ミュージックマンAXIS EXの事 2
前回はミュージックマンAXIS EXがハイエンドギターズ主導で製作されるようになった経緯を書きましたが、AXIS EXは製造時期のより製造形態が変わります 第1期はハイエンドギターズで組み込み・セッティングをしておりましたが、その後の第2期では組み込みまで外注に変わりハイエンドギターズでは検品・修正・セッティング作業をするのみに変わります ハイエンドギターズで組み込みをしていた第1期のAXIS EXのトレモロスプリングキャビティーには「HIEND GUITARS」のデカールシールが貼られているのですぐ見分けが付きますが、どこで情報を得たのかマニアの方は何故かそれをご存じで第1期のAXIS EXは中古市場でプチプレミアが付いているそうです 第1期のAXIS EXの製造分担は ネック製作:ヤマ楽器 ボディ製作・ボディ&ネック塗装:飯田楽器 組み込み・セッティング:ハイエンドギターズ となります ヤマ楽器と云うギター工場はPGMも昔ボディ・ネックの製造を依頼していた所で、特にネックの製造精度に関してズバ抜けた技術力を持っており私も信頼しておりましたのでこの点は安心いたしました ボディの製造と塗装をお願いした飯田楽器に関してはわたしにとっては初めてのギター工場でしたが、塗装の仕上がりなどはトーカイのサンプルプロトと比べても綺麗でしたが製造精度に難有りでジョイントポケットの寸法にバラツキがあり、この点は要改善でした 原因究明に名古屋の工場まで出向いて調べさせて頂きましたが、バラツキの原因がNCルーターと云う工作機械の老朽化から発生した軸ブレである事が発覚し、改善するにはNCルーターの入れ替えしか無いという結論になりましたが数千万円する工作機械の入れ替えを要求するのは酷な事なのは工場を見れば分かりましたので、ジョイントポケットの寸法を寸法誤差を見込んで本来の設計よりも小さく変更して組み込み時に1本ずつハンディールーターで削って精度を出す事に致しました その為に製作した治具はハイエンドギターズに置いてきましたので手元にはありませんが大体こんな感じの物です この治具の裏側にネックのジョイント部分を差し込んで赤矢印パーツをネック側面に押し当てて青矢印のネジで固定すると治具のジョイントポケット幅が決まります この状態で表にひっくり返してボディに貼り付けてハンディールーターでジョイントポケットを削るとネック幅と全く同じ寸法にジョイントポケットが削れると云う仕組みです この治具にはネックセンター位置も印してあり、ブリッジセンターをこの印の位置に合わせて、ネック側は赤矢印パーツの側面がジョイントポケット底面1弦側の側面に一致するように治具をボディに固定してルーターでジョイントポケットを削ればネックジョイントのフィッティングとブリッジ・ネックセンター合わせが一度に行えるようにしていました スティングレイEXもボディは飯田楽器で製作でしたのでスティングレイ用の同型治具も製作して作業していました AXIS EXのボディ、ネックの仕様ですが、まずボディはトップ側から0.6ミリ厚のフィギアドメイプル突板(薄板)、約4ミリのメイプル材、アルダー材の3層構造となっていました トップの突板には1ピースの物と2ピースの物が混在しますがこれはその時に手に入る木目の良い突板を選択して使用していた為でそれ以外の意味はありません AXIS EXの製造が決まってすぐの頃に私自身が愛知県のアイチ木材に出向いて沢山あるフィギアドメイプルの突板から木目の良い物を1枚ずつ選別した記憶があります 私が選別した突板を使い切った後は突板の選別はボディの製造委託先の飯田楽器さんにお願いする様になりました バック材にはアルダー材とバスウッド材の2通りあると言っている方がいらっしゃるようですが私の記憶の限りバスウッドを使用した事は無いと思いますし、その様に仕様変更を指示した記憶もありません ただ、発売元の神田商会発行のカタログやプレスなどでは「バック材:バスウッド」と書かれていたかも知れませんのでこの辺は神田商会のミスリードがあったかも知れませんが、私がジョイントのフィッティング加工をしていた第1期では100%アルダー材で間違いありませんし、第2期でも少なくとも私がジョイント仕込み角を調整し直した物に関しては全てアルダー材でした ネックの仕様は基本バーズアイメイプルの貼り指板仕様でUSA製の物は1枚のメイプル材を指板側とグリップ側に一旦切り分けて、トラスロッドを仕込んだ後に再び貼り合わせると云った事をしておりますがAXIS EXの場合はそれぞれ別のメイプル材を張り合わせて製作しております USA製の手法を再現出来なかったのはコスト面と材確保の難しさからです ネック製造委託先のヤマ楽器の様な小規模工場ではアイチ木材などの主にギター用の木材を扱う材木業者から予めギター用に製材された木材を仕入れる事が通常なのですが、USA製のネック製造手法を取ろうとすると通常のネック材よりも厚みのあるネック材を確保する必要があります 「普通にメイプル1ピース材で出来るんじゃね?」