ギターの弦高調整の仕方 トラスロッド調整編

 新型コロナウィルス感染拡大予防対策で自主休業していた間に「ご質問箱」と云うページを設置して皆様から頂いたご質問のお答えさせて頂いておりましたが、これを項目別に整理してコラム記事にさせて頂きました

Q:「ネックのソリ調整」について、踏み込んだ解説をいただければと思います(調整の方法、メリット、怖さ、意図的な調整の効果など)
A:「踏み込んだ」ですか…難しいですねぇ(^_^;)
まずネックの反りとは?と云う所はググってもらえばいくらでも出てきますのでここでは割愛させて頂きますが、踏み込んだ解説をしますと「反りの状態にも好みがある」という事があります
あまり多くはありませんがごく稀に結構大きく順反った状態が好みという方がいらっしゃいます
以前「どこの楽器店にメンテナンスを依頼しても必ず気に入らないセッティングになって帰ってくる」と仰られるベースのお客様が来店されました。あっちの楽器店に持って行ってもこっちの楽器店に持って行ってもダメでと、楽器店を転々と回られて全部ダメで、結局自分でトラスロッド調整して弾き易くしていたそうです。で、やっぱり楽器店ではダメかと初めてリペアショップに持ち込まれたのが当店でリペアマンと直接話をするのも初めてだったそうです
当店では1時間以内で出来る作業であればカウンター越しにその場で修理作業させて頂きますのでこの時もその場でまず状態のチェックをさせて頂いて、ネックがかなり反っておりましたのでトラスロッドを調整して反りを修正して、弦高の好みをお聞きして弦高を調整させて頂きました
で、その場でお渡しして試奏していただいたところ、「ダメです、これだと弾き難い」と。
ベースの場合、やや順反り気味の方がビビりが出難く音のメリハリも出やすいので特に指定が無ければまずやや順反り気味に調整してそれを試奏して頂いてお客様の感想に合わせて微調整します
ですのでここでダメ出しされるのは普通にある事ですのでこれで弾き難いと云う事はもう少しネックを真っ直ぐ方向になる様にと再調整してから再度試奏して頂いたところ、「さっきよりも更に弾き難くなった」と…
ん〜??「ひょっとして、今ここで調整させて頂いてからよりも持ち込まれる前の状態の方が弾き易かったですか?」とお聞きした所、「はい」と。
「ひょっとして〇〇さんはネックが順反った状態が好きなんじゃないですか?」とお聞きすると「え〜!?そうなんですか!?」とかなり驚かれました
このお客様は自分は順反ったネックのセッティングが好きであると云う自覚が無かったようで、みんなこんなセッティングで弾いていると思っておられたようです
どうりでどこにメンテナンスに出してもダメな訳です
楽器店にメンテナンスに出すと「はい、メンテナンスですね」と好みも聞かずに受け付けて、楽器店のリペアセンターや外注の修理店に引き継ぐだけですので、引き受けたリペアマンも一般的なセッティングにするしか術がありません
ですので今回の様に反っていれば修正して返すしか無いので今までメンテナンスしたリぺアマンの腕が悪かったわけでは決してありません
どんなに腕の良いリペアマンでもこう云ったケースの場合、お客様と対面して会話しないと分かりようの無い事なんです

かなり順反った状態がお好みであることが分かりましたので今度は調整前の大きな順反りの状態に戻して試奏して頂いたのですが、その好みの反り具合と云うのがかなりストライクゾーンが狭いと言うかピンポイントな様で、調整しては弾いて頂いて、調整し直しては弾いて頂いて、を繰り返すのですがストライクゾーンを外れて行ったり来たり…
幸いこのベースはミュージックマンでネックを外さなくてもトラスロッド調整出来る機種でしたのでまだ良かったですがそれでも1時間ほど行ったり来たりを繰り返した挙句ギブアップしてしまいました。
始めにいつもご自分でトラスロッド調整されているとお聞きしていましたので情けないんですが「申し訳ございませんが他人の私にはストライクゾーンが分かり兼ねますので後はご自分でお願いできますでしょうか?」とギブアップさせて頂いたんです
これを読まれている方は「無責任じゃないか!」と思われるかも知れませんが
1時間近く四苦八苦してもトラスロッド調整はトラスロッド調整、頂くお代は1,000円です。勘弁してやってください(土下座

