ハッチングの効用

ハッチングはデッサンの大きな要素の一つです。
線を同じ方向に引いて、影を表したり、質感を出したり、
空間や感情を表現するためにつかいます。
形をとっただけの絵にハッチングを加えると、絵に存在感が生まれてくるのです。
ハッチングの練習はすでにやりましたね。
忘れた方は　デッサン教室2lesson2　をご覧ください。

ここではデッサンにおけるハッチングの効果を学習します。

縦のハッチングは、見た感じ硬さを感じませんか？
これは重力を感じるためです。

風景画の中の建物や立木などの高さや存在感を表現するのに適しています。

横のハッチングも硬さを感じますが、縦よりも重圧感はありませんね。
これは横の広がりを感じるからです。
建物などの大きさを暗示させる効果があります。

縦線と横線は風景の中に見える物の形の基本的な要素ですから、
縦横のハッチングは、物を表すために使用します。

とても自由な動きが感じられますよね。
この斜めのハッチングは、風景の重力や広がりの力を受けないために
硬さがなく、空間に広がっていくような感じがあります。

この効果は影や、空間や感情を表現するのに適しています。

ものの影を入れるのにもっとも多用されるハッチングですね、
いろいろな画面でご覧になったことがあると思います。

三枚の中で一番堅牢に見えますね
これは影というより家の板壁のように
見えませんか。
そしてその壁が屋根を押し上げている
ような力強さを感じますね

この絵も影には見えませんね。
左に比べると硬さは感じられません
が、
丸太小屋の壁のように見えます。
横線も物の要素の一つだからです。

この壁は影に見えますね。
3枚のうちで一番やわらかく家の形に
なじんでいます。
これは斜めの線が物の形に強い影響
を与えないからです。
このため無理なく影を意識させてくれる
のです

ここでは世界の巨匠のデッサンを鑑賞しながらデッサンの勉強をしましょう
ここで使用する画像は、講談社の世界素描体系を参照にしたものです。

この絵には縦横斜めのハッチングが使われています。

縦横のハッチングはどこに使われているか分かりますか。

そうですね、聖母の座っている椅子の部分です。
縦線は椅子の足に使用され、しっかり聖母とキリストを支えています。そして横線は聖母の背を支えるように使われていますね。

そして斜めの線は、服のしわや椅子の敷物の部分に、あるいは顔の部分に影として使われています。

物と影の区別をはっきりとデッサンの上で示しているのがわかりますね。

また、体のふくらみに沿った服の線は、縦横の線に準じたハッチングで、物を強調しています。

この絵を見ていると今まで見てきたハッチングの意味がよく分かるのではないでしょうか。

コンスタブルは１９世紀イギリスのターナーと並ぶ風景画家。光を画面にとらえようとしたといわれています。

この絵はそのことを裏付けるようなデッサンですね。
ここでは斜めのハッチングが多用されています。
空のハッチングは大きな空気の流れを感じますし、
海の広がりや、浮かぶ船にさえ緩やかな斜めのハッチングが用いられており、全体として物より空気と光が強調されているのが分かりますね。
斜めのハッチングはこのように、物の形に縛られない自由な空気や気分を表してくれるのです。

レジェ　１８８１年フランス生まれ
パリでキュピズム運動に参加し、機会をモチーフとした抽象画を描きました。

この絵は人物を機械的な要素に分けて描いたもので、手のある部分を切り取ったものです。

ここでは、ダブルハッチングが多用されていますね。
これは、今まで見てきたハッチングの効果を互いに打ち消しあうことで無機質な感じを出すためです。
そしてそれは見事に成功していますね。

このように、ハッチングの効果を打ち消す方法があることも知っておくと便利でしょう。

ただ、この方法を多用しますと、動きの取れない硬い絵になってしまいますので、強調したいところや、深い影の部分などに効果的に使うことをおすすめします。

少し理屈っぽくなってしまいましたので、付け加えます。
ハッチングは絵を描いているあなたの心の現われですから、絵を描くときは理屈は忘れて、自分の心の動くままに線を引いてください。
やがてなれてくれば、形をとっているときと、ハッチングしているときの心の感じが違っていることに気付きます。
形をとろうとする心が開いて、自分の想いが自由に飛び出していく。
そんな感じが、ハッチングのときに生まれます。
その感じを楽しんでください。

ハッチングはなぞるように描くのではなく、勢いで描きます。
これが一番大切な心構えなのです。