Лебединое озеро

雨でも盛況のマーケット
屋外マーケット(横断幕に「サンクト・ペテルブルグ300年記念フェアー」とある)

 夕食は、ツアーの皆さんと一緒に摂ろうと思っていたので、約束の時間までにスパス・ナ・クラヴィー聖堂からグリバエードフ運河の向かいのレストランに歩いて行った。コニュシェンナヤ広場までくると、現地ガイドのサヴィーナさんが私の姿に気づいてくれて、独特のアクセントで「あらー、大丈夫でしたか?」と声をかけてくれた。私は一日のことをさらっと話すと、「ソフィヤ・クラムスカヤが好きですか?」と問われ、「絵が好きですが、彼女も好きです」と答えたりして、お互い表情を緩ませたりした。それから、「他の皆さんはお土産を見に行っています」と教えてくれたので、私も屋外マーケットに15分ほどいることにした。
 スパス・ナ・クラヴィー聖堂の裏手、コニュシェンナヤ聖堂の隣には、↑のようなお土産の屋外マーケットがあって、ロシアの民芸品やお酒、絵葉書、記念切手、カメラなどが売っていた。私はこれといって欲しい物などなかったので、ぶらぶら歩いていただけだったが、そんな私に対しても店の人は本当に声をかけるのが上手で、英語と日本語を巧みに織り交ぜてまず「挨拶」から入ってくる。「挨拶」と鍵かっこで括ったが、あのマーケットの人の独特の声のかけ方、商品を見せる引き込み方には、毎度舌を巻く。本当にこちらがちょっとでも興味を示したら、即いろいろ薦めてくるまさにプロって感じなのだ。でも、パターンは決まっていて、女性には着飾れるものや人形などを、男性には必ずといっていいほどウォッカと「レーニンもの(トランプ・切手・お皿・Tシャツなど)」を薦めてくるように思ったのは私だけだろうか。
 私の欲しい物(ロシアの作家のマトリョーシカやドストエフスキーの切手やロシア美術の彩ったもの)はなかったし、実際に頼んで見ても普通のお土産店では扱っていないものらしかった。あと、カメラを扱う露店でロシア製のカメラのことを訊いてみたが、扱っているのは外国のカメラばかりで、現地では外国のカメラの方が人気があるみたいだった。
すごい装飾だった……
スパス・ナ・クラヴィー聖堂の西側外壁
 夕食のレストランまで十数歩のところ、今回の旅行では入らなかったスパス・ナ・クラヴィー聖堂の傍で足を止め、せめて美しい外壁だけはじっくり見ておくことにした。建築家パルランドの原案による聖堂の西側外壁のモザイク画は、雨の日でも光を放っていた。
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 夕食は野菜サラダとキエフ風のカツレツで、ウォッカも別に注文してたのしんだ。ツアーの方ではペテルゴフのピョートル夏の宮殿の方に行っていたそうだが、やたらと並ばされ、おまけに雨と強い風が身体にこたえたそうだった。それに昼食も2:30くらいになったそうで、ぜんぜんお腹が空いていないとのことだった。というわけで、昼食を抜いた私が他の方の分も積極的に引き受けることになり、ウォッカもさらに進んだのであった。だか、このときのウォッカは美味しかったのは確かだが、ロシア式に一気に飲むようにしたので、三杯目で酔いが身体中を襲ったのであった。
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マリインスキー劇場
 夕食後、ホテルに戻り着替える人は着替えて、マリインスキー劇場に向かった。ツアーに組まれていたチャイコフスキーの『白鳥の湖(Лебединое озеро)』の観賞である。写真の通り、あちこち渋滞で開演に間に合うか微妙なところであったが、なんとか間に合った。あとで分かったのだが、この日はペテルブルグの駅伝かマラソン大会があったそうで、道理で泊まったホテルにイタリアの青いジャージを来た若い選手たちが宿泊しているわけだと納得したのであった。
 それにしてもこの空模様、なんとも不気味な…。
リムスキー=コルサコフの像
 左は、開演間近だというのに、急いで撮ったリムスキー=コルサコフの像。マリインスキー劇場があるテラトリナヤ広場には、リムスキー=コルサコフの像とグリンカの像がある。
 リムスキー=コルサコフの像は1952年に建てられ、彫刻はВ.Я.Боголюбов,建築はВ.И.Ингалである。
 また、ここに写真で紹介していないグリンカの像は1906年に建てられた。彫刻はР.Р.Бах,建築はА.Р.Бахによる。名字からして兄弟の手によるものなのだろうか。
劇場内のシャンデリア
5段階の観客席
 マリインスキー劇場は、モスクワのボリショイ劇場とともに世界に知られているが、私は、劇場の芸術総監督でロシアが世界に誇る指揮者ワレリー・ゲルギエフの話題や、また劇場の伝統として、夫婦やカップルは劇場の廊下のシャンデリア(左の写真)の下を腕を組んで歩くとかいった話しを教えられたことぐらいしか頭に残っていない。もちろん観客席や舞台の緞帳について歴史を感じたことは確かだし、2階バルコニー席に坐った私はとんでもない場違いなところに来ているのではないか?と思ったりした。