ごく稀な事ですがこの様な方もいらっしゃいますので、これからご説明するトラスロッドの調整の仕方はあくまでも手順でしかありませんからあえて「どの様であればベスト」と云った様な確信を付く説明をする事は致しません
迂闊に何がベストだ!なんて言ってそれに当てはまらなかった人に「O2Factoryは偉そうに言うくせに全然わかってない」とか言われたくないですから
先ほどのエピソードのお客様もどこにメンテナンスに出してもむしろ弾き難くなって帰ってくるので「日本のリペアマンはどいつもこいつもアカンわ」と思われていたそうです
ちなみに日本のリペアマンは世界的に見て優秀な方だと思います
少なくともアメリカのリペアマンよりは優秀な人が多いと思います
最近「日本人は凄い!」と外国人を連れてきては言わせて悦に入っているテレビ番組が目立ちますが、あれも気持ち悪いですがギターの世界では日本はアメリカより下と云うよく分からない自虐(と云うかそういう風に言う人は自分が日本人である事を忘れてるんでしょうけど)もこの業界に長らく居て悔しく悲しい思いにさせられます

毎度エピソードトークが長くて申し訳ありませんがここからやっとトラスロッドの調整の仕方をご説明いたします
一般には「トラスロッドは素人は触ってはダメ」と言われると思いますが、私はいつも出来ればご自分で出来るようになって下さいと言っております
ではなぜトラスロッドは素人は触るなと言われるかと云うと、トラスロッドが効かない構造だったり、トラスロッドの調整代(ちょうせいしろ)が無くなるまで締まり切っていて、調整ナットが固くて回らないのを力任せに回わそうとしてトラスロッドを折ってしまう事があるからです
トラスロッドを折ってしまうと一般的にはトラスロッド交換となり当店では10万円以上の工賃が必要になります
この様な危険性があるので触るな!と言われるのですが、であれば折らない様に節度を持ってチャレンジしてみれば良いのです

ネックは気温や湿度で狂いが出て反ります
その感度は同じメーカーの同じ機種であっても個体差があり、多少の湿度変化でも全然状態が変わらなかったり、雨が降っただけで状態が変わる物もあります
一般的に乾燥すると順反りに、湿度が高いと逆反りになる傾向にありますが、私が今まで調整したギターの中では1週間以内に酷い順反りからローポジションで音が出なくなるほどの酷い逆反りに転じた個体もありました
この様に感度の高い(狂い易い)個体はその都度自分で調整出来るようになっておかないと下手をすると数日おきにリペアショップに出向かないといけない事になってしまいます
ただ、ヴィンテージフェンダータイプの様にネックを外さないとトラスロッド調整出来ない構造であったり、弦を緩めないと調整出来ないような楽器の場合は残念ながら一般の方にはトラスロッド調整は難しくなりますので経験のあるリペアマンにお任せされた方が良いかも知れません

まず、トラスロッド調整に取り掛かる前にネックの現状を知る必要があります
現状を知るという意味では「別に今どっかでビビりが出る訳でもないし弾き難い訳でも無いんでネック調整する必要は無い」と思われる方も現状があなたにとってベストなんであればどう云った状態が自分にとってベストなのか知る機会になると思います

ネックの反りを見る時にヘッドから、もしくはギター(ベース)をひっくり返してネックを覗き込み、ネックのサイドのラインを見ると云う方法がありますが、いったいネックサイドのどこを見るのか分からないし見ても反っているのかどうか分からないと言われるが多くいらっしゃいます
そう云う方に簡易的にネックの反りをチェックする方法があります

