奈良教育大学英語教育研究会平成17年度第3回例会 2005.10.22
小学校における英語教育と国語教育の連携−言語意識教育を通じて−
奈良教育大学大学院
吉田 伶子
- テーマ
小学校における英語教育と国語教育の連携−言語意識教育を通じて−
- 研究内容
現在、80%以上の公立小学校で英語活動が行われ(文科省15年度実績)、小学校からの英語教育への関心が高まってきている。しかし、一方で小学校から英語を教えるよりも、まず母語である日本語能力を鍛えた方がよいとの意見もでてきている(大津、茂木)。また、小学校から英語をすることは子どもたちの欧米への良いイメージをさらに助長させることにつながるという問題点を指摘し、小学校からの英語教育について反対している意見もある(津田)。しかし、こうした問題点を抱えながらも、小学校での英語教育は行われており、母語教育と外国語教育をどのように関連させていけばよいのかが課題の一つである。
だから、私は、この課題を扱うイギリスの言語意識教育や大津由紀雄のメタ言語能力、「にほんご」(福音館書店)をもとに、小学校での母語による言語教育を行い、そして、その後英語教育を行っていくようなカリキュラムを考え、その効果を検討してみたい。
- 私の考える言語意識教育の目的
T 言語意識教育を実施して、言語に対する意識を調査する。(調査項目は検討中)
調査項目案:@世界にはどのくらいの言語があるかなどを問う質問。
Aいろいろな外来語がそれぞれもとは何語であるかを考えて答えさせる質問。
@ 英語教育を実施していない学校
A 英語教育を実施している学校
U 言語意識教育のカリキュラムを日本の現状を交えて作り替える。
実践なし。
〈付属資料〉
○ 言語意識教育
背景:イギリスで始まったもの。イギリスは多言語国家で、特に都市部ではマイノリティーの子供たちが多く、英語の授業についていけなかったり、マイノリティーの言語に偏見を持たれている場合が多かった。また、そのための教師や地域社会との連携はもたれていなかった。
目的:子どもたちに子どもたちが普段気にかけていないような言語についての質問を問いかけることにより、言語に対する認識を高め、言語への偏見を取り除く。
方法:知識を教え込むのではなく、子供たちに問い掛けることから言語への気づきを高め、ペアワークなどの共同での調べ学習をすることで問題に取り組んでいく。
マイノリティーの子供たちの言語を学ぶ活動も取り入れ、マイノリティーの子供たちを授業の主役にする。
○ 大津の考える言語教育の目的
@ 言語は人間にだけ、しかも、人間に平等に与えられた、主の特性であり、個別言語間に優劣はないことを学習者に気づかせる。
A 言語の面白さ、豊かさ、怖さを学習者に気づかせる。
→「メタ言語意識」〈言語の構造と機能の基礎を理解させること〉
音韻構造、形態構造(語の構造)、統語構造(文の構造)、意味構造、文章構造、
誤用構造(上述の構造をどのように使うか)などの知識。
実践例:「新横浜」と「横浜」について。「新(しん)」と「横浜(よこはま)」が「新横浜(しんよこはま)」になる。
→ふたつの語が一緒になって新しい語ができると、発音(アクセント)も変わることを気づかせる。
B 言語を使って自己の思考を表現し、同時に、他者の言語表現の意図するところを的確に判断することの大切さを学習者に気づかせ,それを実践する力を養成する。
→言語運用能力
* 学習者の母語を対象に展開することが効果的。
→学習者自らが無意識的に豊かな言語知識を持っているということを実感できるのは母語をおいて考えられないから。
* 英語を特別扱いする態度からの脱却。
○ 「にほんご」(福音館書店)
文部省学習指導要領にとらわれない、小学校一年生のための国語教科書として、谷川俊太郎をはじめとする人によって作られたもの。言葉の豊かさを伝え、母語への感覚を鋭くさせるためのもの。今私たちの使っている言葉を地球上にあるたくさんの言語の一つ、日本語としてとらえている。自分の使っている言語が唯一絶対のものではないと知ることで、他の民族、他の文化、他人とのまじわりのむずかしさやおもしろさも子どもたちに気づかせる。
なお、当日の発表資料をごらんになりたい方は事務局までご連絡お願いいたします。過去の例会