 『白鳥の湖』の内容については、ネットで検索すれば詳しく知れるので割愛する。要するに「最後に愛は勝つ」話である。
 ただ私個人はバレエの芸術を初めから終わりまで観たのがはじめてだったので、幾分戸惑った。オペラなら観に行く前に勉強したり、また歌声と表情で何かがこちらに伝わるものだが、バレエはダンサーが音楽に合わせてピョンピョン飛び跳ねて、舞台の床の音までトントン聞こえる音ばかりが耳に入り、踊りとストーリーとが一致しなくて、退屈になってしまった。さらに夕食のウォッカが効いて来て、幕が上がって10分ぐらい眠ってしまった。
 でも、目を覚ましたあとは、ちょうど音楽が激しくなり、道化役のダンサーが派手に回転していて、客席から大きな拍手が沸き起こったので、鈍感な私も「すげえ!」と声を発してしまった。ダンサー一人ひとりに魅せ場があって、その都度客席から「ブラボー」の声と大きな拍手が起こるのはオペラと変わらないのだな、と少し分かったものである。
 一旦、ダンスのすごさが分かったら、音楽よりもダンサーの身体の動きやパートナーとの阿吽の呼吸に目が行くもので、王子ジークフリートと夜に人間の姿になったオデットによるパ・ドゥ・ドゥ(フランス語で二人の踊り=jには声を失った。このパ・ドゥ・ドゥだけは、本当に観客席全体に割れんばかりの拍手が起こり、私も思い切り手を叩いた。たしかに、あの踊りは最高の名場面だった!
 2幕ではなく、3幕での公演だったので、気分的に少し冗長になったが、後ろのТさんと休憩毎に席を替わったりして、どうにか最後まで観た。

カーテンコール
 写真は王女オデット役(オディールと二役)のスヴェトラーナ・ザハーロヴァと、王子ジークフリート役のイーゴリ・ゼレンスキーである(これはカーテンコールの写真なので、私を演技中にシャッターを押すようなデリカシーのない人間だとは思わないでいただきたい(笑))。悪魔ロットバルト役のイワン・ポポフも好演であった。
 バレエ芸術のことや、劇場の休憩時間の過ごし方、バルコニー席のメリットとデメリット(横のボックスの派手なパーマの女性が身を乗り出せば舞台が見えなくなるなど)いろいろ分かって、とても勉強になった初めてのバレエ観賞であった。とてもいい経験になったと思う。
 ホテルに帰ってから、幸運なことがあった。マリインスキー劇場に来ていたのかもしれない、俳優の柄本明氏と同じエレベーターに乗り合わせ、氏に握手をお願いしたら快く応じていただけたのである。氏はNHK教育の芸術劇場の仕事もかねて、チェーホフの独白劇『たばこの害について』の公演でロシアを訪れていたのであった。

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