体育教師は札幌すすきのでモテモテ


数年前まで、私は母校の高校のラグビー部のコーチをしていた。
ある年、北海道で夏に開かれるラグビーの北海道大会の招待状が、北海道ラグビー協会より
届いた。私のコーチするその高校も参加させて頂くことになった。

私と監督は、監督会議出席の為に、生徒より1日早く、札幌入りした。
勝手が解らないと困るので、S先生(非暴力主義で暴走族一掃教師参照)の大学の後輩が札幌で
高校の教師をなさっているらしく、事前に連絡をしていてくれた。
新千歳空港を降りると、ゲートにはもう、その先生が待ち受けていてくれた。

私たちは、その先生と面識が無かった。しかし、ラグビーをしていた体育教師はすぐに解る。
やはり、独特の雰囲気があるのだ。
その先生の名前は、「M先生」と言った。M先生の車で私たちは、すすきのホテルへチェックイン。
監督会議は、夕方からであったので時間があった。
私と監督は、サウナに行くことになった。
M先生は、監督会議の為の雑用があったために、時間を約束して別れた。

約束の時間になり、M先生が迎えにきた。
夕食は、会議の終わる時間から逆算して、「すすきの」にある炭火焼きの居酒屋をM先生が
予約してくれてあった。
私は、1人でその時間まで過ごすことになり、ぶらぶらと、すすきのを散策した。
閉口したのは、やたらとポン引きが声を掛けてくることだった。
親切言葉で、私を誘ってくるのだ。
私は、こういう人たちを、おちょくるのが好きだが、数が多くて本当に閉口した。
大学時分の、女の同級生に連絡を入れる。
まだ、結婚していないようだった。
年賀状など、出していたので、そのことは解っていたが、声を聞くのも十数年振りだった。
彼女の声は当時と変わらず、すぐに解った。
2日後、会う約束をして電話を切った。
なつかしい思いが胸一杯に広がった。
夕食の時間になった、聞いていた屋号を探しながら、すすきのの街を歩いていく。
解りやすい。すすきのは、碁盤の目のように道が整備されているので、目的地には直ぐについた。
しばらくして、監督とM先生がやってきた。
屋号、「醍醐」。ほっけ、ツボダイ、ハッカク、キンキ、本当に北海道の魚はおいしかった。

食事も終わり、M先生の行きつけのスナックに行くことになった。
そこで、1時間程時間を過ごして帰ることになった。
私は、もう少し飲みたかった。
そんな私を、監督がきづかってくれた。
「M先生、XXをもう少し預けますから、すすきの案内してやってください」
「私は、ここから1人でホテルへ帰りますから」 (ラッキーーーー)

私とM先生は、監督と別れた。
「XXさん、(私の方がM先生より1年上だった)どんな所がいいですか?」
私は、すぐに「M先生、すすきのといえば、ピンク系でしょう。」
M先生、にやりと笑い、「解りました。じゃーー10分千円飲み放題の、ランパブに行きましょう」
と言った。
私は、噂には聞いていたが、ランパブ(女の子が下着姿で接客してくれるパブ)に行ったことが無かった。
その店に入っていくと、女の子がM先生に気付き、「Mーーー(呼び捨て)、指名してーーー」と
「わかったよーー、サービスしろよーーー」そ言って席に着いた。
女の子が、2人きた。おっーーー(^^;下着姿だーーー。
ビールで乾杯した。すると女の子が「Mーーー(またもや呼び捨て)この人誰?」
「この人は、XXさんで、先生の先輩や」(えっ自分で教師をバラしてる?)
大抵教師は、飲みに行くときは職業を隠したがるのだ。(無茶したいから)
講師時代、飲み会があっても絶対に学校の名前では予約しなかった。
飲んでいると、「XXさん、胸ぐらい触ってやって下さいよーー(^^;」とM先生。
「えっーーお触りええのん」「うん、胸ぐらいやったらええよーー料金の内」
「M先生は、触らないんですかーーーー」
「ええ、教師ってバレていますからねーー」と笑った。

そこで、1時間ほど遊び、帰ることになった。
「ラーメンでも食べて帰りますか?」になり、北海道定番のラーメンを食べる為に、すすきのを
歩きだした。
私はM先生に、「よく、あの店に行かれるんですか?親しそうだったので・・・・」
「たまに行きます。教え子の所では飲みにくいですけども・ ・」!!??!!??
「教え子???!!!!!!!!!!!」
すると、飲み屋のチラシを配っている。派手なネーーちゃんが「Mーーーーーーーー」と声を掛けてきた。
「なんだ、アケミかーー何してんだーー」
「いまここで働いてるよー」
「あのボッタくりバーーはやめたのかーーー」
「うん、あそこバックがやばいしーーー今は、ちゃんとした店だよーー」
「一度来てよーーーー」
「安くしろよ、そうしたら行ってやるよ。」
「絶対するから、来てねーーー」
「ところで、クミはどうしてるん。、まさかヘルスまでは落ちていないだろうなーーー」
「うん、クミも、あの店やめて、今はちゃんとしたスナックに勤めてるよ」
「じゃーー今度、お前の所行ってから、クミの店行くよ」
そう言って別れて歩きだすと、後から「Mーーー」とまたも呼び捨て。
「おうーエツコかーー、いま帰りか?」
「うん、いま店終わって帰るところ」
「ラーメンでも一緒に食うか???」
「やったーーー行く行く」

私たちは、ラーメンを食べて教え子と別れた。
「M先生、みんな教え子ですか?もてもてですね。」
「いやー退学した子ばかりですわ。
大抵、退学すると、『すすきの』の水商売に入るんですよ。
みんな先輩、後輩でつながっていますから、てっとり早いですよねーーー」
「まだ、今の子達は、まだましで、しばらくすると、ボッタクリバー、ヘルスまで行くんです。」
「まだ、ソープまで落ちた子はいませんが・・・・・」
「退学する子達だから、退学する前に生徒指導で、色々人間関係できちゃいますから」と
寂しそうに笑った。

そう、私には理解できる。教え子が水商売に入ったりすると、自分を責めてしまうのだ。
M先生の場合、退学は何とか阻止したいと思うのであるが、どうしようもなく、手の届かない
事だってあるのだ。
「すすきの」の夜の街で、懸命に生きる彼女達を、助けられなかった自分を責めているのだ。
そうして、たまに飲みに行き、彼女達がこれ以上深みに入らないように、少しでもアドバイスできる
ように考えているように、私には感じられた。

教え子が、ましてや退学した子供たちが、先生に声をかける事は、彼女たちが、M先生の事を
信頼している事が理解できる。
何があったか、私は知る由もないが、彼女たちの笑顔、声のトーンで、M先生がぎりぎりまで
彼女たちの為に努力したことが、私には痛いほど伝わってきた。