画像の様に片方の手で1フレットを押さえ、反対の手の小指で最終フレットを押さえて指板中央辺り(レスポールの場合12フレット付近)での弦とフレット頂点の距離を見ます。弦とフレットの隙間が開いているか良く分からない時は画像の様に、手を大きく開いて人差し指をできるだけネック中央寄りに伸ばして弦をピンッピンッとタップしてみて弦動くかどうか確認してみて下さい
この時ほんのわずか(コピー用紙1枚程度)に弦が動くことが確認出来る程度であればネックはほぼストレート、反りほぼ無い真っ直ぐに近い状態です
低い弦高が好きな方はこの状態が良いと思います
人差し指でタップしなくても分かるくらい弦とフレット頂点の距離が離れている場合は順反り
反対にタップしても弦が全く動かない場合は逆反りしています
これを1弦と6弦でチェックしてみてください

もし弦高が高くて押さえ辛いなぁ、とかミドル〜ハイポジションでビビりがあると感じていてこのチェックで弦とフレットの距離が遠かったらならネックの順反りがそれらの原因の一つですので順反りを修正すれば解消されます

もし、ローポジションでビビりが出ていて、弦高を上げても直らなくて、上のチェックをしたら弦とフレットが接触してタップしても動かなければネックは逆反っていますので逆反りを修正すれば解消されます

今が自分にとってベストな状態だ、と思われる方は上のテストでの弦とフレットの距離がどれくらいあるのか記憶しておいてください
そうすればネックが動いて押さえ難くなったり、ビビりが出た時にトラスロッド調整で元の位置に戻す事が出来るようになります
ただ両手が塞がっているので弦とフレットの距離を定規で測って数値化するのが難しいので目視の感覚で覚えるか、誰か他の方に手伝ってもらうかする必要があります

また、これを1弦と6弦でチェックした場合、弦とフレットの距離が1弦と6弦で違う事が多々あります
むしろ全く同じの事の方が少ないくらいです
この場合はどちらかが逆反りにならない様にして置くのが無難です

これが簡易的にネックの反りを見る方法なのですがこの方法には欠点がありまして、ネックが波打ちしていたり腰折れ(ハイ起きとも言う)を起こしていた場合はこの方法だと正確にネックの反り状況を判断出来なくなります
(ネックの波打ち・腰折れとは何ぞやと思われた方、すいませんググって下さい
ここで書くと更に長文になってしまいますので…)
ですので、一度はリペアショップでネックを見てもらって波打ちや腰折れが無いかその個体の癖を把握しておくと良いでしょう

なお、アコギやフルアコはトラスロッドが利く範囲は1フレット〜ジョイント部分までですので、この場合片側の手で1フレットを押さえ、反対の手の小指でジョイント辺りのフレット(大抵のアコギは12か14フレット)を押さえてチェックしてください

ネックの状況を確認していよいよトラスロッド調整ですが、まず大事なのはトラスロッドを折らない事、折らない様に調整するにはどうしたら良いかですが

トラスロッド調整ナットに専用パイプスパナをしっかり奥まで差し込んだら画像の様に
指先3本でつまんで回してください
指先3本の力で回せるくらい軽く回るのであれば無理な力でトラスロッドを折ってしまう事もありませんので一般の方でも危険を冒さずトラスロッド調整をする事が出来ます
指先3本の力では回せないくらい固かった場合は無理せず諦めてリペアマンに任せましょう。くれぐれも無理は禁物です
「俺は指先でリンゴを潰せるぜ!」と云う怪力自慢の方は親指と人差し指の2本でつまんで回してください。その際気持ちは弱気で、くれぐれも負けん気は発動しない様に!

スパナを回す方向ですが順反りがあった場合はトラスロッドに向かって時計回りに回せば順反りが修正され、逆反りがあった場合は反時計回りに回せば逆反りが修正されます
逆反りがあって反時計回りに回しても逆反りが直らず、どんどん回して行くとトラスロッド調整ナットが空回りしたと云う場合は残念ながら逆反りが酷くてトラスロッドの調整範囲を越しても直らない状況ですのでリペアマンに相談された方が良いでしょう

ひとつ注意点ですが、ごくごく稀に上記の逆方向にトラスロッドが利く物があります
フェンダーやギブソンで逆の物に出会った事はありませんが、個人工房の物やワーウィックの一部の機種で逆回りだったことがありました
調整しようとする楽器が珍しい物であった場合は念の為、どちらに回せばどちらに利くのか確認した方が良いでしょう

