奈良教育大学英語教育研究会平成17年度8月例会 2005.8.27
ライティング指導−効果的な指導法と評価方法−
奈良教育大学大学院・奈良市立三笠中学校
平谷 百合子
0 はじめに −「これでいいのかな」という疑問から−
- 「ライティング」という言語活動(英語活動)のとらえ方1
- ライティング活動のあり方
- ライティング能力の評価の仕方
- 実践的コミュニケーション能力とライティング能力の関連性
1 研究内容
中学校での英語教育の現在におけるライティング指導の位置づけ2や現状を明らかにし、それを踏まえて、ライティング指導の必要性と効果的な指導法について研究する。
2 研究計画
@教師を対象にアンケートを実施し、ライティング指導の現状と一位置づけを確認し、問題点を考察する。
A学習指導要領を見直し、中学生の学習段階に求めるライティングの到達目標を明確にする。
Bライティング指導において掲げられてきたさまざまな理論の文献を読み、その理論に基づいて、効果的な指導法を研究する。
(C生徒のライティング力の何をどのように評価するのか明確にする。)
D現場で実践し、その効果を検証する。
3 先行研究
(1)ライティングの認知プロセスモデルに関する先行研究より
(2)L2ライティングのプロセスに関する比較研究より
- 経験を積んだ書き手は、全体の計画を考慮しながら、要旨と談話構成をうまく結びつけるのに対し、中級・初級の書き手は、プロセスを制御できない。Cumming(1989)
- 日本人の熟達した書き手はL1やESLの熟達した書き手と似た特徴を示す。同様に、日本人の未熟な書き手は、L1やESLの未熟な書き手と同じ傾向を示す。Hirose and Sasaki(1994)
- 未熟な書き手ほど、表層レベルの書き直しが多く、語レベルで行われ、大きい単位のレベルは少ない。内容に対する教師の評価は重要性の低いものと捉え、表層レベルの誤りばかりに注意を奪われる。Porte(1996)
- L1よりL2の方が、言語レベルの処理(最も低次の処理過程)の割合が多く
(L1では、全体の50.7%、L2では77.4%)、L2ライティングのプロセスが言語レベルの処理にかなり制御を受け、高次の処理過程が抑制されていることがわかる。Whalen and Menard(1995)
(3)母語(L1)の利用に関する先行研究
- L2の学習者は、L1の利用して自分の認知的負担を軽減しようとする傾向がある。Uzawa and Cumming(1989)
- 綴りや文法法則など文章化に習熟していない学習者は、L1を使用することで、認知的な負担を軽減でき、より効果的にアイデアを産出することができる。Kobayashi and Rinnert(1992)
(4)L2言語能力が与えるL1ライティング能力への影響
- L2言語能力がL2ライティング能力の主要因である。
- L1ライティング能力がL2ライティング能力の大きな要因になるには、ある程度のレベル(threshold level 閾レベル)以上のL2言語能力が必要である。
Sasaki and Hirose(1996) / Hirose and Sasaki(1994)
- L1作文技術とL2言語能力は、L2ライティングにおいて、重要な要因ではあるが、互いに独立した要因であり、L2言語能力が、L2ライティング能力の付加要因(additional factor)である、と言える。Cumming(1989)
4 その他の文献よりー「ライティングとは何か」
(1)Sara Cushing Weigle Assessing Writing より
- social aspects of writing …生徒がおかれている社会状況に応じてライティング指導内容が異なり、いろいろな側面を持つ。
- cultural aspects of writing…思考の仕方や表現の仕方は文化によって異なり、それに応じてライティングにもさまざまな側面がある。
(2)『英語のディベート授業』(中嶋洋一著)より
- 書くことを重視している
論理的に話すためには、まず自分の考えがまとめられることが大切である。(略)書くという行為が頭を整理するのにとても役に立つ。なぜなら、自分の書いた内容の趣旨を即座に読んでも確認できるからだ。書き手と読み手という二役を同時にこなすということが、この「確かめる」という作業を可能にする。
(3)『言語技術教育の体系と指導内容』(三森ゆりか著)より
- 書くことの利点
@思考の訓練になり、思考力を鍛える
A思考能力が身に付く
B構成力がつく
C客観的なものの見方ができるようになる
D思考の整理ができるようになる
1 ・・・the traditional role of writing in a language classroom, ・・・is to support and reinforce the learning of oral cummunication of knowledge about the structure and vaocabulary of the language. (Sara Cushing Weigle (2002))
2 新学習指導要領 外国語 (抜粋)
第2 各言語の目標及び内容等
1 目標
(4)英語で書くことに慣れ親しみ、初歩的な英語を用いて自分の考えなどを書くことができる。
2 内容
(1)言語活動
イ 話すこと
(ウ)聞いたり読んだりしたことについて問答したり意見を述べあったりすること
エ 書くこと
(ア)文字や符号を識別し、語と語の区切りなどに注意をして正しく書くこと。
(イ)聞いたり読んだりしたことについてメモをとったり、感想や意見などを書いたりすること。
(ウ)自分の考えや気持ちなどが読み手に正しく伝わるように書くこと。
(エ)伝言や手紙などで読み手に自分の意向が正しく伝わるように書くこと。
※下線は著者によるもの
参考文献
小室俊明(2001)『英語ライティング論』河源社
望月昭彦 編著 久保田章・磐崎弘貞・卯城祐司 著 (2001)『新学習指導要領に基づく英語科教育法』大修館書店
中嶋洋一(1997)『英語のディベート授業』明治図書
三森ゆりか(1996)『言語技術教育の体系と指導内容』明治図書
J.T. ブルーアー 著 松田文子・森敏昭 監訳 『授業が変わるー認知心理学と教育実践が手を結ぶとき』北大路書房
Weigle, C. Sara. (2002) Assessing Writing Cambridge University press
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