違いない。
ハシゴ酒をした俺れたちは、昼間生徒が補導された、交番の前を通りかかった。
俺は交番に入っていき、「こらーー今日昼間、うちの生徒補導した奴出てこいーー」
と叫んだ。交番の奥は宿直室だ。出てこない。俺は、生徒が昼座らせられたであろう、
交番の中の事務イスを持ち上げ、交番の窓ガラスに叩きつけた。
大きな音がして交番のガラスは砕け散った。
宿直室の部屋から。おまわりが2人出てきた。
俺は。「お前らかーーー」とわめき散らした。
同僚の教師は私を羽交い締めにして止めている。
おまわりは、「先生、今日の所は帰ってください」
俺は、「何が帰えれじゃーよくも生徒犯人にしてくれたなーーー」
とただの酔っ払いだった。
おまわりは、同僚の先生に「これ以上されたら逮捕しなければならない」
「今の内なら、何とか私が処理しますから、連れて帰ってください」と言った。(そうだ)
俺は、覚えていない後から聞いた話だ。
同僚は、俺を抱えて逃げるように交番を後にした。