スパナを回した時のネックの動き方・反りが修正される量と云うのはその楽器のトラスロッドの形式や仕込み方により変わりますので、一度にどれくらい回せば良いのかは楽器によって違いますが、どっちにせよ画像の様に弦が邪魔になって一回に回せるのは30度ほどに限られます
もし軽く回るようでしたら初めの1回目は一気に30度回しても良いと思いますが、一度回したら反りがどれくらい修正されたかを確認して2回目からは微調整するように回して行けば良いと思います

トラスロッドを調整する時、弦を緩め無いとダメと言う人がいますが、調整ナットが軽く回るのであれば弦は緩める必要ありません
弦を緩め無いといけないのは調整ナットが固くて回り難い時で、この場合弦の張力が掛かったままだと順反り方向に弦の張力が加わりトラスロッドに負担となって、場合によってはトラスロッドを折ってしまうかも知れないからですが、そもそもここでは指三本の力で軽く回す事が出来る場合の調整方法をご紹介しておりますので弦を緩めないといけないくらい固かった場合はご自分で調整しない事です

スパナで無く六角レンチで調整する楽器もあります

これはマーチンタイプのアコギですがアコギはサウンドホールから六角レンチを差し込んで調整する物が多く、エレキもフェンダーのヘッド側にトラスロッド調整穴があるタイプは同じく六角レンチを穴に差し込んで調整しますが、この場合も要領は同じでレンチをしっかり穴の奥まで差し込んで指先3本でレンチをつまんで回してください

このタイプで特に注意が必要なのはフェンダーアメリカンスタンダードシリーズなどの細い六角レンチを穴の中に差し込んでトラスロッドの調整ナットを回すタイプで、このタイプは調整ナットの六角穴と六角レンチがしっかり噛み合っているか確認し辛い上に、付属の専用レンチを無くしてしまうと一般のインチ六角レンチでは長さが足りず調整出来なくなる事があり、また調整ナットの六角穴がなめ易いのに構造上簡単には調整ナットの交換が出来ませんので十分に慎重な作業を求められます
またそのギターが中古品であった場合は前のオーナーが六角穴がなめる寸前にしてしまっている事もありますので、あなたがトドメをさしてしまう可能性もあります
正直私でもアメスタのトラスロッド調整はドキドキしますし、差し込んだ六角レンチがグラグラ左右に遊ぶような時はかなり六角穴が痛んでなめる寸前である兆候ですので状況を説明して調整をお断りする事もあります

トラスロッドを回す方向をトラスロッド調整ナットの位置によってまとめさせて頂きます

ヘッド側で調整するタイプ(ギブソン、フェンダービレット、フェンダーアメスタ、テイラーなど)
スパナ又はレンチを差し込んで
6弦側に倒せば(回せば)順反りが修正される
1弦側に倒せば逆反りが修正される


ネックのボディ側で調整するタイプ(マーチンなど多くのアコギ、ミュージックマンなど)
スパナ又はレンチを差し込んで
1弦側に倒せば順反りが修正される
6弦側に倒せば逆反りが修正される

差し込んだスパナやレンチの倒す向きがヘッド側とボディ側の時で逆になりますが、トラスロッドの調整ナットを先端から見るようにした時に時計回りか反時計回りかと云う見方では同じ事になります

トラスロッド調整の裏ワザとして、ほとんどのアコギにはエレキの様に弦高を調整する機能がありませんので簡単に弦高調整出来ませんが、初心者の方など今はまだローポジションのコードしか押さえる機会が無くて、弦高を下げる為のご予算が無いと言われる場合はわざと逆反りに調整して差し上げる事があります
この場合ローポジションはグッと弦高が下がりますがミドル〜ハイポジションの弦高はあまり下がりませんので、課題曲が簡単な間のその場しのぎである事をお伝えした上でそうさせて頂きます
この方法は極端に弦高が高い場合にのみ使える裏ワザで元の弦高によってはローポジションにビビりが発生する事がありますし、トラスロッドに負担をかけて逆反らせますので一般の方はご自分の判断で真似しないようお願いします
真似してトラスロッドを折っても責任は負えませんので悪しからず

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