「教師の鏡・K先生逝く〜最終話〜」


数百人の教え子たちが、霊柩車の後に続いて歩きだした。
斎場までの道程は、10分もかからなかった。
火葬するために鉄の扉が開かれてあり、いよいよ火葬される時がやってきた。
最後の別れの為に、棺が開けられた・・・・・・・・・・
 
K先生のご両親が、じっと棺の横でたたづんでいた。
「親より早く死ぬほど親不孝はない」まさしくそんな光景だった。
棺が閉じられ、火葬場に棺が入っていった・・・・・
鉄の扉が、金属音を発しながら静かに閉められた・・・・・
本当にもうK先生は形を無くし、遺骨だけになってしまう。
数百人の教え子からは、啜り泣く声がひときは大きくなった。
親族だけの最後の焼香が終わり、葬儀屋が「お骨上げ」の時間を告げた・・・・・
殆どの参列者は、その時に引き上げた。
しかし、ラグビー部の教え子達20名程は帰らずに残った。
親族や他の参列者が帰った後、火葬場の鉄の扉の前に立ち号泣した。
「ゴッーー」と火が入れられた瞬間、泣き声は大きくなった。
 
この子達は、数十時間寝ていなかったし、いったいどれだけの涙を流したのだろうか?
泣いても、泣いても、泣き足らないくらいに泣いている・・・・・
火葬場の煙突から吐き出される煙を見ながら「K先生・・逝ちゃったなぁーー」と教え子は呟いた。
教え子達は、「骨上げ」の時間まで斎場から離れなかった。
 
「骨上げ」の時間になり、親族が斎場にやってきた。
鉄の扉が開かれ、骨だけになったK先生が現われた。
鼻をグスッグスッと鳴らしながら、ひとりひとりが、骨を拾い上げ小さな骨壷に納めていった。
骨上げが終わり、ようやく教え子たちは、思い思いに帰宅していった・・・・
 
 
その後、K先生のご両親は、K先生を故郷に連れて帰るつもりだったが、
お通夜、お葬式の様子をつぶさに見られ、慕われている教え子の多い地で埋葬することに
同意し、K先生は勤務していた中学校の近くに静かに眠っている。
 
教え子たちは、中学の名前を冠したラグビーのクラブチームを作り協会登録している。
当然監督名はK先生の名前になっている。
試合当日、毎回K先生の家から、K先生の遺影を持ち出しベンチに置いている。
もし、クラブチームのラグビーの試合会場で、坊主頭で意志の堅そうな遺影を見たら、
その方がK先生と思ってくださって間違いないと思います。
 
昨年私は、K先生の命日にお線香を上げにお邪魔した。
家族の方と話をしていると、突然玄関から通じる居間の扉が開いた。
そこには、小学校の高学年の男の子が立っていた。
私は「こんばんわ」と挨拶すると・・・・
その少年は、「あんたなんかキライ」と突然に私に言い放った。
奥さんが「XX君、すぐにおばさんが行くから、お勉強の部屋で待っていてね」と諭した。
奥さんは、私に「近所置の子供でね、LD児かもしれないんです。」と言った。
すると、K先生の娘さんが「XX君って、私が知っている人間で一番心が綺麗なんですよー
ねぇーお母さん」と言った。
奥さんが「そうなんですよ、本当に純真で、とても心が綺麗なんです。」とニコニコしなが言った。
私は「どんなことに興味を示すのですか?」と尋ねた。
すると「落ち着きがなくて、一つのことを集中して出来ないんですけども・・・
クラッツシック音楽は、コンサートに行っても何時間でも集中して聴いているんです。」
「CDなんかも何時間でも聴き入っているんですよ」
「それに・・現在から過去・未来の日付と曜日が瞬時に答えられて全部正解なんです。」
私は「へぇーーすごい才能を持っているんですね、良い方向に延ばしたいですね」と言った。
「そうなんですよ、彼にはどんな才能が眠っているか判らないので、早く見付けてあげたいですね」
と奥さんは、ニコニコしながら返答した。
上記の事以外、学校の勉強の方はさっぱりなので、奥さんが少しずつ勉強を教えているらしかった。
 
XX君は、K先生の家族には心を開き、とっても居心地の良い家なんだろう。
そこに、見知らずな私が居たために警戒心からでた言葉が、私に投げかけた言葉なのだろうと感じた。
K先生の生き様や、精神が脈々と家族に受け継がれている様子を、目の当たりにした時・・・・・・・・・・

心地よい幸福感が私を包んで行った・・・・・・・・・・・