と思われるかも知れませんが、一旦指板とグリップに切り分けると云う事はノコギリの刃の厚み分の切り代で1.5ミリほどロスします またヤマ楽器などちゃんとしたネックの作り方をする工場では工程毎に木材の狂いをしっかり取るので狂いの取り代が指板側とグリップ側でそれぞれロスします つまりメイプル1ピース材で普通にネックを製作する時よりも2倍以上のロスが出ますので普通のメイプル1ピース用材木では厚みが足らなくなるのです USAミュージックマンの様に製造本数が多い場合は木材業者に材木の厚みを指定して特注できますが、第1期当時で月産75本程度のAXIS EXではそれは難しく、仮にコダワってそれをしたとしてもネック材のコストと製造コストが上がりUSA製と変わらないような価格になってしまいます こう云った妥協でコストを下げてUSA製と同じパーツを使用しながら10万円ほど安い価格を付けられていたのですが、やって良い妥協とやってはいけない妥協があって、これは「やって良い妥協」だと私は思っています もし一体では無い他所のメイプル材を指板材に使用する事がやってはいけない妥協だとするとローズ指板など貼り指板ネック全てを否定する事になってしまいますよね? 指板周りで言うとUSA製はグリップ部も指板面もオイルフィニッシュですがAXIS EXは指板面にウレタンシーラーが塗装されています これもUSA製とEXの大きな違いですが、USA製は使用しているうちにグリップ側と同じ様に指板面も汚れ出しますがEXの指板面はウレタンシーラー塗装がしてありますのでグリップ程汚れが付きません なぜ、EXの方は指板にウレタン塗装がされているのか? 実はヤマ楽器にメイプル指板のネックを発注するとディフォルトでウレタンシーラー塗装がされた状態で納品されるのです フェンダーなどアメリカのメーカーの多くはメイプル指板に塗装をする場合、無塗装の指板面にフレットを打った後に下地からすべての塗装を行います 中塗りと言われるシーラー塗装は乾燥後サンディングを行う必要があるのですがフレットが打たれた状態の指板塗装にサンディングを掛けるにはフレットポジションごとにひとつづつサンディングを掛ける必要があり実に手間ですが、ヤマ楽器ではフレットを打つ前に指板にシーラー塗装をしてサンディングした後にフレットを打ちます。この様すればフレットが無い状態でシーラー塗装のサンディングが出来ますので簡単に尚且つ綺麗にサンディングする事が出来ます どっちにせよクリア塗装磨き時のサンディング時にはフレットが邪魔になるのはどちらも同じなんですがこの面倒な作業が一つ省けるだけでも作業者としては非常に楽になります またフレットを打ってからすべての塗装を行うとフレットの裾に塗装が溜まって厚塗りになってしまう事が多いのですが、ヤマ楽器の方法の場合シーラー塗装の上にフレットを打つのでフレットの上に掛かる塗装は着色層とクリア層の2層になりますのでフレットの裾に塗装が溜まり難くなり、塗装の仕上がりもスッキリとした物になります 実はファーストロットのネックがヤマ楽器から届いた時に指板にシーラー塗装がされていて「あ〜今回はオイルフィニッシュだから指板シーラー要らないんだった…」と思いましたがサンディング済みのシーラー塗装はその上にオイル塗料を塗ると生地にオイルフィニッシュしたのと見た目の区別はつかなくなりますし、指板の汚れ防止になると思い仕様変更は申し入れませんでしたが、後に「グリップは汚れるのに指板が汚れなくてそれが違和感」と云ったご意見を聞いた時は申し訳無くなりました そう思っておられるAXIS EXオーナーの方、大変申し訳ございません この様にして製造されたAXIS EXは当時B'zの松本さんが使用していた事もあってか予想以上の大ヒットとなり出荷すれば即完売、神田商会のセールスマンへの振り分けも厳しい物となり「売れるのに自分の所に回って来ない!」と私に不満を言われるセールスマンもいらっしゃいました ハイエンドギターズでの組み込みキャパシティは月産150本程度、当時はスティングレイEXとAXIS EXを交互に日替わりで組み込みしており、スティングレイEXも売れていましたので単純にAXIS EXの割合を増やすと云う訳には行きませんでした そこでスティングレイEXかAXIS EXのどちらかを組み込みまで外注にしてそれぞれの生産本数を増やすと云う事になりましたが、外注に出すのであれば飯田楽器さんに出す事になるが、現在の様にネックはヤマ楽器製、ボディは飯田楽器製と云う訳には行かないと云う話になりました そもそも飯田楽器さんは楽器製造メーカーでボディ屋さんではありません ネックも製造している所にボディのみ発注すると云うのは「お宅のネックは要りません」と言っている様な物 今まででも失礼とも取れるお願いをしていたのに「組み込みまでお願いしたいけれどお宅のネックは使いません」とは言い難いのです そこでベースのネックとギターのネック、よりシビアに精度を求められるのはどちらか?と云う選択になり、よりシビアなべースネックはやはりヤマ楽器さんでお願いしたいと云う事でスティングレイEXはハイエンドギターズで継続して組み込み、AXIS EXの方をボディ・ネックの製造から塗装組み込みまで飯田楽器さんに委託する事となりました この結論自体飯田楽器さんにはそこそこ失礼なのですが、後に「スティングレイにしなくて良かった」と分かる事になるのです そこについてはパート3でお話しさせて頂きます つづく |