2人で3000円ハシゴ酒


ある冬の夕方、私は車を走らせていた。
営業も一通り終わり、後は会社に帰るだけだった。
会社に帰ってもこれといった仕事もなかった。さて、今日はどうしょうか?
そんなことを考えていると、(あっこの辺り、先輩の勤めている学校の近くだ)と思い出した。
(今年は、良いメンバーが集まって、自信あると言っていたっけ)
私は、(もし暇があったらチーム見てくれや)と言っていた先輩の言葉を思い出した。
先輩は,ある中学の体育教員で、ラグビー部の指導者になっていた。
私は、車を先輩の勤務する、その中学校へ向けた。
校門を入っていくと、ラグビー部が練習しているのが目に入った。入っていくと左手に、車が駐車
してあり、空いているスペースに車を止めた。
車を降り、私は先輩に近付いていった。先輩は私に気が付き「誰かと思ったわ」と笑ってくれた。
生徒は、そんな私を見て「こんにちわ」と大声で挨拶してくれた。
私は、(あっ、かなり仕込んだな)と思った。
なぜなら、弱いチームは挨拶も出来ない。監督の知り合いに挨拶できるチームは、監督がチームを
掌握出来ている証拠だからだ。
チームを掌握出来ている監督のチームは、得てして強いチームと相場が決まっていた。
先輩は、「仕事は?」と私に尋ねた。「もう今日は終わりなんですよ」と答えると、先輩は
「あと、もう少しで終わるから、飲みに行こうや」と飲みに誘ってくれた。
私は、「いいですねーー。久しぶりに飲みましょうか」と返答した。
練習が終わり、生徒を最後に集め今日の反省点を、先輩は注意していた。
すると、急に「この人は、XXさんで、先生の大学の後輩や、W中学って強いチームあったやろ」
「その時に教えていた人や、今から練習を見ていてアドバイス貰うから聞くように」と私に振った
(打合せないやん)と思ったが、しかたなしに話をしてしまった。
「00先生から、大変良いチームだと聞いていました。練習を見るかぎり、私も良いチームだと思います。」
「ますます、練習は厳しくなると思いますが、近畿大会に是非出場してください。」と言った。
中学生は、大きな声で揃って「ありがとうございました」と返答した。

「おいXX、今ナンボ持ってる?」と先輩は私に聞いてきた。
「先輩、2千円しかないですわ」と言うと「俺、千円しかないわ、2人で3千円か、ま何とかなるやろ」
「お前の2千円かせ」と言って虎の子の2千円を先輩に取り上げられた。

「ママ今晩わーーー」と元気良く先輩は、ある居酒屋に入って行った。
「わっーー先生、お久しぶりーーーーーー」と笑顔で出迎えてくれた。
テーブルに座ると、ママ(女将さん)がおしぼりを持ってきた。
「先生、何にします?」「そやな、てっちり(ふぐ鍋)貰おか」と平然といった。
(なにっーーー先輩、3千円しかないねんでーーーーーーそんな無茶なーーー)
更に、追い打ちをかけるように「てっさ(ふぐ刺し)2人前もね、とりあえずビールも」
女将が消えた後、私は先輩に「大丈夫ですか?3千円しかないんですよ」と言うと先輩は
「まかしとけ、何とかなる」と平然としていた。
(えっーーーーーどうにでもなれーーーと私も開き直った)
ビールを2本程飲んだ後、先輩は「ママ−−−ボトル持ってきてーーーーーー」と大声で言った。
(えっーーーーーボトル、ウイスキーーー?)女将は、まっさらのウイスキーを持ってきた。
結局、1本開けてしまった。
私は、酔っ払って、もうどうにでもなれ状態だった。
(当時、カードも持っていなかったし、勘定をつける概念なんて無かった)
そろそろ、出ようになった。
「ママーーーー勘定!!!」と先輩が言うと、その店の女将は、「先生、今日はいいですわ」と言った。
(なにーーーー、タダ、無料、女将の奢り?、ラッキーーー)すると先輩は・・・・・・・
「そら、あかん(ダメだ)ちゃんと払う」ときっぱり言い切った。
(やめてくれーー、先輩のポケットには、3千円しかないねんでーー)
「先生、今日は、黙って帰って」と女将は懇願した。(ええ人やこの人は・・・)
「あかんもんは、あかん、払う。」と先輩は言い張った。
私は、もう逃げ出したい気分だった。
すると女将は、「そうですかーー?」(やめてくれーーー女将折れないでくれーーー)
「じゃ先生、2千円頂きますわ」(なに、あれだけ食って、飲んで2千円?)
先輩は、「そうかーー、悪いなママ」 と言って2千円支払った。
私は、酔いが醒めてしまった。
店を出て、先輩が「どや、酔い醒めたやろ」とにやりと笑った。「もう1軒行こーーーー」と先輩は歩きだした。
もうどうにでもなれ状態だった。

次の店に歩いて行く途中に、交番があった。その前を通り過ぎる時に先輩は、「あっガラス直ってる」
と呟いた。「先輩、何ですのん」「いやーーこの前この交番で暴れたんや、ガラス割ってもたんや
と涼しげな顔で答えた。

次の店も居酒屋だった。「おい、ここの刺身旨いねんで」と先輩は言った。
あと、千円しかないのに、と思った。(さっきみたにな事ないでーーー )
「あらっーーー先生、いらっしゃい」そこの女将も満面の笑みを浮かべ私達を出迎えた。
先輩は、「ビール」と言った。
すると頼んでもいない、刺身が山ほど出てきた。
その店でも勘定の時に同じ事が起こった。
すると女将さんは、「それじゃーー先生、500円だけもらっとくわ」になった。
所持金は、あと500円だった。
すると、先輩は、「もう一軒行くぞっーーーー」と言って歩きだした。
今度は、スナックだった。「ママーー来たでーーーー」と威勢よく店に入っていった。
「あらっーー先生ーーいらっしゃい」とこれまた笑顔で出迎えた。
カウンターに座ると、目の前に、バーボン、ウイスキー、ブランデーとボトルが5〜6本並んだ。
1つ1つ、違う名前のネームカードがぶらさがっていた。
下手な歌を、歌いまくりしこたま飲んだ。
「ママーー、帰るわ。お勘定」「先生、今日は・・・・・・」
「あかん、払う。」と500円しかない先輩は、またもや言い切った。
「じゃあ500円」とスナックのママは遠慮がちに言った。
「そうかーー」と言って先輩は、500円支払った。
店を出た。先輩と私はふらふらだった。
「先輩、今日行った店、生徒の保護者ですか?」
「そや、生徒の家や」
「まずいんちゃいますのん」「今、中学生やったら、よう行かんわ、卒業したから行けるねん」
「みんな、卒業したから、店に来てって言われてたんや。」
「卒業して初めて行ってんや」
「先輩、毎日そしたら、タダ酒ですね、羨ましーー」
「あほ、みんな、高校、ラグビー推薦で、行せたんや、親はなんかお礼って言ったけど 、金や、
 物貰えるか、全部断ったんや、しゃあから店に酒でも飲みにきてって言われてたんや」
「親の顔も立てたらんなあかんやろ、最初で最後に行ったんや」
「俺、飲んで、酔っ払うったら何するか、わからんのに親の店によう飲みに行かんわ」

先輩と私は、フラフラになりながら先輩の勤務する、中学校へ向い歩き出した。