あの頃ぼくらはアホでした


大阪の高校ラグビー界は、全国的に強豪校が目白押しである。
昨年は東海大仰星高が全国制覇・そして今年は啓光学園高が
優勝と2年連続大阪代表チームが
優勝旗を手にした。
これは指導者、選手の努力の賜物では在るが突き詰めると、
大阪中学ラグビー界の指導者の熱意。
指導力にあると言っても過言ではない。
大阪の中学ラグビーは戦後3年目頃にして、1校名が創部されるという歴史と伝統がある。
しかし、当時中学校には殆どラグビー部なんて少数だった。
飛躍的に参加校が増えたのは20年程前、校内暴力が大阪で吹き荒れた時期にあたる。
最大数約150校ほどの中学にラグビー部が誕生したのである。(ほぼ倍に増えた)
現在少子化のために半分くらいには減っているが、
他の都道府県から比べるとそれでも参加数は
突出している。

その大阪の中学ラグビー界の父と言われている教師がいる。
その昔、国立大学が1期校2期校と呼ばれていた、
1期校の国立大学を卒業し、国立の大学院まで

進んだが「生涯現場」を貫き通した先生の話である。

その先生はT先生。
中学ラグビーを育てることに生涯を捧げた人である。
私の大学の先輩を通じて数年前よりT先生と親交を持たせていただいている。
(この先輩は、Zさんと言って「まむしの兄弟」の片割れである。)
(また、受験出願で首を賭けた教師。交番に殴りこんだ教師、
やくざの組み事務所に直談判のモデルである。)

(そして、Zさんの中学時代の恩師でもあった。)
T先生は数年前に定年退職なされ、現在は嘱託として教壇に立たれている。
また、岡山県と鳥取県の県境の山間部に、足掛け3年かけ手作りログハウスをも建ててしまった。
私たち家族とZさんの家族は、毎年GWにこのログハウスにお邪魔することが恒例になった入る。
先日のGWにも私たち家族はこのログハウスにお邪魔し、大自然を満喫してきたのである。
子供達も寝静まり私とZ先輩、T先生とログハウスの前で焚き火を囲みながら酒を飲んでいた。
私は「先生、私が高校1年のときにH中学のラグビー部連れて練習来たでしょう。」
「え?君はどこの高校やったん?」
「○○高です。」
「あー行ったことあるね」
「あの時中学生見てびっくりしましたよ。強かったし上手かった。
やんちゃ坊主も一杯いましたね。」
「誰の時やろかな?」

「明治行って、主将したKの時ですよ。」
「ああ・・あいつの時か・・あの時も強かった・・」
「あの時は近畿(近畿大会)優勝したんですか?」
「いや、わし1回も近畿取ってないねん。」
私は驚いた。当時中学は常に優勝候補であり1度くらいは
近畿大会に優勝していると思っていたからだ。

(当時近畿大会が一番大きな大会で、近畿優勝は全国一と同じだった。)
「いやー他校の先生からよく言われたわ・・このメンバーで勝たせなあかんて・・・」
「しかしなぁ〜上手い奴より一生懸命してる奴を選手に選んでしまうんや・・・・・・・・」
「勝負師になりきれんかったんやなぁ〜〜」と淋しそうに笑った。
「でもH中学も悪かったですね〜〜、何年いたはったんですか?」
「16年や」
「えっ?年数オーバーでしょう。裏工作しはったんですか?」
「いや、いや、10年が制限やったから11年目から転勤願いだしててんけど、
引き取り手の学校無かったんちゃう」
と笑いながら焚き火をかき回した。
「H中学は強烈な中学やから、先生しかアカンって教育委員会が考えたんでしょうね。」
「そうかもしれんなぁ〜」とT先生は苦笑いをした。
「でも、教師生活長かったからいろんな生徒いたでしょう。」
と私はおちゃらけ学園のネタ探しに話を向けてみた。
「そうやなぁ〜2校目に赴任したとき、新任で赴任した生徒と電車でばったりあったんや」
「そいつは、勉強もよう出来て進学校に進学したんや・・・・・」
「暫く立ち話して別れたんやけど・・・・・翌日自殺してなぁ〜〜ショックやった・・・」
「なにか?サインでもあったんですか?」
「いや・・全然思いつかない・・・・・・・・」
「今の先生なら、見つけられましたか?」
「う〜〜ん無理やろなぁ〜〜」と自嘲気味につぶやいた。
私は話題を変えることにした。
 
「先生他にいないんですか?」
「あっそうや、金曜日夜中に討論会してるやろ」
「朝まで生テレビですか?」
「そうそう、それによく出ている奴や、
そいつがわしの住んでいる市の開催で講演をするって市の広報で見たから

暇やったし聴きにいったんや。公演中わしがいることに気がついてくれてな、
終わったあと挨拶に来てくれたんや」

「そうしたら、同級生が3〜4人他にも聴きに来ていてわしの家で飲むことになったんや」
「みんな酔っ払ってな、そいつが『先生!先生のこと本になってますよ』っていうんや」
『東野圭吾覚えています?』
「おう、覚えてるがな」
『先生、あいつ江戸川乱歩賞取って、若手の売れっ子ミステリー作家ですわ』
「え?あいつがか・・・・・」
『そうです、「あの頃ぼくらはアホでした」ってエッセイ集だしていますわ、
先生のこと「はぐれ体育教師」で紹介してますよ。」


「そう言われて買うて読んだんや・・・、生徒から見たらわしこない
写っていたんやなぁ〜と考えさせられたわ」

「そうですか・・それじゃ早速買って私も読みますわ」

私はすぐにそのエッセイ集を買い読んだ。
はっきり言ってめちゃくちゃ面白いです。
私は読みながら大声を出して笑ってしまいました。